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土俵の土について考える

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BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

ねぇ、ねぇ。ちょっと面白い記事見つけたのよ。土俵の土って産業廃棄物なの?
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どれどれ。「力士がまく塩を含むため産業廃棄物として処理される。」って書いてるね。さすが日本相撲協会は公益財団法人だけあって順法精神がしっかりしてるね。
第9回。「土俵の土について考える」 画像1

出典:2022年9月14日 読売新聞

でもさぁ。塩を含むっていったって「土」でしょ。海辺の土なんかは、たいてい塩を含んでいるんじゃないの?そんなんで産業廃棄物になるんだったら、海岸は産業廃棄物だらけになっちゃうよ。
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ん~、ここはちょっと解説が必要かな。りささんのその感覚は「自然、天然の物質」なら産業廃棄物にはならないのではないか?ってことかな。
さっきは漠然と思っただけだけど、整理していくとそういうことになるかな。
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じゃ、壊れた大谷石の門柱や木製の机なんかは廃棄物にはならないのかな?
ん~、それは廃棄物になる感じかなぁ。加工していればまだしも、素材そのもので使用していて廃棄するような場合は、なんとなく廃棄物処理法は適用しないような感覚かなぁ。どういうふうに線引きしたらいいのかなぁ。
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廃棄物処理法施行直後の通知にこんなのがある。
昭和46年10月16日 環整第43号
第一 総則的事項
二 廃棄物の定義
1 廃棄物とは、ごみ、粗大ごみ、汚でい、廃油、ふん尿その他の汚物又はその排出実態等からみて客観的に不要物として把握することができるものであつて、気体状のもの及び放射性廃棄物を除く、固形状から液体に至るすべてのものをいうものであること。
なお、次のものは廃棄物処理法の対象となる廃棄物でないこと。
ア 港湾、河川等のしゆんせつに伴つて生ずる土砂その他これに類するもの
イ 漁業活動に伴つて漁網にかかつた水産動植物等であつて、当該漁業活動を行なつた現場附近において排出したもの
ウ 土砂及びもつぱら土地造成の目的となる土砂に準ずるもの
2 一般廃棄物とは・・・(以下略)
この通知にも「土砂その他これに類するもの」ってあるじゃない。土俵の「土」だって、「これに類するもの」にあたるんじゃないの?
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ところが、具体的な疑義応答で次のものもある。

廃棄物の処理及び清掃に関する法律の疑義について
昭和54年11月26日 環整第128号・環産第42号
問24
鉄道の線路に敷いてある砂利を除去した場合、それは産業廃棄物か。
答 これを不要として排出する場合には、令第一条第九号に規定する産業廃棄物に該当する。
えぇぇ(◎o◎)、線路の砂利って天然の素材そのままよね。昭和46年の通知にある「しゆんせつに伴つて生ずる土砂」は、まだ「汚泥」かなぁって気もするけど、それよりももっと自然のままの素材って感じがする「砂利」が廃棄物??。
なにを、どんなことを「判断基準」にしていけばいいんだろうか?
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もちろん、再度素材として使用できる「有価物」であるなら話は別だけどね。
この疑義応答でも「不要として排出する場合には、」って一言言っているから。
それはわかるわ。有価物なら廃棄物処理法の対象外よね。でも、「有価物でも無いけど」廃棄物処理法の対象外ってどう考えていったらいいんだろうか?それがわかれば逆に「土俵の土」を廃棄物として扱う判断もわかる気がする。
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これはあくまでもBUNさんの「感じ」ではあるけど、国(旧厚生省)も廃棄物処理法スタート当時は「まぁ、だいたいでいいかぁ。現実に世の中で扱いに困っている物だけ対象にすればいいかぁ」的な感じでいたけど、その後の世の中が高度経済成長やらバブルやらで、どんどん廃棄物に関するトラブルが増加し、厳密に判断せざるを得なくなって、多少軌道修正したようにも思える。
でも、法令を改正したわけでも無いのに大きく運用を変えるわけにもいかず、最初の通知で形容詞的に使用していた「しゆんせつに伴つて生ずる」や「イ 漁業活動に伴つて漁網にかかつた水産動植物等であつて、当該漁業活動を行なつた現場附近において排出したもの」の表現を上手く変えてきたんじゃないかと思うんだ。
と言うと?
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当初は「その他これに類するもの」や「準ずるもの」として鷹揚に構えていたけど、現実的ないろいろな事案が持ち上がり、「土」に関しては、結局のところ現在では通知にある「しゆんせつに伴つて生ずる土砂」「土地造成の目的となる土砂」以外は原則、廃棄物処理法の適用が前提となる。
たとえば?
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「建設汚泥」というものがある。たとえば、トンネル工事などでは水分を多量に含む「土砂」が発生するんだけど、これなどは生産工程から発生する「無機性汚泥」と成分的には大差ない。加えて、一時に大量に発生するから、それをその辺に放置、排出されたら困る。このため、平成23年3月30日に出された建設廃棄物処理指針では「含水率が高く粒子が微細な泥状のものは、無機性汚泥(以下「建設汚泥」という。)として取り扱う。」としているんだ。
ふ~ん。水分の多い少ないで産業廃棄物になったり、廃棄物処理法が適用されない「土砂」になったりする訳ね。ちなみに「泥状の状態」ってどの程度のことなの?
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泥状の状態とは、「標準仕様ダンプトラックに山積みができず、また、その上を人が歩けない状態」だって言ってるね。
現場ではそれが分かり易い表現だけど、「基準」と言うか、数値的な表現はどうなの?
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ここは建設業界では重要ポイントだからね、ちゃんと書いてるよ。「この状態を土の強度を示す指標でいえば、コーン指数がおおむね200kN/㎡以下又は一軸圧縮強度がおおむね50kN/㎡以下である。」って示している。
でも、これって水分が多く含まれるから「汚泥」として扱えって言ってる訳でしょ。脱水というか水分を分離、除去したらどうなの?
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それについては、「ずり分離等を行って泥状の状態ではなく流動性を呈さなくなったものであって、かつ、生活環境の保全上支障のないものは土砂として扱うことができる。」ってことまで言ってるよ。
ほぉ、これってリサが勉強してきた廃棄物処理法の枠をはみ出す領域だわ。だって、廃棄物処理法を勉強して、最初に「物は有価物と廃棄物に分類される。そして廃棄物は一般廃棄物と産業廃棄物に分類される。」って教わるじゃない。ところが、「土砂」に関しては、産業廃棄物を処理して「廃棄物では無い物」に変わるってことよね。
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そうだねぇ。実は世の中には「一般廃棄物でも産業廃棄物でも無い。有価物とも言いがたい。」という「物」は存在している。
たとえば?
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廃棄物処理法第2条では次のとおり規定している。
(定義)
第二条 この法律において「廃棄物」とは、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であつて、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く。)をいう。

これで明白なのが括弧書きに登場している「放射性物質」。それに「固形状又は液状のもの」とあるから「気体」が除かれるのは明白。
それは最初に紹介してもらった昭和46年の通知でも明白よ。知りたいのは「その他プラスα」の部分よ。
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そのプラスαについてもさっきの通知で述べてある。「廃棄物とは、その排出実態等からみて客観的に不要物として把握することができるもの」とあるよね。よって、この範疇から外れる物は、「廃棄物処理法対象外の物」となる。その例示として、「土砂」や「漁で網に引っかかってしまった物」なんじゃないかなぁ。
ん~、この通知以外の「廃棄物処理法対象外の物」ってどんなものがあるの?
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たとえば、「生物」がそうかなぁ。活性汚泥のような肉眼では「生物」とわからない微生物は除くけど、「要らない」として犬や猫を捨てたとしても、廃棄物処理法の不法投棄罪は適用しないでしょ。空き地に生い茂っている「雑草」も「要らない」「不要だ」とみんな認識していても土地の管理者は不法投棄罪で告発されないでしょ。
第10回。「土俵の土について考える」 画像2
ほぉぉ、言われてみればそのとおりね。他には?
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「建築物」もそうかな。いくら所有者が「不要だ」と認識していても廃棄物処理法は適用されない。近頃問題になっている「空き家」でも不法投棄罪を適用したこと無いでしょ。
なるほど。
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まぁ、建築物には種々の事情があって、「建ってるうちは廃棄物処理法を適用しない。解体するからがれきや木くずといった廃棄物が発生する。したがって、解体工事から発生する廃棄物の排出者は解体工事の元請であり、もともとの解体建築物の所有者では無い」としている訳だね。
第10回。「土俵の土について考える」 画像3
第21条の3第1項の規定ね。なるほどねぇ。ところで、最初の疑問に戻って「土俵の土」。この疑問に答えて。「自然物」「天然の物」はどこから廃棄物処理法の適用を受けるか?
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まぁ、今まで話してきたことを総合的に勘案していくと、BUNさんは次のように考えている。 「いくら、自然の物、そのままの状態であっても、一旦、人間の占有下に入った物は廃棄物処理法の対象になる。」
それが「線路の敷き砂利」であったり、水分を多く含む「建設汚泥」であったりする訳ね。例示が多く有った方が判断の足しになるわね。もっと境界線の「物」例示して。
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「欲しがり」だなぁ。そうだなぁ。たとえば、石屋さんから排出される「木っ端石」は素材としては自然界の「石」そのものだけど廃棄物処理法の対象となる。一方、植林した山でも「倒木」は廃棄物処理法の対象にしていない。「動物」も生きているうちは廃棄物処理法の適用は無いけど、死んでしまったら「動物の死体」として対象になる。もうだいぶ前の記事だけどこんな事件もあったよ。
第10回。「土俵の土について考える」 画像4

出典:2014年11月2日 読売新聞

酷い事件ね。産業廃棄物20種類の中にも「動物の死体」ってありますからね。これが廃棄物であることは明白ね。そして生きているうちに飼育を放棄していたとしても廃棄物処理法違反にはならないってことも肌で感じるわ。
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ちなみにこの犬の死体は排出者が「ペットショップ」とあり、「畜産農業」ではないことから、一般廃棄物となるね。
と言う訳で、実は世の中には「廃棄物処理法の対象外」となる「物」があるってことはわかっていただけたかな。
条文の定義に書いてある「放射性物質」「気体」は明白なんだけど、この他に「排出実態等からみて客観的に不要物として把握することができないもの」もある。その例示として通知では「浚渫時の土砂」や「土地造成に使用出来る土砂」「漁の時に網に引っかかってしまった物」等を挙げている。さらにBUNさんの経験から「生き物」「建築物」などがこれにあたる。ってことかな。
一方、いくら元々「天然の素材」であっても一旦人間の占有下におかれたものは廃棄物処理法の対象になる。レールの敷石、動物の死体、建設汚泥なんかがこの例ね。
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そんな整理でいいと思うよ。
となると、今回の記事から出た疑問。「土俵の土」などは、元々自然の土ではあるけれど、一旦人間の支配下におかれ、さらに「塩を添加」という加工がなされて「不要」となって廃棄されるとなると、やはり廃棄物処理法が適用される。種類として一番妥当なのが「汚泥」。相撲興行は「事業活動」。よって、「土俵の土」は産業廃棄物の「汚泥」として適正処理のルートに乗るべき物ってことになる訳ね。
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今回は廃棄物処理法の不文律。「一般廃棄物でも産業廃棄物でもない物体」「廃棄物処理法の対象外の物体」の概念まで勉強しましたね。
スポーツ欄の記事でこんなに廃棄物処理法を勉強出来るなんて思ってもみませんでした。次回も面白そうな記事を探してきますね。
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次回はもっと簡単な記事にしてちょうだいな(^_^;)

(2023年02月)

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