現在の日本において、環境汚染を起こしやすい場面を想定すると、通常操業のときというよりは、火災、油や有害物質の流出などの緊急事態のときと言えるでしょう。
日頃の環境対策とともに、緊急事態の対策もしっかりと講じる必要があります。
ISO14001:2015年版の細分箇条8.2では、緊急事態への準備と対応について規定しています。
まず、組織は、特定した潜在的な緊急事態への準備や対応のために必要なプロセスを定め、実施しなければなりません。
緊急事態の特定そのものは、この8.2ではなく、6.1.1で特定することになっています。6.1.1では、環境マネジメントシステム(EMS)の適用範囲の中で、環境影響を与える可能性のあるものを含め、潜在的な緊急事態を決定することを求めています。
緊急事態の例としては、火災や事故による大気や河川への有害物質の漏えいなどが一般的と言えます。最近では、取扱商品の環境性能に関する誤表示のように、本業そのものの緊急事態を掲げる企業もあるようです。
いずれにせよ、何が自社にとって緊急事態なのかを真剣に考えることが、第一に行うべきことです。
緊急事態への準備と対応を行う際に、次の6点を行うことが求められています。
①緊急事態への対応をあらかじめ準備すること
②実際に緊急事態が生じた場合は、対応すること
③緊急事態やその環境影響の大きさに応じて、緊急事態による結果を防止・緩和するための処置をとること
④実行可能な場合には、計画した対応処置を定期的にテストすること
⑤定期的に、また特に緊急事態の発生後又はテストの後に、プロセス及び計画した対応処置をレビューし、改訂すること
⑥必要に応じて、緊急事態への準備及び対応についての関連する情報及び教育訓練を、組織の管理下で働く人々を含む関連する利害関係者に提供すること
また、緊急事態への準備と対応について、必要な範囲において、文書化した情報を維持することも求めています。
以上が緊急事態に関する要求事項です。いずれも緊急事態の対策としては、常識的な内容と言えるのではないでしょうか。
しかし、実際の事業所の対応を見ていると、残念ながら、対策が形骸化していることが少なくありません。
例えば、①では、具体的には、有害な環境影響の防止・緩和の処置をあらかじめ計画することを求めています。その計画について、④により可能な範囲でテストすることも求めています。
海辺に立地する事業所を訪問した際、油の貯蔵庫がありました。
緊急事態の手順として、地震等により貯蔵缶が倒壊して油が流出した場合に備え、土嚢の保管箱が設置されていました。「定期的なテストはしているのですか」とたずねると、「油を流すわけにはいかないのでテストはしていません」ということでした。
しかし、手順に不備を感じたので、ご担当者の方々と一緒に、油の代わりに貯蔵所から水を流すテストをしてみました。すると、その水は、土嚢の設置している方角には流れず、海へ続く側溝に流れ込んだのです。
このように、上記の要求事項に沿って、真剣に、個々の緊急事態のプロセスを見てみると、改善箇所が見つかることが珍しくありません。
確認・検証する場合は、必ず現場で行うべきです。また、担当部門の思い込みで対応プロセスに課題が出る場合もあるので、内部監査など第三者的な立場の者がチェックする手順もあるとよいでしょう。
(2017年06月)