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建築物省エネ法改正法案、異例の国会提出!~すべての建築物に省エネ基準適合を義務付けへ

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

2022年4月22日、建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)の改正法案が閣議決定され、国会へ提出されました。

通常、改正法案が通常国会へ提出されるのは2~3月頃ですので、今回の法案の提出時期は異例です。報道によれば、もともとは今国会に提出される予定でしたが、国会対策のために提出が見送られることになっていました。

しかし、前回もお伝えしたように、現在の気候変動対策ではとても国家目標である「2050年・脱炭素(カーボンニュートラル)」を実現させることはできません。
特に建築物分野は、エネルギー消費の約3割を占めており、この分野への新たな規制強化が不可避となっていました。
そこで、政権内外での法案提出への巻き返しの動きがあり、ついに提出に至ったようです。

改正法案の正式名称は、「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律案」です。
前回紹介した改正省エネ法案などとは異なり、脱炭素のために厳しい規制措置も盛り込んだ注目すべき改正です。

また、「等」という文言が入っているように、この改正法案は、建築物省エネ法以外の法律の改正も盛り込まれ、ボリュームのある内容となっています。

改正法案の概要は、次の図表の通りです。
原則として、公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されることになります。

改正建築物省エネ法などの概要

改正事項改正される法律規制対象
省エネ対策の加速 建築物省エネ法 1 ●省エネ性能の底上げ・より高い省エネ性能への誘導
・全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合を義務付け
・トップランナー制度(大手事業者による段階的な性能向上)の拡充
・販売・賃貸時における省エネ性能表示の推進
2 ●ストックの省エネ改修や再エネ設備の導入促進
・住宅の省エネ改修に対する住宅金融支援機構による低利融資制度を創設
・市町村が定める再エネ利用促進区域内について、建築士から建築主へ再エネ設備の導入効果の説明義務を導入
・省エネ改修や再エネ設備の導入に支障となる高さ制限等の合理化
木材利用の促進 建築基準法・建築士法 1 ●防火規制の合理化
・大規模建築物について、大断面材を活用した建築物全体の木造化や、防火区画を活用した部分的な木造化を可能とする
・防火規制上、別棟扱いを認め、低層部分の木造化を可能にする
2 ●構造規制の合理化
・二級建築士でも行える簡易な構造計算で建築可能な3階建て木造建築物の範囲の拡大

(1)改正建築物省エネ法案のポイント ~すべての建築物に基準適合を義務付けへ
今回の法改正の最大のポイントは、すべての新築住宅や非住宅建築物に対して、省エネ基準の適合を義務付けたことです。

建築物省エネ法が成立し、全面施行したのは、2017年のことです。
このときには、延べ床面積が2000㎡以上の大規模な非住宅建築物を新築等するときには、省エネ基準に適合しなければ建築確認を受けることができないようになっていました。

ところが、それでは不十分であるとして、2019年に法改正が行われ、2021年からは300㎡以上の非住宅建築物に規制対象が拡大されました。

今回の法改正では、これをさらに推し進め、「300㎡以上」の規模要件も、「非住宅」の対象要件もすべて取り払い、住宅を含むすべての建築物を新築等するときには、省エネ基準に適合しなければならないことにしたのです。
厳しい新規制の導入であり、その影響は極めて大きいと言わざるをえません。

この他にも、販売・賃貸時における省エネ性能表示の推進規定も盛り込み、大手事業者による段階的な省エネ性能の向上を図るトップランナー制度の拡充も行っています。具体的には、省エネ性能を「ZEH・ZEB水準」に誘導するとしています。

「ZEH(ゼッチ)」とは「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」のことで、年間で消費するエネルギー量が正味で概ねゼロ以下の住宅をいいます。2020年のハウスメーカーによる注文戸建住宅では約56%がこれに該当するそうです。
また、「ZEB(ゼブ)」とは「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」のことで、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費するエネルギーをゼロにすることを目指した建物のこととされています。

さらに、すでにある建築物の省エネ改修や再エネ設備の導入促進を図るため、住宅の省エネ改修に対する住宅金融支援機構による低利融資制度を創設したり、市町村が定める再エネ利用促進区域内について建築士から建築主へ再エネ設備の導入効果の説明義務を導入したりする措置も定めました。

なお、改正法案により、建築物のエネルギー消費性能向上だけでなく、建築物への再生可能エネルギー利用設備の設置の促進を図ることも法の目的に加えられたので、法律の名称も変わり、「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律」と、「等」が入ります。

(2)改正建築基準法案・改正建築士法案のポイント ~木材利用の促進
今回の改正法案では、上記の改正建築物省エネ法案の他に、建築基準法と建築士法の改正法案も含まれています。

これらの改正のポイントは、木材利用を促進することにあります。
建築物の分野は、木材需要の約4割を占めており、この分野で木材利用を促進することは、地球温暖化を招く二酸化炭素を吸収する役割を果たすことになります。そこで、気候変動対策の観点から木材利用の促進措置を定めたのです。

具体的な措置としては、まず、防火規制の合理化措置です。
大規模な建築物について、大断面材を活用した建築物全体の木造化や、防火区画を活用した部分的な木造化を可能とすることにしました。

また、防火規制上、別棟扱いを認め、低層部分の木造化を可能にします。

さらに、構造規制の合理化措置も定め、二級建築士でも行える簡易な構造計算で建築可能な3階建て木造建築物の範囲を拡大するとしています。

前回の記事では、改正温暖化対策推進法案や改正省エネ法案を取り上げ、一般の事業者への規制を含んでいない点を指摘しました。

しかし、今回の改正建築物省エネ法案では、一般の事業者どころか、これから戸建て住宅を建てようとする個人をも含む、幅広い対象に対して厳しい規制措置を講じるものです。今国会でもっとも気をつけたい法案なのです。

さらに、注意すべきは、今回の改正法案は、「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」の「とりまとめ」(2021年8月23日)の考え方に基づいていますが、それによれば、2025年度には住宅を含む省エネ基準への適合義務化を達成し、さらに、遅くとも2030年までには、誘導基準への適合率が8割を超えた時点で、義務化された省エネ基準をより厳しいZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能に引き上げるとしています。

建築物への省エネ規制は今後ますます強化されるのです。このことを踏まえた事業活動が求められていると言えるでしょう。

◎「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律案」を閣議決定 ~2050年CNの実現に向けて、建築物の省エネ化及び木材利用の促進を図ります!~(国土交通省)
⇒ https://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_000920.html

(2022年5月)

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