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紙おむつについて考える

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BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

BUNさん、BUNさん、こんな記事が出てたんですよ。わたしの知り合いのおばぁちゃんも紙おむつしているんだけど、その始末は結構大変だって言ってたから、これで少しは楽になるかもね。
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紙おむつかぁ。紙おむつは廃棄物の処理っていう面でも、科学的にそして法律的にもなかなか難しい点があるんですよ。
8回紙おむつについて考える 画像1

出典:2022年8月30日 読売新聞

へぇぇ、興味あるわ。どんなこと?
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まず科学的には記事にもあるけど、紙おむつは吸湿性が高いがうえに、使用後は水分を吸って重くなる。そして、一旦吸った水分は簡単にこぼれたんでは役に立たないために、それを処理する時には脱水がしにくくなる。それになんと言っても対象が人間のふん尿と言うことで衛生上の課題もある。
そうかぁ。水分が多いと焼却炉で燃やすときにもなかなか燃えなくて燃料が嵩むことになるわね。それに記事にもあるとおり、そのままで運搬しようと思うと重くて嵩張るから運送料も高くなってしまう。科学的な面という要素は感覚的にも理解出来るわ。じゃ、法律的な面についても教えて下さいな。
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これはいくつかポイントがある。まず、紙おむつは廃棄物となった時は品目としては何になるかな?
産廃20種類で言えば、紙おむつなんだから「紙くず」?
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記事にも「吸湿ポリマー」って言葉が出てくるよね。これで分かると思うんだけど、名称こそ「紙おむつ」だけど実質は合成樹脂、すなわち材料のほとんどはプラスチック類なんだ。
と言うことは、廃棄物になったときは廃プラスチック類ね。と言うことはよ、「紙くず」なら指定業種の関係から一般廃棄物だけど、「廃プラスチック類」なら排出の業種は関係しないので産業廃棄物ってことなの?
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その疑問が次のポイントに繋がる。果たして紙おむつを「排出している形態」は「事業活動を伴っている」と言えるのか?ってこと。
そうかぁ。産業廃棄物の大原則「事業活動を伴って」が検討課題になるってことね。
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元々の排出者は、もちろん、この紙おむつを使用したお年寄りとなり、典型的な「国民一人一人の消費生活」からの排出なので一般廃棄物となります。ところが、記事のように「介護施設から排出」となると、「介護施設の事業活動に伴って」の排出と捉えることも可能、となります。
あっ、この理論展開は聞いたことある。たしか「BUNさんのごみ箱理論」ね。デパートのごみ箱に捨てられたごみの排出者は誰か?って理屈ね。
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覚えてくれていてありがとう。デパートに設置してあるごみ箱に客がごみを入れる。この時点では排出者は間違いなく「客」。ところが、ごみ箱に入れられたごみをデパートが集積して、デパートから出す段階では、排出者は「デパート」としているのが現実的な運用だね。すなわち、排出時点をどこと捉えるかで排出者が替わり、一般廃棄物が産業廃棄物に衣替えしてしまう。
その話もどっかで読んだなぁ。そうだ、そうだ何年か前にこのメルマガで連載した「定説、妄説」、それを単行本にした「対話で学ぶ、廃棄物処理法」に書いてあったわ。こんなところで、ちゃっかり宣伝しちゃって。
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ばれたか(^o^)まぁ、そんな訳でこの「排出者がすり替わる」については、拙著で確認してみてね。紙おむつにはさらなる課題があるんだ。
まだあるの?なに?
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それは人間の「ふん尿」という課題。リサさんは廃棄物処理法をだいぶ勉強してきているみたいだけど、第17条にはどんなことが規定されていたかな。
17条。産廃処理業許可は14条、処理施設は15条、排出事業者の責務は12条、不法投棄は16条、18条が報告徴収で19条が立入検査・・・・。17条かぁ「和を以て貴しとなす」とか規定しているの?
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それは聖徳太子でしょ。17条は「ふん尿の使用方法の制限」という条文なんだよ。
(ふん尿の使用方法の制限)
第十七条 ふん尿は、環境省令で定める基準に適合した方法によるのでなければ、肥料として使用してはならない。
へぇぇ、「処理方法」じゃなく「使用方法」の制限なの?じゃ、ふん尿は廃棄物じゃなく有価物なのかなぁ。
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実はこの規定こそ廃棄物処理法の誕生に関わっていることなんだ。廃棄物処理法の前の法律が清掃法。清掃法の前の法律が汚物掃除法って言うんだけど、この汚物掃除法は明治33年、西暦でいうとちょうど1900年に誕生している。なぜ、汚物掃除法が誕生したかというと、明治維新により鎖国が解かれて西洋の文物が大量に流れ込んだ。ところが良い物だけでなく悪い物も流れ込んできた。その代表が伝染病。今は感染症というようになったけど、コレラとか赤痢とか天然痘とかだね。この時大流行したのがコレラで多くの日本人が命を落とした。伝染病予防法を作って対処したんだけど、個々の患者の対応だけで無く、もっと世の中の公衆衛生を改善しないと根幹的な解決には至らない、そこで汚物掃除法が制定されたんだよ。だから人間の糞便の対応は重要なことだった。ところが、当時は肥やしとして糞便は貴重な存在。そこで、「価値があるけど規制しなければならない物」として「ふん尿の使用方法の制限」という条文が成立。それを引き継いできたのが清掃法であり廃棄物処理法なんだ。
長い講釈だったわね。でも、糞便の扱いには慎重にならなければならないってことはわかったわ。
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「ふん尿の使用方法の制限」については以上とおりなんだけど、不要なし尿については、さっきも話したとおり本来は「国民一人一人の消費生活」からの排出なので一般廃棄物としている。廃棄物処理法の第2条では一般廃棄物は具体的には規定せずに「廃棄物であって産業廃棄物以外の物」と規定しているのに、第8条では「し尿処理施設」を一般廃棄物処理施設として規定している。これで判ると思うけど、廃棄物処理法制定者の頭の中では「人間のし尿は具体的に定義しなくとも一般廃棄物」ということになっていることがわかるよね。
それで、昔から廃棄物処理法に携わっている人は「し尿は一般廃棄物」と刷り込まれているのね。
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そうだねぇ。だから、し尿を産業廃棄物として扱うとなると廃棄物処理法の制度の根幹を揺るがす大問題になると思うよ。記事では紙おむつに付着した「便と尿は下水道に流す」としているから問題にはならないけど、これが下水道を通していない地域ではどうするんだ?となるねぇ。
浄化槽法で規定している「浄化槽」なら問題ないと思うけど、「リサイクル工場の水処理施設で処理する」となると第8条に規定する「し尿処理施設」の設置許可が必要なんじゃないかってなる訳か。難しいね。
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ということで、紙おむつが抱える課題は結構多いよね。
最後に整理してみるね。
科学的課題として水分を大量に含む。
そのため、運搬や焼却処理、埋立の際は処理経費が嵩む。
脱水するにも簡単には脱水出来ない。
公衆衛生的には病原体の感染のリスクがある。
法的課題としては、排出者を誰にするか。
「物」は性状として廃プラスチック類と「し尿」。
排出者を個々の使用者とすれば使用済み紙おむつは一般廃棄物。
排出者を介護施設とすれば使用済み紙おむつ自体は廃プラスチック類として産業廃棄物。
しかし、し尿については一般廃棄物。

以上のことから、他者の使用済み紙おむつを「業」として扱うときは、一般廃棄物処理業の許可、または、産業廃棄物処理業の許可、または、その両方の許可が必要となる。
それを受け入れる処理施設もケースによっては、一般廃棄物処理施設の設置許可、産業廃棄物処理施設の設置許可が必要になるってことね。
いやぁー紙おむつは難しいですね。
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次回はもう少し簡単な記事を見つけてきてね~~(^^)/

(2022年12月)

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