大栄環境グループ

JP / EN

「産業廃棄物の種類」その10<紙くず、繊維くず、金属くず>

BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

このシリーズは、廃棄物処理法の条文に明示していないような事柄について、定説とともにBUNさんの主張(自説や妄説)を聞いていただくという企画です。
 一応、「定説」とされているレベルの箇所には<定説>と明示し、BUNさんの独りよがりと思われるようなところには<自説>、さらに根拠が薄いなぁというようなところには<妄説>と明示して話を進めていきます。
 読者の皆さんも、<定説>部分は信じてもかまいませんが、<妄説>の箇所は盲信することなく、眉に唾を付けて読んで下さいね。
 さて、「産業廃棄物の種類」をテーマに、あ~でもない、こ~でもないと述べてきましたが、今回は「金属くず、紙くず、繊維くず」について取り上げてみましょう。

<定説>
紙くず、繊維くずについて、判断に迷うケースはそう多くないと思いますが、まずは2つまとめて条文で確認しておきましょう。
政令
一 紙くず(建設業に係るもの(工作物の新築、改築又は除去に伴つて生じたものに限る。)、パルプ、紙又は紙加工品の製造業、新聞業(新聞巻取紙を使用して印刷発行を行うものに限る。)、出版業(印刷出版を行うものに限る。)、製本業及び印刷物加工業に係るもの並びにポリ塩化ビフェニルが塗布され、又は染み込んだものに限る。)
三 繊維くず(建設業に係るもの(工作物の新築、改築又は除去に伴つて生じたものに限る。)、繊維工業(衣服その他の繊維製品製造業を除く。)に係るもの及びポリ塩化ビフェニルが染み込んだものに限る。)

紙くず、繊維くずともに「建設業に係るもの」と指定業種、最後にPCB汚染物の規定がなされています。
「建設業に係るもの」は木くずの時にも解説しましたが、特に解体工事からは大量に発生してしまうことから産業廃棄物として追加されてきた経緯があります。
ちなみに、紙くずの「建設業に係るもの」の代表選手は障子紙やふすま紙。繊維くずの「建設業に係るもの」の代表選手は天然畳の畳表などです。

<自説、ほぼ現実的対応>
とは言うものの現実にはグレーゾーンもありまして、最近は「合成繊維」や表面加工された「ラミネート紙」となると、廃プラスチック類かなぁとか迷いますよね。結構古典的な事例としては、麻とレーヨンの混紡の作業着などが機械製造工場などから排出された、なんて時です。レーヨンは廃プラスチック類なので排出業種を問わずに産業廃棄物。一方、麻は天然繊維ですから、前述の条文のとおり「繊維工業」から排出された時は産業廃棄物ですが、機械製造業から排出された時は一般廃棄物。だから、この作業着を廃棄物として出すときは「一般廃棄物と産業廃棄物は分別して委託しなければならない」となって大変。
まぁ、現実にはどちらかを「混在」として扱うしかないと思うのですが。(この辺の詳細は拙著「どうなってるの?廃棄物処理法(日環センター)」でご確認の程。CM(^o^))
畳も実は建前上は判断が難しい物の一つです。前述のとおり、天然畳は畳表はイ草の編み物ですから繊維くずとしていますが、畳床は藁なので動植物性残渣。だから、建設工事を伴わない「畳替え」として排出されると一般廃棄物。でも、解体工事に伴って排出される場合は産業廃棄物。
まぁ、最近の畳は畳床は発泡スチロール、畳表も合成繊維が多いので、これだと疑いなく廃プラスチック類になるので、どういう形態で排出されようと「事業活動を伴って」いれば産業廃棄物となりますねぇ。

「産業廃棄物の種類」その10<紙くず、繊維くず、金属くず>画像1「産業廃棄物の種類」その10<紙くず、繊維くず、金属くず>画像2

<引き続き自説、ほぼ定説>
PCBの付着、汚染も時代とともに改正、追加されてきた規定です。昭和46年のスタート時点ではこの文言はなかったのですが、間もなくしてPCB騒動が起きます。PCBの多くはトランスやコンデンサの電気絶縁体として使用されていまして、小さなトランスやコンデンサには紙や繊維も使用されているんですね。機械いじりが好きな方はご存じでしょうけど、コンデンサの絶縁体なんかは一枚の紙で済ませている物もある。

「産業廃棄物の種類」その10<紙くず、繊維くず、金属くず>画像3

PCBは「米ぬか油事件(興味のある方、詳細はネットで検索してね)」までは、「夢の素材」とまで言われていた。油で液体だから容器の形状を問わずに入ってくれる。電気を通さない。さらに油なのに引火点がとても高い(火が付きにくい。火事になりにくい。)といった素材としては優れた性質があり、いろんなところに使用されていたんですね。特に紙については複写紙にも使用されていたので、大量に出てしまう。これは排出業種を限定するわけにはいかないとして、最後の文言を追加した経緯がありました。
つい最近ですが、家庭で使用されていた蛍光灯の安定器にもPCBが使用されていたことがわかりました。ところが、特別管理一般廃棄物としてのPCB廃棄物は、「電子レンジ、テレビ、エアコン」の3製品しか規定していない。よって、この「家庭で使用されていた蛍光灯のPCBが使用されている安定器」は普通の一般廃棄物(特別管理一般廃棄物ではない)としてちょっと話題にもなっていましたね。
閑話休題

<妄説>
金属くずについても、判断に迷うケースはそう多くないと思います。条文では単に「金属くず」としか規定していません。排出業種などは規定していないです。よって、事業活動を伴って排出される「金属くず」は産業廃棄物ということになります。

<自説>
紙くず、繊維くず、金属くずで現場で時折質問があるのが「専ら再生4品目」です。
「専ら再生」がなされている時は、処理業の許可は不要という扱いですね。
この「専ら再生」についてはいろんな専門家の方も、いろんなところで、昔からコメントしているようですが、BUNさんの見解はちょっと違うところがありますので、この機会に。
「専ら再生」なら許可不要という根拠は、次の条文です。

法律第十四条 産業廃棄物(中略)の収集又は運搬を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域(中略)を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、事業者(自らその産業廃棄物を運搬する場合に限る。)、専ら再生利用の目的となる産業廃棄物のみの収集又は運搬を業として行う者その他環境省令で定める者については、この限りでない。

この「ただし書き」の部分です。
なお、廃棄物処理業の許可は一般廃棄物収集運搬、同処分、普通の産業廃棄物収集運搬、同処分、特別管理産業廃棄物収集運搬、同処分の6種類ありますが、この「専ら再生利用」という文言は特別管理産業廃棄物には登場しません。この点は後述します。

さて、この条文だけから見ると、「4品目」とは限定していないですよね。なぜ、「4品目」となっているのか?それはこの通知なんです。
廃棄物の処理及び清掃に関する法律の施行について
昭和46年10月16日 環整第43号
各都道府県知事・各政令市市長宛 厚生省環境衛生局長通達
第三 産業廃棄物に関する事項
四 産業廃棄物処理業
2 産業廃棄物の処理業者であつても、もつぱら再生利用の目的となる産業廃棄物、すなわち、古紙、くず鉄(古銅等を含む)、あきびん類、古繊維を専門に取り扱つている既存の回収業者等は許可の対象とならないものであること。

この通知の中で「紙、くず鉄(古銅等を含む)、あきびん類、古繊維」と限定列挙しているんです。そこで、この4品目を「専ら再生4品目」と呼称しているんです。この4品目、特別管理産業廃棄物になるような物はないでしょ。そのため、特別管理産業廃棄物処理業の許可条文の「ただし書き」からは、この「専ら再生の目的となる・・・」という文言が抜けているんですね。
さて、しかし、普通産廃でも一廃の許可条文でも、前述のとおり法律の条文では4品目などということは一言も言っていない。4品目というのは当時の厚生省の局長が通知で言っているだけなのです。
そのため、この「専ら再生」を巡っては度々裁判にもなったようです。
近年では「茨城木くず裁判」が有名ですが、この「専ら再生」について争った裁判としては最高裁までいった昭和56年1月の「廃タイヤ裁判」がよく引用されるようです。この判例は「茨城木くず裁判」の平成20年の高裁再審でも支持されているようです。この詳細に興味のある方は「特別刑事法犯の理論と捜査(立花書房)、城祐一郎著」をご覧下さい。

と、このように法律の条文としては「4品目」とは明示していないが、国の通知と判例により、(今のところはこの)4品目で落ち着いているようです。
ただし、この判決でも、「技術水準に照らし再生利用されるのが通常である産業廃棄物」という文言が入っていますから、時代の推移とともに技術水準が向上すれば、判断基準や結論も変化して再び「4品目とは限らないのでは」という裁判もあり得るかもしれないですね。

<妄説>
もう一つ、「専ら再生4品目」で主張しておきたいことがあります。
世の中の専門家のコメントを見ると、この点を指摘している方があまりいません。
それは、通知で言明しているのは「産業廃棄物」についてだけなんですね。一般廃棄物については、言及していないんです。
前述の昭和46年10月16日の通知の内容は、令和2年3月30日の通称「許可事務通知」にも引き継がれています。(第1、15(1))。一文一句同じです。
これは、一般廃棄物は市町村の自治事務であるという要因によると思われるんですが、私が調べた限り、平成12年に自治事務に改正される以前の固有事務の時代から、この通知に関しては国は産業廃棄物についてしか言っていないようなんです。
でも、許可条文の作りが全く同じであることや、科学的性状が全く同じであること、最高裁判決の趣旨(昭和56年1月27日「廃タイヤ裁判」)などを踏まえて、ほとんどの市町村では、一般廃棄物についても同様の運用をしてきている。
実はこれは大変なことなんです。と言うのは、廃タイヤ裁判でも木くず裁判でも争われたのが産業廃棄物でしたから、一義的には都道府県の、最終権限は旧厚生省、環境省の権限の問題です。
ところが、一般廃棄物については市町村の自治事務です。あくまでも最終権限まで市町村です。おそらく、全国約1700市町村の中で、「専ら再生」について、公式な通知を出しているところはほとんど無いと思います。
だから、もし、法律の条文を根拠に4品目以外の一般廃棄物について「専ら再生利用の目的となる一般廃棄物を扱っているんだ」と裁判を起こされたとき、果たしてどのように戦っていくのか。個人的には興味のあるところではあります。
「下取り」もそうですが、この「専ら再生4品目」も通知で運用しているんですね。法律の根拠が極めて希薄です。本当なら国にこのあたりのことは明確に法律の条文で示してもらいところではありますが、廃棄物処理法施行から半世紀。半世紀もやってきて世の中が大きな支障なく廻っているんだから、これでいいのかもしれませんね。

紙くず、繊維くず、金属くずもなかなか難しいですね。

(2021年03月)

PAGE TOP