2019年10月21日、環境省の中央環境審議会大気・騒音振動部会に設置されている石綿飛散防止小委員会において、「今後の石綿飛散防止の在り方について(答申案)」が発表されました。
建屋等に相当量使用され、吸い込むと健康障害を招くアスベスト(石綿)対策の大幅強化を求める内容です。
今後、パブリックコメントを経て答申として確定後、答申を踏まえた改正大気汚染防止法案がまとめられ、来年の通常国会に提出される見通しです。順調にいけば、来年6月頃までには法案は成立することでしょう。
答申におけるアスベスト規制強化の概要は、次の図表のとおりです。
図表:答申におけるアスベスト規制強化の概要
1 | レベル3の飛散防止 |
●本法の規制の枠組みにレベル3も含める(ただし、発注者の届出義務までは求めない) ●作業開始前に、施工者が作業の方法や作業時の石綿の飛散防止措置等を含む作業計画を策定することを義務付ける ●石綿含有成形板等の除去について、湿潤化等を行いつつ、建材を原形のまま取り外すことを原則とすべきなど作業基準を整備 |
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2 | 事前調査の信頼性確保 |
●事前調査の方法として、①書面調査及び現地調査を行う、②①では石綿含有有無が判断できない場合は分析調査又は含有とみなすこととする等を法令上に位置付ける ●平成18年9月1日以降に着工した建築物等についても、着工年月日を書面等で確認する必要があることから、事前調査の対象として書面調査を行う ●施工者は、石綿に関する一定の知見を有し、的確な判断ができる者を活用して事前調査を行う(例:特定建築物石綿含有建材調査者及び建築物石綿含有建材調査者の活用) ●受注者に、①事前調査の結果及び発注者への説明に係る記録を一定の期間保存すること、②下請事業者に石綿含有建材の使用箇所を含めた調査結果を説明することを義務付ける ●一定の規模等の要件を満たす解体等工事に係る事前調査の結果の概要について、施工者が都道府県等に報告を行うことを義務付ける |
3 | 適切な除去作業の確認 |
●計画どおりの措置の実施と作業終了後の石綿取り残しがないことの確認を作業基準に位置付け、施工者が行う ●施工者に、石綿含有建材の除去等作業及び石綿飛散防止措置の記録を作成し、工事終了後も一定期間の保存を義務付ける ●受注者に、作業終了後、作業結果を発注者に報告することを義務付ける。報告した旨の記録も一定期間の保存を義務付ける |
4 | 漏えい有無の確認 | ●集じん・排気装置の排気口における粉じんを迅速に測定できる機器を用いた、集じん・排気装置の正常な稼働の確認の頻度を増やすとともに、前室における負圧の状況の確認も頻度を増やすことにより、隔離場所からの石綿の漏えい防止の強化を図るべき |
5 | 作業基準遵守の強化 |
●作業基準違反への直接罰の創設も検討する ●作業基準の遵守義務を施工者だけでなく下請事業者にも適用する |
6 | その他 | ●石綿則との連携を強化し、一体として解体等工事の現場での法令遵守を求めていく(マニュアル一本化等) |
このうち、特に注目されている規制は、「1 レベル3の飛散防止」と「2 事前調査の信頼性確保」の2つといえるのではないかと思います。
レベル3とは?
アスベストは、危険性に応じて、レベル1、レベル2、レベル3の3つのカテゴリーに分類されています。
レベル1とは、吹付けアスベストのことです。レベル2とは、アスベストを含有する保温材、耐火被覆材及び断熱材のことです。
一方、レベル3とは、アスベストを含有する成形版など、それら以外のアスベストを指し、審議会資料によれば、次のように、屋根・外壁・内壁・天井・床等に広く利用されています。
□内装材(壁、天井):スレートボード、けい酸カルシウム板第1種、パルプセメント板、ロックウール吸音天井板
□外装材(外壁、軒天):サイディング、スラグ石膏板、押出成形品(押出成形セメント板)、スレートボード、スレート波板、
□屋根材:スレート波板、住宅屋根用化粧用スレート
□床材:ビニル床タイル、フロア材
こうしたレベル3の建材については、レベル1やレベル2の建材の除去作業ほどにはアスベストの飛散は少ないとされています。
大気汚染防止法では、建物等の解体時にレベル1やレベル2のアスベストが含まれている場合、工事の発注者に対して都道府県に届出を行うことを義務付けています。また、対象工事の施工者は作業基準を順守しなければなりません。
しかし、レベル3について大気汚染防止法では、施工者に対するアスベスト含有建材の使用状況に関する事前調査を義務付けているものの、相対的に飛散性は低いので、届出義務は無く、作業基準順守の対象にも含まれていませんでした。
レベル3飛散防止のため作業計画の策定を義務付け
しかしながら、除去作業時の取扱いが不適切な場合にはアスベストが飛散する可能性があるとの指摘が出されています。
そこで、今回の答申案では、レベル3対策も規制強化の項目に掲げるに至ったのです。
具体的には、答申案において「建材の種類、除去工法及び工事の規模にかかわらず、基本的に全ての工事を大防法上の特定建築材料に係る規制の枠組みの対象とするべきである」と明記されました。レベル3のアスベストが含まれていれば、本法の規制対象に位置付けることを基本としたのです。
ただし、レベル1やレベル2のように、都道府県の負担が大きいことなどを考慮して届出義務は課さないことになりました。
その代わり、レベル3のアスベストについて適切に飛散防止の措置が行われていることを都道府県が立入検査等の際に確認するために、作業開始前に、施工者が作業の方法や作業時のアスベストの飛散防止措置等を含む作業計画を策定することを義務付ける方向になったのです。
さらに、アスベストを含有する成形板等の除去について、湿潤化等を行いつつ、建材を原形のまま取り外すことを原則とすべきなど作業基準を整備することとしました。
着実な事前調査に向けた措置強化
「2 事前調査の信頼性確保」に関する対策案としては、まず、事前調査の方法を法令上で明確に位置付けることになりました。
具体的には、書面調査や現地調査を行うとともに、それでもアスベストが含有されているかどうかわからない場合は、分析調査をするか、あるいはアスベストを含有しているとみなすかなど、調査方法を定めることにしたのです。
また、平成18年9月1日以降に着工した建築物等についても、今回新たに事前調査の対象にすることになりました。
実は、この日は、アスベストの新たな使用が禁止された日なので、その日以降に着工した建築物等にはアスベストは含まれていません。
しかし、事前調査においては着工年月日を書面等で確認する必要があることから、事前調査の対象として書面調査を行うことにしたのです。
受注者には、これら事前調査の結果及び発注者への説明に係る記録を一定の期間保存することなども義務付けることにしました。
さらに、今回の答申で注目すべきこととして、一定の規模等の要件を満たす解体等工事に係る事前調査の結果の概要について、施工者が都道府県等に報告を行うことを義務付けることにした点が挙げられるでしょう。
この規模がどの 程度になるのか、まだわかりませんが、新たな報告義務が発生する以上、この改正点も見逃さないようにしたいものです。
解体工事におけるアスベスト飛散の事件が後を絶ちません。今回の法改正はそうした状況を受けて行われるものでもあります。
一方、建物等の解体を行いたい企業側としては、解体工事そのものへの関心は高くなく、元請業者に丸投げしている例も散見されます。
今回の答申案を踏まえた改正大気汚染防止法が成立すれば、解体工事におけるアスベスト対策がさらに注目されることになります。
解体工事を行う前に一度立ち止まり、法順守を含むアスベスト対策が万全か否か慎重なチェックが不可欠といえるでしょう。
◎「中央環境審議会大気・騒音振動部会 石綿飛散防止小委員会(第7回) 議事次第・配付資料」(環境省)
⇒ http://www.env.go.jp/council/07air-noise/y0712-07b.html
(2019年11月)