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ISOのキーワードを理解する~ISO14001:2015年版 附属書 A「A.3 概念の明確化」を読む

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

筆者はよくこんなことを言っています。
「ISO14001の2015年版は、2004年版と見比べると、規格本文を読むと大きく変わったように見えますが、骨格に変化はありません。」

これは、何を指しているかというと、改訂前も後も、EMS活動の肝は、「著しい環境側面」と「順守義務」の2つにあり、「リスク及び機会」はそこまで重要な位置を占めていないということです。

その根拠は、規格の細分箇条「6.2.1 環境目標」に次の一文です。
「組織は、組織の著しい環境側面及び関連する順守義務を考慮に入れ、かつ、リスク及び機会を考慮し、関連する機能及び階層において,環境目標を確立しなければならない。」

ここでは、著しい環境側面と順守義務は「考慮に入れるもの」である一方、リスク及び機会は「考慮するもの」と使い分けています。
日本語で読み比べても同じような意味でしかないと思いますが、規格上は、明確に使い分けているのです。

ISO14001:2015年版「附属書A」(この規格の利用の手引)の「A.3」では、「概念の明確化」について次のように書いています。

「“考慮する”(consider)という言葉は,その事項について考える必要があるが除外することができる,という意味をもつ。他方,“考慮に入れる”(take into account)は,その事項について考える必要があり,かつ,除外できない,という意味をもつ。」

つまり、「考慮に入れる」という用語の方が「考慮する」という用語よりも強い意味を持っているということです。
このことから、規格が「著しい環境側面」と「順守義務」の2つを「リスク及び機会」よりも重い位置付けにしていることがわかるのです。

なお、誤解の無いように書いておきますが、だからと言って「リスク及び機会」を活用しないのは、実に「もったいない」ことです。

規格は著しい環境側面や順守義務のプロセスをやや重めに定めているために、それらから新たな活動のネタ探しをするのはなかなかハードルが高いものです。

しかし、リスク及び機会の決定の仕方はシンプルであり(4.1、4.2、6.1.2、6.1.3に関連したリスク及び機会をただ決定すればよい)、この箇条(6.1.1)を前向きに活用することによって、自社が望む活動を容易に行えるようになるからです。

話を戻しましょう。
上記のように、「A.3」では、規格のキーワードの説明がいくつも書かれており、とても参考になります。
いくつかを例示しながら、筆者のコメントも付しておくので、ぜひ活動の参考にしてみてください。

◆「この規格では,“利害関係者”(interested party)という用語を用いている。
  “ステークホルダー”(stakeholder)という用語は,同じ概念を表す同義語である。」
  (本連載でもすでに触れたように、ステークホルダーを記載するCSRレポートを発行している企業は、
  すでに規格の「利害関係者」を決定しているとも言えるのです)

◆「“順守義務”という表現は,旧規格で用いていた“法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事
  項”という表現に置き換わるものである。この新しい表現の意味は,旧規格から変更していない。」
  「“文書化した情報”は,旧規格で用いていた“文書類”,“文書”及び“記録”という名詞に置き換わるもの
  である。」
  「“特定する”(identify)から,“決定する”など(determine)に変更した意図は,標準化されたマネ
  ジメントシステムの用語と一致させるためである。」
  (規格用語に囚われる必要のない例です。無理をしてマニュアルの表現を変えることなどは不要です)

◆「“意図した成果”(intended outcome)という表現は,組織が環境マネジメントシステムの実施によって
  達成しようとするものである。最低限の意図した成果には,環境パフォーマンスの向上,順守義務を
  満たすこと,及び環境目標の達成が含まれる。組織は,それぞれの環境マネジメントシステムについて,
  追加の意図した成果を設定することができる。例えば,環境保護へのコミットメントと整合して,組織は,
  持続可能な開発に取り組むための意図した成果を確立してもよい。」

 (3つ以外にも「意図した成果」はあるのです。それを決めるのは、皆さんです。「EMSで何を目指すか」。
  いま一度考えてみてはいかがでしょうか)

(2018年02月)

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