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浄化槽法が、議員立法で改正!~「11条検査」違反の指摘が増える?

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

 2019年6月19日、浄化槽法の改正法が成立・公布されました。

 下水道に接続せずに、浄化槽を設置している事業所をもつ企業は少なくないでしょう。

 そうした企業にとって、浄化槽法の改正動向は、きちんとウォッチすべきものです。
 しかし、本改正法は、内閣提出法案ではなく、議員立法として国会に提出されたものなので、法案提出プロセスが見えづらく、改正を見逃している企業が見受けられますので、十分な注意が必要です。

 本改正の概要は、次の図表の通りです。
 ポイントは大きく2つあり、1つは「合併処理浄化槽への転換促進の措置」、もう1つは「浄化槽管理の強化の措置」です。

図表:改正浄化槽法の概要

1 合併処理浄化槽への転換促進 〇特定既存単独処理浄化槽に対する措置
都道府県知事は、「特定既存単独処理浄化槽」の浄化槽管理者に対して、その除却など必要な措置の助言・指導、勧告・命令ができる

〇公共浄化槽の設置
市町村が浄化槽処理促進区域で「公共浄化槽」を設置したときは、建築物の所有者は、遅滞なく、汚水を公共浄化槽に流入させるために必要な排水設備を設置し、及びくみ取便所を水洗便所に改造しなければならない(違反者には勧告・命令)
2 浄化槽管理の強化 〇浄化槽の使用の休止及び義務の免除
浄化槽管理者が清掃をして、その使用の休止を都道府県知事に届け出た浄化槽について、保守点検、清掃及び定期検査の義務を免除する

〇浄化槽台帳の整備
都道府県知事は、浄化槽台帳を作成し、保管する

(1)合併処理浄化槽への転換促進の措置
 まず、1つ目の改正ポイントである「合併処理浄化槽への転換促進の措置」について解説します。

 そもそも浄化槽とは、し尿と雑排水を処理する個別分散型の汚水処理施設のことをいいます。この浄化槽には大きく2種類あり、し尿のみを処理する単独処理浄化槽と、し尿と雑排水両方を処理する合併処理浄化槽に分かれます。

 単独処理浄化槽の場合、雑排水はそのまま河川等に放流されてしまうので、水質の悪化が避けられません。そこで、2000年の法改正により、単独処理浄化槽の新設が原則として禁止されました。
 しかし、現在もなお残存している単独処理浄化槽は数多くあります。2017年度末時点のデータでは、全設置数758万856基のうち、単独処理浄化槽は391万2343基もあり、全体の約52%を占めています。

 そこで、改正法では、単独処理浄化槽から合併処理浄化槽に転換させていくための措置を定めたのです。

 具体的には、まず、都道府県知事に対して、「特定既存単独処理浄化槽」の浄化槽管理者に対して、浄化槽の除却その他生活環境の保全及び公衆衛生上必要な措置をとるよう助言又は指導をすることができるようにしました。この指導に従わない場合は、相当の期限を定めて、勧告や命令も発することも可能です。

 ここで気になるのは、「特定既存単独処理浄化槽」が具体的に何を指すかをいうことです。しかし、法案概要の資料では、「既存単独処理浄化槽であって、そのまま放置すれば生活環境の保全及び公衆衛生上重大な支障が生ずるおそれのある状態にあると認められるもの」と記すのみです。
 また、法令原文では、次のように規定されています。

 「既存単独処理浄化槽……であつて、第11条第2項の規定において準用する第7条第2項の規定による報告その他の情報から判断してそのまま放置すれば生活環境の保全及び公衆衛生上重大な支障が生ずるおそれのある状態にあると認められるもの」(附則11条1項)

 ここでも曖昧な記述であり、よくわかりませんが、要するに、下記(2)で解説する11条検査の結果などを踏まえて、都道府県がその対象を決めるということでしょう。

 また、市町村が「公共浄化槽」を設置する制度も設けました。
 市町村は、下水道(予定)処理区域外の浄化槽処理促進区域を対象として、「公共浄化槽」の設置することができます。
 市町村が公共浄化槽を設置したときは、建築物の所有者は、汚水を公共浄化槽に流入させることになりますが、そのために、遅滞なく、必要な排水設備を設置するとともに、くみ取便所を水洗便所に改造しなければなりません。これに違反した場合は、勧告や命令も発することが可能です。

 以上のように、単独処理浄化槽を設置している事業所をもつ企業は、自社が設置する単独処理浄化槽が「特定既存単独処理浄化槽」に該当する場合や、市町村が公共浄化槽を設 置しようとする場合は、何らかの対応が迫られることになったのです。

(2)浄化槽管理の強化の措置
 次に、2つ目の改正ポイントである「浄化槽管理の強化の措置」について解説します。

 本法では、浄化槽管理者に対して「定期検査」を義務付けています。

 定期検査とは、主に保守点検及び清掃が適正に実施され、浄化槽の機能が正常に維持されているか否かを判断するために行うものです。浄化槽管理者に対して、毎年1回、指定検査機関による検査を受検することを義務付けています。指定検査機関は、この検査を実施したときは、遅滞なく、都道府県知事に報告します。
 この規定が本法の11条に定められていることから、一般に「11条検査」と呼ばれています。
 法律上の義務でありながら、この11条検査を実施していない企業が少なからず見受けられます。筆者も、11条検査を実施していない事業所をこれまでいくつも見てきました。
 環境省の統計によれば、2017年度における11条検査受検率はたったの41.8%にすぎません。

 そこで改正法では、都道府県知事に対して、浄化槽に関する台帳を作成し、保管することを義務付けました。
 台帳が整備されれば、11条検査を実施していない浄化槽を自治体は簡単に把握できます。検査の未受検への指導が強化されるのは必至でしょう。
 社内での対応策として、これまで以上に、11条検査を実施しているか否かを確実にチェックする仕組みを整備し、運用すべきです。

 なお、浄化槽管理者が清掃をして、その使用の休止を都道府県知事に届け出た浄化槽について、保守点検、清掃及び定期検査の義務を免除することも定められました。

 改正法の施行は、公布日から1年を超えない範囲で政令で定める日となります。
 それまでの間に政省令などの細かなルールが整備されてきますので、対象事業者はその改正動向もしっかり追って対応することが求められます。

◎「浄化槽法の一部を改正する法律(令和元年法律第40号)について」(環境省)
⇒ https://www.env.go.jp/recycle/jokaso/data/law/r01_law40.html

(2019年8月)

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