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改正瀬戸内法案、「規制」を踏まえて「管理」に踏み出す~海洋プラスチック対策も強化

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

「瀬戸内海環境保全特別措置法」をご存じでしょうか?

一般に水質規制は、水質汚濁防止法が主要は法律となりますが、瀬戸内海環境保全特別措置法(以下、瀬戸内法と略)は、瀬戸内海における水質規制について、水質汚濁防止法とともに適用される重要法令です。

規制の主なポイントは、水質汚濁防止法が特定施設を設置しようとするときに「届出」を義務付けているのに対して、瀬戸内法の場合は、「許可」申請が必要となります(一日当たり平均50㎥以上の排水を出す特定事業場に限る)。

企業にとっては、「届出」でも「許可」でも役所とやりとりしなければならないものであり、その違いをあまり意識しないかもしれません。しかし、その両者は大きく意味が異なります。行政にとって、「届出」の場合は、原則は受け付けなくてはいけませんが、「許可」の場合は、基準に照らして「不許可」にすることもできるからです。
つまり、瀬戸内法の場合は、水質汚濁防止法よりも、より厳しい規制を企業に課しているのです。

2021年2月26日、この瀬戸内法の改正法案が閣議決定され、国会に提出されました。

瀬戸内海に排水していない企業にとって、本法も、その改正法案もあまり関心はないかもしれません。
しかし、今回の改正は、わが国の水質行政の方向性に変化をもたらすものであり、また、企業のプラスチック対策にも影響を及ぼすものですので、改正法案の内容を最低限押さえておくべきだと思います。

改正法案の概要は、次の図表の通りです。

改正瀬戸内海環境法全特別措置法案

1 栄養塩類管理制度の導入 ○府県知事が「栄養塩類」の管理に関する計画を策定
○周辺環境の保全と調和した形での特定の海域への栄養塩類供給を可能にし、海域及び季節ごとに栄養塩類のきめ細かな管理を行えるようにする。
2 自然海浜保全地区の指定対象の拡充 ○自然海浜保全地区の指定対象を拡充。
「藻場・干潟」等が再生・創出された区域等も指定可能へ
3 海洋プラスチックなどの漂流ごみの発生抑制 ○国と地方公共団体の責務として、 海洋プラスチックごみを含む漂流ごみ等の除去・発生抑制等の対策を連携して行う旨を規定
施行日:公布の日から1年を超えない範囲内で政令で定める日

■栄養塩類管理制度とは?
法案の最大の改正ポイントは、栄養塩類管理制度の導入です。

「栄養塩類」と言われてもピンとこない方が多いかもしれません。これは、リンや窒素などを指します。
海中のリンや窒素は、植物プランクトンにとってなくてはならないものです。植物プランクトンが増えれば、動物プランクトン等も増え、やがては水産資源となる魚介類も増えることになります。

一方、あまりにリンや窒素が増えてしまうと、特定のプランクトンが爆発的に増えるなどして、赤潮など生態系に悪影響を及ぼしてしまいます。

こうしたリンや窒素は生活排水や工場排水などに含まれ、従来は、水質規制の対象として扱われてきました。
しかし、近年、水質規制が進んだこともあり、瀬戸内海の一部の海域では、これら栄養塩類が不足し、水産資源の減少につながっていることが指摘されるようになったのです。

そこで、改正法案では、新たに「栄養塩類管理制度」を創設し、関係府県知事が栄養塩類の管理に関する計画を策定できるようにしました。
特定の海域への栄養塩類供給を可能にし、きめ細かく栄養塩類の管理を行えるようにするのです。
これまで規制一辺倒とも言えた水質行政が、それにとどまらず、水質をマネジメントすることも行うようになったと言えるでしょう。

■海洋プラスチックごみ対策の強化へ
「栄養塩類管理制度」は、府県知事が策定する計画によっては、瀬戸内海沿岸で操業する企業の排水基準の緩和につながることもあるかもしれません。
しかし、それは計画の対象となった場合に限られるでしょうし、リンや窒素以外の排水基準が大きく変わることはないでしょう。

その意味では、この制度は、企業にとってあまり大きな意味を持たないかもしれません。
むしろ、改正法案の別の改正点である「海洋プラスチック対策の強化」に注目すべきだと思われます。

現在の本法16条の2では、国や地方自治体に対して、瀬戸内海の海域等において漂流し、海底に存する「漂流ごみ等」に起因する瀬戸内海の環境の保全上の支障を防止するため、漂流ごみ等の除去などの必要な措置を講ずるように努めることを定めています。

これに対して、改正法案では、その対象を、単なる漂流し、海底に存する「漂流ごみ等」にとどまらず、海岸に漂着したり散乱したりしているものも対象に加えました。
海岸に漂着し、散乱するごみには、かなりのプラスチックごみが含まれています。つまり、今回の本条の改正は、事実上、海洋プラスチックごみ対策の強化ということになります。

さらに、本条の改正では、こうした漂流ごみ等の除去だけでなく、「発生の抑制」も追加しました。
つまり、プラスチックの発生抑制にも国や自治体は今まで以上に取り組むことになります。

本条は、いわゆる努力義務規定です。また、その実施者は企業ではなく、国や地方自治体です。したがって、本条が直ちに事業活動に規制を講じることはありません。

とはいえ、今後ますますプラスチックの排出抑制を企業へ求める声は強まることでしょう。
「この条文は自分たち企業には関係ない」と終わらせるのではなく、自社のプラスチック対策を見直すきっかけの一つと位置付けるべきではないでしょうか。

◎瀬戸内海環境保全特別措置法の一部を改正する法律案の閣議決定について
⇒ https://www.env.go.jp/press/109207.html

(2021年3月)

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