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「産業廃棄物の種類」その1<動物系固形不要物>

BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

このシリーズは、廃棄物処理法の条文に明示していないような事柄について、定説と伴にBUNさんの主張(自説や妄説)を聞いていただくという企画です。
前回で一旦終了のつもりで「しーゆーあげいん」と書いたのですが、極々一部のフアンの方から、継続のリクエストをいただきました。どうもありがとうございます。そんなわけで「定説」「妄説」をあとしばらく続けることになりました。またまた、しばらくの間お付き合いいただけますと幸甚です。(^o^)/
 一応、「定説」とされているレベルの箇所には<定説>と明示し、BUNさんの独りよがりと思われるようなところには<自説>、さらに根拠が薄いなぁというようなところには<妄説>と明示して話を進めていきます。
 読者の皆さんも、<定説>部分は信じてもかまいませんが、<妄説>の箇所は盲信することなく、眉に唾を付けて読んで下さいね。
 さて、今回からは新たなテーマ「産業廃棄物の種類」について、あ~でもない、こ~でもないと述べていきたいと思います。
なお、この「産業廃棄物の種類」は、もう5年前になりますが、このメルマガの最初「基礎知識編」でも取り上げています。それと重複したり、それとは異なる(?)ことを述べたりするとは思いますが、お時間のある方は是非、バックナンバーを紐解いて頂き「基礎知識編」も参照してみて下さい。
と、言うことで、通常は「産業廃棄物の種類」と言えば、法律、政令に出てくる「燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物(法律第2条第4項)」という順番で取り上げていくのが正攻法だと思うのですが、それではちょっと説明しにくい要因があります。
それは何かといいますと、廃棄物処理法がスタートして約30年位は産業廃棄物の種類は19種類、平成13年に1個追加されて現在は20種類ということです。
BUNさんはしばしば「産廃20種類で・・・」という言い回しをするのですが、平成13年までのエピソードでは「産廃19種類で・・・」となるからです。
この唯一追加された産業廃棄物について最初に取り上げることにより、なぜ、産業廃棄物はこのような種類に分けているのかも説明しやすくなるので、トリッキーではありますが、最初に「もっとも新しい産業廃棄物」について取り上げてみましょう。

<動物系固形不要物>
<定説>
 「もっとも新しい」と言っても早20年ほど経ちますが、それは「動物系固形不要物」と呼称されている産業廃棄物です。
正式には政令第2条第4号の2で規定する「と畜場法第三条第二項に規定すると畜場においてとさつし、又は解体した同条第一項に規定する獣畜及び食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律第二条第六号に規定する食鳥処理場において食鳥処理をした同条第一号に規定する食鳥に係る固形状の不要物」ですが、あまりに長いのでこれを「動物系固形不要物」と呼ぶことがこの規定が出来た時の附則の経過措置の中で規定されています。
皆さんは動物系固形不要物を見たことはありますか?
今となっては獣医師さんと、この処理にあたっている人以外は滅多にお目に掛からないと思います。

<自説>
 (以下の話もほぼ定説と捉えて頂いていいのですが、BUNさんは獣医師や薬剤師ではありません。聞きかじりの箇所もあるので「自説」としておきます。)
平成13年に「狂牛病騒動」というものが起きました。牛の脳みそがスカスカになり立ったり歩いたりできなくなる症状が出る病気のようです。人間に起きるクロイツフェルト・ヤコブ病と同じような病気のようです。
そしてその原因が、「牛に牛を食べさせるから」というのです。
「牛は草食だから肉は食べないのでは?ましてや共食いなどしないのでは?」と思った人も多いでしょう。
自然界ではそうなのかも知れませんが、畜産業においては、乳牛の乳の出が良くなるように、肉牛の肉付きが良くなるように、と、人の食用にならなかった牛の部位を加工し飼料として牛に与えていたのです。
この加工した飼料を「肉骨粉」と呼んでいます。
BUNさんはこの騒動の時に初めて「肉骨粉」を見たのですが、牛の部位をまずミンチ状にして、油で揚げて天かすのようにしたものでした。
この騒動以降、農林関係の法改正等もあり、「牛に牛を食べさせる」ことは禁止しました。
「狂牛病」(現在は、正式には「牛海綿状脳症(BSE)」と呼ぶようです。)の原因となる部位もわかってきました。具体的には眼球や小腸の一部のようです。
そこで、と畜場の段階でこういった牛の部位を取り除くこととなったのです。
その取り除かれる牛の部位が「牛の危険部位」であり、これが「動物系固形不要物」です。
なお、現在は「食鳥に係る固形状の不要物」も「動物系固形不要物」に含まれます。
「食鳥に係る固形状の不要物」も「牛の危険部位」同様のリスクがあるのかはよくわかりません。ネットでちょっと調べても明確な解説が見つかりませんでした。
ちなみに、友達の獣医師の話では、「食鳥は不要になる部位はほとんどない。リスクも無く、現実には食肉はもちろん、羽毛の原料、飼料の原料として活用されている。」とのことでした。

引き続き<自説>
 前述の「牛の危険部位」とともに、病気やケガで死亡した牛や豚は人間の食肉には出来ません。
しかし、通常の食品製造業から排出される「動植物性残渣」(産廃)や飲食店から排出される食べ残し(一廃)とは、大きさや形状が極端に違います。わかりやすい例としては、牛一頭、豚一頭が病気で死んだとします。通常の焼却炉に投入出来ますか?最終処分場に何頭も埋められますか?なかなか難しいのです。
ちなみに、畜産農業から排出される「動物の死体」は政令第2条第11号で規定されていますので「動物系固形不要物」とは違う種類に区分されますが。
これらには、特殊な「受け皿」が求められることが判っていただけると思います。この特殊な受け皿が平成13年までは「肉骨粉製造施設」だったのです。牛一頭がそっくり入るような、大きなミンチの機械、さらにそれを天かすに揚げるような大きな釜、こういった施設が必要な訳です。
平成13年までは貴重なタンパク源として、飼料として「肉骨粉」は有価物として販売されていました。
アウトプットで販売代金の収入がありますから、その原料となる「死亡獣畜」のほとんどは買い取られていました。だから廃棄物処理法の適用を受けずに流通出来ていた。(もちろん、廃棄物処理業の許可を取って、処理料金を徴収してやっていた業者さんもいました。)
それが、狂牛病のためアウトプットとしての、商品としての、有価物として流通する道が閉ざされてしまいました。当然、インプットとしての原料を買い取っていたのでは事業は成り立ちません。
したがって、前述の、動物の死体・「牛の危険部位」→解体・天かす→肉骨粉という処理ルートが閉ざされてしまうことになります。
しかし、このルートが無くなると現実社会としては必ず発生してしまう「動物の死体・「牛の危険部位」」の行き先が無くなってしまいます。
そのため、今までは有価物としての「肉骨粉」を、廃棄物としてでもいいから受け取ってくれる「処理施設」を確保する必要に迫られました。
しかしそうは言っても、大量に「生産」されてくる「肉骨粉」を直ちに受け取ってくる「廃棄物処理業者」が存在している訳ではありません。昨日までは有価物である飼料として、多くの畜産農家に買い取られていた量ですから。
そこで、国の施策として「市町村の焼却炉で引き受けてくれ」と要請を行い、いくつかの自治体では緊急避難的に廃棄物である「肉骨粉」の処理をしてくれたところもありました。
しかし、このことは一時のことではなく長く将来的にも続くことです。そこで最後の頼みの綱となったのがセメント工場です。

<妄説>
(以下の話は確かな情報ではありません。前後の経緯からBUNさんが推察して、想像して執筆した箇所もあるので「妄説」としておきます。)
セメント工場は大量の原料、燃料が必要になります。そのキャパシティは莫大です。
ただ、当時、当然ながらセメント会社は廃棄物としての「肉骨粉」を処理する許可は持っていません。
だから、そのままでは引き受けることができません。
さらに、それを処理する施設としての設置許可も有していません。
それを理由にセメント会社も受入を渋ったものと思います。
しかし、ここで受け入れて頂けないとなると肉骨粉の行き場所、すなわち、死亡獣畜と牛の危険部位の処分先が無くなってしまいます。
そこで、国(具体的には環境省や農水省だと思いますが、全国民といってもいいのかもしれません)は拝み倒した訳です。
「処理業の許可も、処理施設の設置許可も取らなくていいから、なんとか受け取ってくれ」と。
それが、現在でも継続している「環境大臣再生利用認定制度」な訳です。(その中の1品目)
環境大臣再生利用認定制度(産廃は第15条の4の2、一廃は第9条の8)は前述のようにこの認定を受ければ日本全国で処理業の許可も処理施設設置許可も不要になるという制度です。(現実には、この認定を取るためには業許可、施設許可と同等の基準が求められるのですが。)
そのため、この認定は通常の処理業の許可や広域認定以上に公共性が求められているようです。
まぁ、言ってみれば「商売になるからやりたい」では認定は降りず、「国民が困っているから、なんとか引き受けてくれ」という事案でないとなかなか認定は降りないようです。

<定説>
こういった時代背景、状況の下に誕生したのが「動物系固形不要物」という20番目の産業廃棄物です。
前述のように、物理的性状は「動植物性残渣」と同じものなのですが、大きさや処理手法、処理ルートが大きく異なっています。
携わる人や施設も限定的です。
そのため、処理業許可制度も特例的な規定を設けています。(前述のセメント工場の「環境大臣再生利用認定制度」もそうなのですが、)一般廃棄物については省令の第2条第11号、第2条の3第11号、産業廃棄物については第9条第10号、11号、12号、第10条の3第8号などの規定がこれにあたります。
代表して第9条第10号、11号、12号を紹介しておきましょう。

省令第九条  (産業廃棄物収集運搬業の許可を要しない者)
法第十四条第一項 ただし書の規定による環境省令で定める者は、次のとおりとする。 十  食料品製造業において原料として使用した動物に係る固形状の不要物(事業活動に伴つて生じたものであつて、牛の脊柱に限る。)のみの収集又は運搬を業として行う者
十一  と畜場法第三条第二項 に規定すると畜場においてとさつし、又は解体した同条第一項 に規定する獣畜及び食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律第二条第六号 に規定する食鳥処理場において食鳥処理をした同条第一号 に規定する食鳥に係る固形状の不要物(事業活動に伴つて生じたものに限る。)のみの収集又は運搬を業として行う者
十二  動物の死体(事業活動に伴つて生じたものであつて、畜産農業に係る牛の死体に限る。第十条の三第八号において同じ。)のみの収集又は運搬を業として行う者

<妄説>
なぜ肉骨粉はそれまでの産業廃棄物19種類の種類ではだめだったんだろうか?
わざわざ20番目の種類を起こしたのはどうしてか?
それはおそらく、他の種類の産業廃棄物とは処理の手法が大きく違っているため。
そもそも考えてみれば、なぜ、産業廃棄物の種類は19種類必要だったんだろうか?
それはおそらく、処理の手法が違っているため。
すなわち、廃棄物の処理方法が、「燃やす」と「埋める」の二通りしかないのなら、廃棄物そのものの種類は「燃やすごみ」と「埋めるごみ」の2種類で必要にして十分となる。
処理方法が異なっているからこそ、種類を違うものにしておく必要がある。
廃酸とガラスくずでは、その処理方法が違う。汚泥と木くずでは、その処理方法が違う。だから、こういう廃棄物は違う種類にしておかなければならない。
少なくとも廃棄物処理法がスタートした昭和45年に当時の法律を作った人達の頭の中では19種類の異なった処理方法があったのだろう。

<定説>
これは5年前の「基礎知識編」で記載したことですが・・・
処理方法が違う。だから、違う種類にしなければならない。その廃棄物について確かな技術と知識を持っている人物に処理をやらせよう。
このように、廃棄物の種類-処理基準-処理業許可・処理施設という規定が密接に結びついているルール。それが本来の廃棄物処理法だったんですね。

本日のまとめ
本来、廃棄物の種類-処理基準-処理業許可・処理施設という規定が密接に結びついている。
動物系固形不要物は他の産業廃棄物とは違う処理ルートとなる。だから、違う産業廃棄物の種類とする必要がある。これが、廃棄物処理法50年間で唯一正式に追加された「動物系固形不要物」の背景。
動物系固形不要物とは「牛の危険部位」。

(2020年05月)

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