2019年5月17日、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」(建築物省エネ法)の改正法が成立・公布されました。
本法は、省エネ法の建築物対策を大幅に強化するために、省エネ法から“分離・独立”し、建築物省エネ対策を大幅に強化した法律です。2017年から本格施行しています。
本法の最大の特色は、大規模なオフィスビル等に対して、省エネ基準適合義務に従わなければ建築を認めないというものです。具体的な規制対象は、延べ床面積2000平方メートル以上の非住宅建築物となります。
この義務を履行しない対象建築物については、建築基準法の建築確認の手続きに入ることができず、すなわち、基準適合している対象建築物のみが建築を許されるという仕組みになっているのです。
この厳しい規制の建築物省エネ法が本格施行してからまだ2年しか経っていません。しかし、今回、本法は再び改正されることになりました。
改正法の概要は、次の図表の通りです。
図表:改正建築物省エネ法の概要
改正の目的:パリ協定を踏まえた建築物の省エネ対策強化 ↓ 建築物の規模・用途に応じた総合的な対策へ |
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1 | オフィスビル等 |
〇省エネ基準適合義務の対象拡大 省エネ基準の適合を建築確認の要件とする建築物の対象を、延床面積2000平方メートル以上から、300平方メートル以上に大幅拡大へ 〇複数の建築物の連携による対策促進 容積率の特例対象となる性根性能向上計画の認定対象に、複数の建築物の連携による取組みを追加 |
2 | マンション等 |
〇計画届出制度の監督体制の強化 民間審査機関を活用し、省エネ基準に適合しない新築等の計画に対する監督体制を強化 |
3 | 戸建住宅等 |
〇説明の義務付け 300平方メートル未満の住宅・建築物の新築等の際に、設計者(建築士)から建築主への省エネ性能に関する説明を義務付け 〇トップランナー制度の拡充 注文戸建住宅・賃貸アパートを供給する大手住宅事業者に対して、省エネ基準を上回る基準となるトップランナー基準に適合する住宅を供給する責務を規定(従来は、建売戸建住宅を供給する大手住宅事業者が対象) |
4 | 自治体 |
〇地方自治体の独自基準 気候・風土の特殊性を踏まえて、地方自治体が独自に省エネ基準を強化できる仕組みを規定 |
このように、改正箇所は多岐にわたりますが、最大の改正ポイントは、やはりオフィスビル等に関する「省エネ基準適合義務の対象拡大」と言えるでしょう。
前述の通り、現在の本法では、省エネ基準への適合を建築確認の要件とする建築物の対象として、大規模な非住宅建築物としています。具体的な規模は、延べ床面積2,000平方メートル以上です。
これを改正法では、大規模という枠を外し、中規模の建築物にも拡大させました。具体的な延べ床面積はまだ定められていませんが、国土交通省は「300平方メートル」にすることをすでに明らかにしています。
この点の施行は、公布日から2年以内となっていますので、2021年となります。規制対象が一気に広がり、建築物の省エネが一層進むことになると予想されます。
ここで注意しておきたいことは、実は、こうした規制対象の拡大については、本法の制定当時から予定されていたものであったということです。
今から4年前の2015年1月、国の審議会である社会資本整備審議会の答申「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について」が発表されました。 そこでは、次の記述がありました。
「今後、義務化対象範囲を円滑に拡大することが可能となるよう、以下の措置等を講じた上で、非住宅・住宅の区分や規模ごとの適合率、供給側及び審査側の体制整備の進捗等を踏まえ、義務化対象を拡大する範囲・時期を判断する必要がある。特に、住宅に関し義務化を検討する際には建築主の中に持家を建築する一般消費者が含まれること、基準への適合率や中小工務店・大工における対応状況、審査側の対応可能性、断熱化の意義などを総合的に勘案し、義務化する手法、基準の内容・水準を検討する必要がある。」
本答申は、このように述べた上で、措置の一つとして、「中規模の建築物等義務化対象とならない建築物を新築する際の届出に関し、現行の勧告ではなく指示対象とするなど規制的手法の強化を通じ届出率・適合率の向上を図る」ことも提示しました。実際に本法ができたときには、中規模(300平方メートル以上)の建築物への届出義務の担保措置が強化されています。
その上で本答申では、住宅・建築物の省エネ対策に関する「工程表」も提示していました。
そこでは、省エネ基準適合義務化について、まず大規模な非住宅建築物の適合義務化を行い、その後、2020年までに、中規模な建築物への義務化、小規模な建築物への義務化を段階的に導入する工程が明らかにされていたのです。
このように、今回の法改正は、本法が制定される当時から、元々予定されていたものだったのです。
今回の法改正により、中規模な非住宅建築物への省エネ適合基準の義務化が2021年からとなるので、当初提示されたスケジュールよりは遅れているものの、今後、順次規制対象が拡大され、最終的には、一般家庭の戸建住宅など小規模な建築物もすべて規制対象となるのは、時間の問題と言えるでしょう。
温暖化対策は、文字通り「待ったなし」の状況です。早め早めに対策を講じることが、先見性のある企業の選択肢であることが、本改正によってもよくわかります。
◎「建築物省エネ法のページ」(国土交通省)
⇒ https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutakukentiku_house_tk4_000103.html
(2019年7月)