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水質汚濁防止法違反について考える その2

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BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

今回は数年前に名古屋で起きた水質汚濁防止法違反事件について見てきています。まずは前回も見ていただきました次の記事。
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第12回。「水質汚濁防止法違反について考える」 画像1

出典:2019年4月8日 循環経済新聞

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前回は、この見出しにある「各種許可の取消」という行政処分について確認したんでしたね。そして課題として残されたのが・・・・。
記事の最後に書いてある「措置命令」ね。
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命令日が3月22日。履行期限が7月31日。ほぼ4ヶ月で滞留、保管していた動植物性残渣を処分しなさい、という命令だね。記事には命令対象者は「K社」だけしか記載していないけど、措置命令の対象者って法令上はどんな人がなるんだっけ?
これは上司からしっかり勉強しておけって言われたことなので覚えているわ。行為の張本人は当然だけど、この不正行為に関わった収集運搬業者や排出事業者よね。排出事業者は不正行為に携わっていなかったとしても、廃棄物処理法に規定している委託契約書やマニフェストを法令通りにやっていないと措置命令の対象になるんでしたね。たしか、第19条の5でした。
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よく勉強したね。一般廃棄物の場合は第19条の4なので委託契約書やマニフェストの適用は無いけど、産業廃棄物については大正解。この事件では排出事業者への措置命令はなかったようだけど、現実的にはだいぶ「協力」を求められたんじゃ無いかなぁ。
廃棄物処理の事件ではよく言われることだけど、「排出者責任」よね。「排出者のあなたがあの人に頼まなければこの事件は起きなかったんですよ。」「排出者のあなたが廃棄物を出さなければこんなことにはならなかったんですよ。」はさすがに建前論だとしても、「あなたがちゃんと処理施設を見ていて、能力を超えて受け入れているんじゃないか、と判断していれば、これ程の事態にはならなかったんですよ。」と言われればグーの音も出ないわ。やはり、現地確認は必要よね。
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さて、この事件もいよいよ終結を向かえた。
第12回。「水質汚濁防止法違反について考える」 画像2

出典:2019年5月9日 中日新聞

社長と会社は略式じゃ無かったのね。懲役6ヶ月、執行猶予3年、法人に罰金50万円ね。でも、これほどの事件なのに、最近の廃棄物処理法違反の不法投棄なんかと比較すると「軽い」って感じるなぁ。
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それは、水質汚濁防止法での検挙だから。水質汚濁防止法の排水基準違反は罰則第31条第1項第1号で最高刑で「6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金」なんだ。だから、この刑は法律で規定されている最高刑なんだよ。
現在、廃棄物処理法の不法投棄や無許可って、廃棄物処理法第25条で「5年以下の懲役又は1000万円以下の罰金」よね。懲役刑で10倍、罰金で20倍の違いがあるのかぁ。じゃ、ある意味、この人物は不法投棄でなく、水質汚濁防止法で検挙されてラッキーだったね、とも言えるかも。
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そんな言い方は不謹慎だと思うけど、他の環境法令と廃棄物処理法の罰則の格差は法律家の間でも注目されているみたいだね。最後におまけのような記事を紹介。
第12回。「水質汚濁防止法違反について考える」 画像3

出典:2019年2月18日 循環経済新聞

第12回。「水質汚濁防止法違反について考える」 画像4

出典:2019年4月15日 循環経済新聞

食品リサイクル法の登録も取消・・・・あれ?こちらは「廃止届出を受理」って書いてあるわね。どういうこと?
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環境省は行政処分の指針の中でも、不適正行為、違反行為には厳正に対処すること、と書いてある。その上で、「司法の判断を待つこと無く、行政処分は行うべきだ」とも書いてある。
具体的には?
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廃棄物処理法では水質汚濁防止法をはじめ環境法令や廃棄物処理法違反で罰金以上の刑に処せられたときは欠格要件に該当して、必ず許可取消に繋がる。しかし、現実問題として懲役・禁錮刑はもちろんながら、罰金にしても裁判をして判決が下るまでには早くて数ヶ月、上告されれば何年とかかる。その裁判結果を待っててもいいのかってこと。
たとえば、許可業者が不法投棄したのが明白なのに裁判結果が出るまで、その許可をそのままにしておいて商売させてていいのかってことね。そんな明白な違法行為なら裁判結果を待っているんじゃ無くて、許可権限者である行政は自分の権限である「許可取消」という行政処分をいち早く行うべきだってことね。それは納得するわ。
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この事件では残された食品残渣の後始末もあり、措置命令と取消処分は逮捕から2ヶ月を要した。それでも、積極的に「許可取消」という行政処分を行った。ところが、食品リサイクル法の登録に関しては「取消」ではなく「廃止届の受理」という形。ここは、2月の審議官のコメントどおり、廃棄物処理法の許可権限者である名古屋市とも歩調を合わせて3月の時点で「登録取消」と対応するべきじゃなかったかなぁと。
まぁ、それはお役所で考えるべき事よね。さて、それではこの事件のまとめをして、記事をどのファイルに入れておくか教えて下さいな。
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刑事罰については水質汚濁防止法違反として、社長については、懲役6ヶ月、執行猶予3年。法人については、罰金50万円。社員(実行行為者)については、略式裁判により、罰金50万円。これは現在の水質汚濁防止法の排水基準違反としては法定の最高罰。
忘れてならないのは、いくら上司(社長)から命じられたとしても違法行為の実行行為者(社員、工場長代理)はやはり懲罰の対象になる。
行政処分としては廃棄物処理法関連で(新聞報道により推測)
1.一般廃棄物処理施設停止命令(第9条の2)、その後4の取消へ。
2.一般廃棄物収集運搬業許可取消(第7条の3)
3.一般廃棄物処分業許可取消(第7条の3)
4.一般廃棄物処理施設設置許可取消(第9条の2の2)
5.産業廃棄物処分業許可取消(第14条の3の2)
6.一般廃棄物措置命令(第19条の4)
7.産業廃棄物措置命令(第19条の5)
食品リサイクル法は
1.登録再生事業者登録廃止届(省令第11条第5項)
と言ったところでしょうか。
この会社も名古屋に進出したときは期待された優良企業だったんでしょうけどね。期待が大きすぎて受入を断れなくなったのかなぁ。それで能力オーバーして。それをカバーするために裏マニュアルまで作成して社員にやらせていた。関係者は気づいていなかったのかなぁ。最初の新聞記事では「5年以上前から汚水を海に・・・」と書いてあるし、警察は逮捕の数ヶ月前から既に何回もサンプリングしていたみたいだから、気がついていた人は気がついていたのかも。
この事件を排出事業者側から見ると、いくら契約書やマニフェストと言った書類だけ整備していても防ぐのは無理よね。やっぱり、適時現地確認して、自分自身で「悪臭はしていないか」「汚水は出ていないか」「過剰保管にはなっていないか」「処理能力オーバーはしていないか」といったことを確認する。さらに地元行政機関との意見交換も出来ることならやっておきたいわね。まさに法令で規定されている「排出事業者の責務」ですね。
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と言うことで、この1年は新聞記事を斜めに読んで、本来その記事が伝えようとした事項以上のことを、廃棄物処理法の視点で眺めてみました。
もう1年経つんですね。コロナの記事、有害廃棄物の地下埋設、海外の廃プラスチック、ゴミ屋敷、紙おむつ、災害廃棄物に許可証偽造。それに「土俵の土」なんていうのもあったわね。皆さん、いかがだったでしょうか。新聞の見方が変わりましたか?
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これでこのシリースは一旦終了です。でも、面白い記事や事案があったらBUNさんに教えて下さい。では、またどこかでお会いしましょう。シーユーアゲイン(^.^)/~~

(2023年05月)

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