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水質汚濁防止法違反について考える

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BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

ねぇ、ねぇ。ちょっと聞いていい?今、先輩に指示されて過去の新聞記事を整理しているんだけど、この記事はどこに整理したらいいの?
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どれどれ。これかぁ。廃棄物処理業界に携わる身としては、結構ショックな事件だったね。この事件はいろんな要素があり、そして教訓にしなければならないこともいくつかあったよ。じゃ、記事を見ながら当時を思い出して、整理していって見よう。
第11回。「水質汚染防止法」 画像1

出典:2019年1月24日 中日新聞

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まず、記事の冒頭に出てくるけど「水質汚濁防止法違反」とある。次に「食品廃棄物」、「リサイクル会社」、「社長、工場長代理」、「堆肥化」、「指示」、「常態化」、「マニュアル」、「学校給食」、「スーパーや飲食店」、といったキーワードがいくつも出てきているね。
そう、だから整理に困っているのよ。廃棄物処理法のファイルか、その中でも「産業廃棄物」のファイルなのか「一般廃棄物」のファイルなのか?はたまた廃棄物処理法ではなく「環境法令」のファイルなのか、「リサイクル」のファイルなのか?
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BUNさんの表芸が廃棄物処理法だからということでも無いんだけど、結論から言うとやっぱりこの事件は「廃棄物処理法」のファイルが妥当かな。
でも、どうして?逮捕されたのは水質汚濁防止法なんでしょ。
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直接の逮捕容疑は水質汚濁防止法だけど、そもそも水質汚濁防止法で排水の基準が適用になるためには、水質汚濁防止法第2条第2項を受けた政令第1条の別表第1に規定する「特定施設」に該当しなければならないんだ。
水質汚濁防止法政令別表ね。実は今度、公害防止者の資格試験受けようかと思って勉強してたところなんだ。その特定施設っこの↓71の4号「イ」かな。

七十一の四 産業廃棄物処理施設(廃棄物の処理及び清掃に関する法律第十五条第一項に規定するものをいう。)のうち、次に掲げるもの
イ 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令第七条第一号、第三号から第六号まで、第八号又は第十一号に掲げる施設であって、国若しくは地方公共団体又は産業廃棄物処理業者が設置するもの
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おぉ、すごいね。
簡単よ。別表で「産業廃棄物処理施設」って登場するのはこの号しかないもの。(^ー^)
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でも、残念。早とちりだったね。該当する処理施設を今度は廃棄物処理法政令で確認してご覧。
えぇーと1,3,4,5,6,8,11号ね。あれぇ?汚泥の脱水、焼却、油水分離、中和、シアンの分解施設だ。食品残渣の堆肥化施設に該当しそうなものがないわ。
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そうだね。記事には詳細が出ていないから想像、推察だけどここは71の4じゃないようだね。おそらく、11号じゃないかな。
十一 動物系飼料又は有機質肥料の製造業の用に供する施設であって、次に掲げるもの
イ 原料処理施設
ロ 洗浄施設
ハ 圧搾施設
ニ 真空濃縮施設
ホ 水洗式脱臭施設
なるほど。たぶんそうね。
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水質汚濁防止法はこの号数によって適用になる「規制物質」やその「濃度」が変わるから注意が必要だよ。
勉強したはずなんだけどなぁ。この規制基準って自治体の「上乗せ条例」もある時があるから、特に注意しなければならない事項だったわ。
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でも、この間違いはけして無駄じゃ無いよ。さっきのところで注目したと思うけど、じゃ、この施設、事業者は廃棄物処理法の規制は受けないんだろうか。
産廃処理施設じゃない、つまり廃棄物処理法第15条の処理施設の設置許可の対象では無いってことはさっき確認したけど、14条、つまり処理業の許可ね。
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そこだね。でも、さらなる突っ込み。「14条産業廃棄物処理業の許可」でいいかな。
ちょっと待って、さっき拾い出したキーワードの中に「食品廃棄物」、「学校給食」、「スーパーや飲食店」というのがあったわね。食品廃棄物、すなわち動植物性残渣は指定業種があったわね。たしか、産廃になる業種は食品・医薬品・香料製造業の3業種に限定されていたはず。となると、「学校給食」、「スーパーや飲食店」から出てくる動植物性残渣だから一般廃棄物、事業系一般廃棄物ね。そうなると、14条じゃ無くて7条の一般廃棄物処理業の許可が必要となるのね。
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そのとおり。ただ、記事には登場していないけど食品製造業からの残渣も受け入れていたとすれば14条産業廃棄物処理業の許可も必要となるよ。そして、忘れていけないのは・・・・
8条。!!一般廃棄物処理施設設置許可ね。
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そのとおり。勉強したね。
一般廃棄物処理施設設置許可は、15条の産業廃棄物処理施設設置許可と違って、処理施設の種類は問わず、なんでもかんでも一般廃棄物なら1日5トン以上の処理能力で設置許可の対象になるんでしたよね。
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そのとおり。これが最初に話した「入れるんだったら廃棄物処理法ファイル」という趣旨。
なるほど。逮捕容疑は水質汚濁防止法だったけど、そもそも「動植物性残渣の堆肥化」という廃棄物の処理をやっていなければ、水質汚濁防止法に該当しない。特定施設としては「11号 動物系飼料又は有機質肥料の製造業の用に供する施設」。そして記事には登場しないけど、この事業者は廃棄物処理法の7条一般廃棄物処理業許可、8条一般廃棄物処理施設設置許可、14条産業廃棄物処理業許可は取っていたものと思われるってことね。
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すごいね。さらにもう一つ。「食品廃棄物」、「リサイクル会社」のキーワードで気がつくことはないかな。
食品リサイクル法の登録ね。「国内最大規模」ってスケールなんだから、登録も取っていてもおかしくないわ。
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ここまでの推察はいいと思うよ。じゃ、次の課題に進もうか。「社長、工場長代理」、「指示」、「常態化」、「マニュアル」これらのキーワードに関係してくる罰則、行政処分という面を見ていこう。実は、さっきの記事から数週間後に次の記事が出たんだ。
第11回。「水質汚染防止法」 画像2

出典:2019年2月16日 日本経済新聞

事業停止処分かぁ。働いている従業員はかわいそうだとは思うけど、当然と言えば当然よね。事業が継続すれば、基準を超過した排水も継続して流される訳だし。
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この記事でもキーワードはいくつかあるよ。「廃棄物処理法に基づき施設停止処分」、「元社長」、「社員」、「起訴」、「略式起訴」、「略式命令」、「罰金」などかな。
さっき整理したことと考え合わせると、刑事罰の方は水質汚濁防止法違反で「会社」「(元)社長」「社員」が起訴され、社員、この人はさっきの記事では「工場長代理」ですよね。この人は既に略式命令で罰金50万円が確定したのね。
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略式命令というのは、通常の裁判によらず、書面の審理のみで罰金・過料を言い渡す特別な裁判手続で次の要件が満たされるときのようだね。「100万円以下の罰金または科料を科す事件であること」「被疑者が略式手続による審判に書面で同意していること」(他1つは略)
と言うことは、社員の方は違反、罪を認めて、そのうえで罰金50万円になったってことね。でも、社長の方は「略式」ではない。と言うことは、社長は罪を認めていないとか、想定される罰が罰金100万円以上とか禁錮、懲役刑ってことになる訳ね。
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そのようだね。これが刑事罰ってことだけど、これについては後で再確認しましょう。行政処分は?
こちらは記事を見る限りは「処理施設」についてだけ、停止処分がかけられたようねぇ。
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これも推察でしか無いんだけど、おそらく毎日の給食からの残飯を処理することは大変なことで、違う受け皿を関係者は探し回ったと思う。その別の処理施設に運搬する際にも収集運搬業は必要。そんな現実的なこともあり「業許可」については「とりあえずそのまま継続」させたのかもしれないね。
どうしてそんなことまで推察できるの?
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実はこの事件はさらに数週間後の記事がある。それがこれ↓
第11回。「水質汚染防止法」 画像3

出典:2019年4月8日 循環経済新聞

へぇぇ、結局、許可は取り消されたのか。さっきの記事では停止処分をかけたのが2月15日から3月1日まで。その後3月22日に許可取消にしたんですね。取消にしたのはさっきの整理のとおり、一廃処理業、一廃処理施設設置、産廃処理業ね。産廃処理施設設置許可の記載が無いのは、そもそも産業廃棄物処理施設設置許可の対象施設ではないからってことですね。すなわち、廃棄物処理法に関する許可は全部取り消したってことですね。
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そうだね。想像だけど、逮捕から許可権限者としての市役所、給食供給者としての市役所、その他の民間の排出事業者も大変な業務だったと思うよ。給食の残飯は毎日出るうえに腐っていくからね。でも、やはり、そのままにしておくことは出来ない。毅然と行政処分するしかないね。そして、さらなる課題が・・・といきたいけど、今回は長くなったのでつづきは次回としましょうか。
不謹慎かも知れないけど、なんかドキドキしてきた。この事件、結末としてはどうなったのかな。別の記事もあったはずなので調べておきます。ということで、続きは次回をお楽しみに。
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(2023年04月)

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