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「許可証偽造事件を考える」

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BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

BUNさん、BUNさん、こんな記事が出てたんですよ。産廃の許可証を偽造したなんてとんでもないことだと思うんだけど、これは廃棄物処理法第何条違反になるんですか?
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「許可証偽造事件を考える」画像1

出典:2021年12月4日 西日本新聞

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ほっほー、この事案かぁ。これには続きがあるので、まずは、こちらも見てからにしようか。
「許可証偽造事件を考える」画像2

出典:2022年3月24日 朝日新聞福岡版

結局、許可取消になったのね。でも、取消の時の記事には許可証偽造の件は触れてないわね。
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取消を行った行政機関、すなわち、許可権限者がそれを取消理由にはしなかったからじゃないかな。許可取消処分をした時は必ず行政機関は、それを公表するのでそれも見てみようか。
ちなみに、どうして取消の時は「必ず」公表するんですか?
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取消を知らずに排出事業者が委託をしてしまうと、今度は排出事業者の方も「無許可業者委託」という違反になってしまうからなんだ。じゃ、折角なので、今回の県庁公表文(抜粋)を見てみよう。

産業廃棄物処分業者に対する行政処分について
 T株式会社(以下「T社」という。)は、令和元年11月から約2年にわたり、許可範囲外の産業廃棄物の処理を受託していたため、法第14条の3の2第1項第5号の規定に基づき、行政処分(許可取消し)を行いましたので、お知らせします。
1 処分対象者
(途中略)
 (2)許可内容
  事業範囲:中間処理(造粒固化(路盤材又は覆砂材として再生する処理に限る。))
   燃えがら、ばいじん(以上2品目については、石炭火力発電所から排出された石炭灰
   に限る。)
(途中略)
3 処分の理由
 T社は、許可範囲外の産業廃棄物の処分を受託する契約を4社と締結し、令和元年11月から約2年にわたり、計2万5千トン以上を処分した。
このことは、法第14条の2第1項の規定に違反する無許可の事業範囲変更であり、法第14条の3第1号の規定に該当し特に情状が重いため、法第14条の3の2第1項第5号に規定する許可取消事由に該当する。
県庁の公的な取消理由にも許可証偽造の件は触れてないわね。露見したときの新聞記事には書いてあるのに。ちょっと解説してみて。
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BUNさんも新聞記事と県庁で公表したことしか知らないので、不確実な部分もあるけどやってみますか。
まず、取消理由は「許可範囲外の産業廃棄物の処分」としているね。この違反はわかるかな。
これについては公表文に「法第14条の2第1項の規定に違反する無許可の事業範囲変更」と書いてあって、この「事業範囲の変更」については基礎知識で勉強したわ。そうそう、振興センター(JW)のテキストにも掲載している。たしか、・・・この頁ね。
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「許可証偽造事件を考える」画像3
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で、そもそも「事業の範囲」ってなにかな?
たしか、その許可で扱える産廃の種類と処理の方法よね。たとえば、「廃プラスチック類の焼却」の許可を持っていても種類が異なる「汚泥の焼却」や処理方法が異なる「廃プラスチック類の破砕」はできないってことでしたね。
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そのとおり。収集運搬業の許可だと「積替保管の有無」も「事業の範囲」だったね。
全く許可を持っていない人物が他者の廃棄物の処理を行うのが「無許可」。許可は曲がりなりにも持っているけど、「事業の範囲」を逸脱する行為をやっていると「無許可変更」、すなわち、「事業の範囲の変更」を行わずにやっちまってるって考えでしたよね。これは排出事業者側も委託しちゃうと違反になるから、契約するときにはしっかり確認しておく必要があるって勉強したわ。
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そうだね。だから、委託契約書には受託側の業者の許可証の写しを添付しておかなければならないって規定まである。ところが、今回の事案は、その許可証を偽造していたってことのようだね。
それじゃ、排出事業者側は不可抗力よね。
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たてまえとしては、「現地確認して」とか「許可権限者に確認して」とか言えるけど、現実には許可証を偽造された上、扱っていた物が許可されている産業廃棄物と類似のものであった今回のケースでは、排出事業者側としては不可抗力って言えるかもね。
まぁ、現実的な生活環境保全上の支障は無かったようなので、そこは不幸中の幸いって言えるかも。
確認、今回の廃棄物処理法違反は「無許可変更」、第14条の2第1項違反だね。ちなみに、もし扱っている「物」が特別管理産業廃棄物だったり、一般廃棄物だったりすると・・・・
その時は全くの「無許可」でしたね。廃棄物処理法では処理業の許可は「普通産廃収集運搬」「普通産廃処分」「特管産廃収集運搬」「特管産廃処分」「一廃収集運搬」「一廃処分」が独立した別許可になっている。だから、いくら普通産廃の許可を持っていても、特別管理産業廃棄物や一般廃棄物を扱った時は「無許可」になるってことでしたよね。さて、そろそろ最初の私の疑問に答えて下さいな。どうして許可証偽造については触れていないの?
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廃棄物処理法の条文では「許可証を偽造してはならない」という規定は無い。マニフェストや行政から求められたときの18条報告書などは「虚偽の報告をしてはならない」という規定はあるんだけどね。
えぇー、それって社会常識からいくとなんか不公平な感じがするぅ。
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いやいや、過去の「許可証偽造」事件では、廃棄物処理法違反は問われなくても、詐欺罪で有罪になった例はあるから、けして不公平ってことじゃないよ。ただ、詐欺罪は刑事処分、許可取消は行政処分ということはあるけどね。刑事処分、行政処分は「別物」ではあるけど、今回の行政処分でも、許可証偽造という行為は社会通念から言っても悪質だって事もあり、「特に情状が重い」として取り消したのかもしれないね。
まぁ、そんな事情も有り、公的な建前上の理由としては、廃棄物処理法の許可を取り消した理由は、廃棄物処理法違反である「無許可事業範囲の変更」としたのかもしれないね。
「業」に関する行政処分としては「許可取消」以上の処分は無いから、これで必要十分ってことなのかしらねぇ。
ところで、その「事業の範囲」なんだけど、この会社の「事業の範囲」って「燃えがら、ばいじん」の「造粒固化」よね。新聞記事によると、違反してやっていた行為は「バイオマス発電所から排出された燃えがら、ばいじん」の「造粒固化」でしょ。括弧書きで「石炭火力発電所から排出された石炭灰に限る」とはなっているけど、なんか、あんまり悪いことじゃないような感じを受けるんだけど。そもそも、こんなニッチに限定的な「事業の範囲」って見ないんだけど、こんな許可ってあるんですか?
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国は許可の出し方については法令が大きく改正される度に通知を出している。(直近は令和2年3月30日。趣旨が変わらない程度に抜粋して紹介します。)

第1 産業廃棄物処理業及び特別管理産業廃棄物処理業の許可について
1 許可の申請
申請に係る事業の範囲は、(中略)取り扱う産業廃棄物の種類(中略)により、処分業にあっては中間処理(中略)の内容(中略)。このうち、取り扱う産業廃棄物の種類については、申請に係る施設によっては取り扱うことができない性状の産業廃棄物があることに留意し、必要に応じて、例えば「汚泥(含水率何パーセント以下の無機性のものに限る。)」のように限定するものであること
(中略)
11 許可証の交付
(1) 産業廃棄物収集運搬業及び産業廃棄物処分業の許可証(中略)の「事業の範囲」の欄に記載する産業廃棄物の種類の具体的記載については、処理業者が関係者に対し、取り扱う産業廃棄物の種類を明確に示すことができるように、次の例により行うこと。(中略)
① 燃え殻の場合
燃え殻(判定基準に適合しないもの及び特定有害産業廃棄物であるものを除く。)
(後略)
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このように許可証の「事業の範囲」には、「施設によっては取り扱うことができない性状の産業廃棄物があることに留意」して「処理業者が関係者に対し、取り扱う産業廃棄物の種類を明確に示すことができるよう」な表現にして下さいってなっている。
へぇー、たしかにいくら廃プラスチック類の処理施設でも、シート状の廃プラスチック類を切断する施設では、塩ビ板を粉々に破砕するのは無理がありますものね。そういうときは単に「廃プラスチック類の破砕」と記載するのでは無く「プラスチック製シートの切断」のような表現にした方がいいですよってことですね。
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公表されているこの会社の事業の範囲を見ると「造粒固化」とあり、この括弧書きに(路盤材又は覆砂材として再生する処理に限る。)とある。推察するに、この会社の許可申請時の事業計画では、リサイクル製品として世の中に通じる品質のものとするには、「石炭火力発電所から排出された石炭灰」と限定せざるを得なかったんでしょうね。
どうして「石炭火力発電所から排出された石炭灰」と限定せざるを得なかったのかしら。
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あくまでも推測だけど、石炭火力発電所の燃え殻は、産地や品質等によってセレンや鉛、六価クロム、ヒ素辺りが出る可能性もあるけど、資源有効利用促進法でも再利用が求められていて、JIS灰と呼ばれるJIS規格に合致して堂々と使えるものもある。
大量に出る、均質といった特性もある。そんな事情から限定したのかも知れないね。
なるほど。いくら「燃え殻」の許可があると言っても、バイオマス発電所の燃え殻は扱えないってことね。
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これも推察だけど、処理能力やアウトプットのリサイクル製品の造立固化物の需要も限られた量だったんじゃないかぁ。地元との協定なんかもあったのかもしれない。
軌道に乗って業務拡大したいってことだったら、正規の手続きを踏んで変更許可申請すればよかったのに、と思ったけど、そんな事情も有ったのかもね。
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あくまでも個人的な推測だけどね。
それにしても許可証の偽造はいかにもまずいね。
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そうだね。廃棄物処理法の許可証偽造ほどばれやすい違反は無いと思うよ。だって、委託契約書には許可証の写しを添付しておかなければならないから多くの排出事業者の手元に偽造許可証が行く。さらに、その排出事業者は委託する度にマニフェストを交付する。そして、年に一度はマニフェストの実績報告を行政に提出する。当然、行政は立入検査や報告を受け取るときに、「ここは、こんな許可は出ていないのでは?」って気がつくよね。
排出事業者にとっては前述の通り不可抗力って面もあるけど、時々は行政や他の業者排出事業者と意見交換したりして、こういった事件は起きないようにしたいものよね。
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(2022年07月)

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