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「産業廃棄物の種類」その11<廃棄物の種類と処理基準>

Author

BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

 このシリーズは、廃棄物処理法の条文に明示していないような事柄について、定説とともにBUNさんの主張(自説や妄説)を聞いていただくという企画です。
 一応、「定説」とされているレベルの箇所には<定説>と明示し、BUNさんの独りよがりと思われるようなところには<自説>、さらに根拠が薄いなぁというようなところには<妄説>と明示して話を進めていきます。
 読者の皆さんも、<定説>部分は信じてもかまいませんが、<妄説>の箇所は盲信することなく、眉に唾を付けて読んで下さいね。
 さて、「産業廃棄物の種類」をテーマに、あ~でもない、こ~でもないと述べてきましたが、今回で一応の締め括りとして「産業廃棄物の種類」と「処理基準」について述べてみようかと思います。

<処理基準>
<自説>
「処理基準」なんて言うと、「廃棄物処理法の政令第6条で政令第3条を準用する・・・」となりますが、要は「正しい処理の仕方」ってことです。
だから、世の中の「正しい」という認識、レベルが変わると「処理基準」も変わります。
BUNさんが経験した期間で実感したのは「焼却」です。
平成9年以前、いわゆる「ダイオキシン騒動」が起きるまでの日本は「焼却」については「おおらか」でした。
郊外のたいていの家では「ごみ焚き」をしていました。昭和生まれの方は記憶にあると思いますが、学校の校庭の隅にも焼却炉があって、燃えるごみはそこで燃やしていました。

<定説>
平成9年改正までの「廃棄物の焼却」の基準は一般廃棄物も産業廃棄物も政令第3条第2号「イ」(産廃は第6条第2号イでこれを準用)した「焼却は焼却施設で焼却しろ」これだけだったんです。
しかも、その「焼却施設」の詳細は全く規定していない。だから、ドラム缶の蓋を取ったようなものでも「これは焼却施設だ。現に廃棄物を焼却しているではないか。」という結果論を主張されれば、それはそのとおり。「焼却施設とは煙突があること」などという規定もなかったのですから。
そもそも、面白い(?)ことに当時の「処理基準」として規定しているのは、収集運搬基準や埋立基準はそれなりに文章があるのですが、埋立以外の「処分基準(つまり「中間処理基準」)」は産業廃棄物は前述の「一般廃棄物の基準を準用する(規定の例によること)」という規定だけ。一般廃棄物のそれは、イ、焼却は焼却施設で。ロ、保管の規定、ハ、一般廃棄物処理計画に基づいて、ニ、し尿処理汚泥の規定の4事項を政令で規定しているだけ。そして省令は全くないのです。

<自説>
当時、田舎の監視員をしていたBUNさんは「野焼き」に悩まされていました。しっかりとした焼却施設を建設するには当時でも15条の設置許可が対象だったんですが、「しっかりとしていない」焼却施設は設置許可の対象にはなっていなかった。だから、しっかりとした焼却施設で焼却している「ちゃんとした」処理業者さんには「基準に合わせて焼却してください」と言えたのに、野焼きしている処理業者には強く言えない。まさに「正直者が馬鹿を見る」状態だったんです。
まぁ、久米宏が騒いでくれたおかげで、「廃棄物を焼却する時にはちゃんとした焼却炉で」ということが、日本人の常識になりましたねぇ。
だから、現在は、焼却の処理基準として省令第1条の7として、詳細な「基準」が規定されるようになりました。
焼却に関しては「たばこ」の方がもっと身近に実感していただけるかな。
30年ほど前の日本では、たいていの「事務室」に灰皿がおいてありました。
保健所の事務室にさえあったのですから、他の業種は当然あったと思います。列車にも灰皿が付いていました。BUNさんはそもそもタバコは吸わなかったので、隣で吸われると迷惑でしたし、大掃除の時に天井や蛍光灯を拭くと雑巾がヤニで真っ黄色になりまして「大掃除は喫煙者でやるべきだ」と主張していました。
当時は、「タバコはどこでも吸うものだ」という「常識」でしたから、社会としてはルールはなかった訳です。ところが、これがここ30年の間で、事務室は禁煙、喫煙は喫煙室に限定、そして敷地内禁煙、公共の場所では禁煙といろんなルールが出て、今やこのことは日本人の「常識」「ルール」になっていると言えるでしょう。
これが「正しい」というレベル、認識があるから「基準」ができるんですね。
廃棄物の処理基準も同じ事で、世間が求めていないようなことに基準を作る必要はありません。
社会が困って、支障があるから「基準」を作るんですね。
だから、困らなくなったら基準は撤廃すればいいんでしょうけど、社会はどんどん高度化して複雑になります。だから、廃止される法令、基準もめったに無いのが実情です。
廃棄物処理法などはその典型的なルールで、追加されることはあっても廃止されるルールは滅多にありません。いくら「規制緩和」といっても、その規制は、少なくともそれが作られた時代には必要であったから規制されたわけですから。

<妄説>
だから、20年ほど前に小泉首相が「規制改革」を唱えて、日本全国、あらゆる「制度」について規制を改革、緩和しようとした訳ですが、廃棄物処理法ではなにをしたでしょうか?
私が知る限りは、法律はもとより、政令、省令レベルでさえ、「廃止」した条項は無いと思います。
ほとんどが「通知」で対応です。
ただ、この「通知」でも、「手元マイナスなし崩し通知」とか、それなりに影響はあったのですが・・・
昨今の法令改正でも、いかにも「規制緩和」的な改正はあります。たとえば、優良認定業者の保管量上限拡大とか親子会社規定とかは規制緩和とか言われていますね。
でも、本当に規制を無くすのであれば、「産業廃棄物の保管はいくら多くてもかまわない」とか「他人の産業廃棄物を扱うときでも許可は要らない」とすればいいのです。これを煎じ詰めれば「廃棄物処理法を廃止しよう」となる訳ですね。
どうですか?皆さんは、廃棄物処理法は無い方がいいですか?
立場によっては、「マニフェストの規定をもうちょっと簡略化して欲しい」とか「保管量をもうちょっと多くして欲しい」とかあったとしても、「廃棄物をどこに捨ててもかまわない」とか「焼却するんだったら、野焼きでもかまわない」は「さすがにそこまでは・・・」となるんじゃないでしょうか。
そうなると、「廃棄物処理法を廃止する」はもとより、条文一つすら廃止できない。やるのは「部分的緩和」そうなると、条文は減るのではなく、「例外」を作らなければならなくなるので、条文は増える一方、となる訳です。
ちなみに、平成29年改正で追加された「親子会社認可」規定。法律第12条の7は第1項から第11項まで、手元の3段法令集では10頁にも亘ります。
この「親子会社認定」規定は平成29年改正の目玉の一つだったのですが、条文が「第12条」ということでもわかるとおり産業廃棄物の規定なんです。一般廃棄物にはこの規定は無い。
だから、いくら親子会社認定を受けたとしても、産業廃棄物は「まとめて」「処理業許可なくて」やれても、一般廃棄物は原則通り「法人格が異なれば処理業許可は必要」なんです。
事業系一般廃棄物を排出しない事業者は、まずいないでしょう。よって、この親子会社認定はほとんど実用性は無いのではないかと私は思っています。
それが証拠にこの改正から3年が経過しましたが、この認定を取得したという話は聞こえてきません。
環境省は旧厚生省の時代から「他者の廃棄物を扱うなら許可を取れ」「人格(法人格)が違うなら許可を取れ」という方針です。私もこの方針は支持しています。「やるな」と言っている訳じゃないんですよね。「やるなら許可を取ってやりなさい」なんです。

<自説>
閑話休題。
まぁ、このように「正しい」の社会認識が変化すれば、「処理基準」も変わってしまう。「処理基準」というのは、少なくともその基準が制定された時代においては「正しい」「良い方法」なんです。
さて、それではその「正しい」「良い方法」を一律に規定出来るでしょうか?
一律に規定出来るものもありますね。多少、世の中が変化しても通用する規定もあります。
たとえば、廃棄物を処理する時に、飛散、流出、悪臭、騒音、振動、地下浸透、鼠、害虫が発生する処理は正しいですか?そんなもの正しいわけがありませんよね。
だから、まず、廃棄物処理として、「廃棄物を処理する時に、飛散、流出、悪臭、騒音、振動、地下浸透、鼠、害虫が発生してはならない」と規定したんです。
これが「共通基準」です。一般廃棄物なら政令第3条、産業廃棄物はこれを準用した第6条です。
まぁ、この「廃棄物を処理する時に、飛散、流出、悪臭、騒音、振動、地下浸透、鼠、害虫が発生してはならない」を本当に守っているなら、他にルールは要るのか?ってことになる訳ではあるんですが、もうちょっと親切に規定してあげてもいいでしょってこともありますよね。
たとえば、さっき述べた「焼却」です。
たしかに、焼却にあたっても飛散、流出、悪臭、騒音、振動等を発生させなければ、いいんだろうけど、焼却する時に煙を出さない焼却ってまずないですよ。物を燃やせば、二酸化炭素、一酸化炭素、煤などは絶対出てしまいます。「じゃ、どの程度なら許されるのか」。この「どの程度、どのように」が新たな処理基準として登場する訳です。それが現省令第1条の7です。これは第1号から第5号まであって、これを遵守するなら前述の「ドラム缶焼却炉」ではまず無理ですね。
ちなみに省令第1条の7の規定を図示すれば次のようになります。

「産業廃棄物の種類」その11<廃棄物の種類と処理基準>画像1

出典:公益財団法人 日本産業廃棄物処理振興センター 「特別管理産業廃棄物管理責任者講習会テキスト2021版」37頁

前置きが長くなりました。
では、なんでもかんでも、「飛散、流出、悪臭、・・・等を発生させない」だけではすまないとなると、もう一律に決めるのは無理ですよね。
そこで、何回か書いたことではあるのですが、「処理方法が違う。だから、違う種類にしなければならない。」
となる。
だから、産業廃棄物は19種類(現在は20種)に分類した。って、ことでしたね。
「埋め立てる」処理と「燃やす」処理しかないのであれば、「埋めるごみ」と「燃やすごみ」の2種類に分ければ必要にして十分。これじゃ足りないから19種類に分類した。
廃プラスチック類には廃プラスチック類の、汚泥には汚泥の処理方法があるだろうってことです。
今となっては「どうしてこの種類?」って品目もありますけどね。
まぁ、それは何回か前の「廃プラスチック類の巻」で書きましたので、今回は省略。
その廃棄物について確かな技術と知識を持っている人物に処理をやらせよう。それが処理業の許可制度。
この規模の処理を処理基準を守ってやるためには、こういった構造の施設が必要。それが処理施設の設置許可制度。
このように、廃棄物の種類-処理基準-処理業許可・処理施設という規定が密接に結びついているルール。それが本来の廃棄物処理法だったんですね。

繰り返しになりますがシリーズの最後にもう一度書かせてください。
<BUNさんの自説、妄説>
なぜ、廃棄物を「種類」「区分」しなければならないのか?
それは廃棄物の種類により、(最適な)処理の手法が違うため。

もし、廃棄物の処理方法が「埋める」と「燃やす」しかなければ、廃棄物の種類も「埋めるごみ」と「燃やすごみ」の2分類でよいはず。
だから、「廃棄物の区分・種類」とその適確な処理の手法である「処理基準」は密接に結びついている(結びついていた)。そして、その処理を商売として適確に行える人物に対して業許可を与え、適確に処理できる施設に処理施設設置許可を与える、というのが本来の廃棄物処理法のルールであるはず。

廃棄物を排出する人は、「なぜ、こんな分別しなければならないのか?」と、許可業者さんは、「なぜ、こんなにうるさい基準があるんだろうか?」と、処理施設を管理している人は、「なぜ、こんなに手間暇掛かるのか?」と一度立ち止まって考える時間があるといいですね。BUN(長岡)<(_ _)>(^-^)/。

「産業廃棄物の種類」その11<廃棄物の種類と処理基準>画像2

(2021年04月)

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