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力量確保の対象とは何か?~ISO14001:2015年版 附属書 A「A.7 支援」を読む

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

規格の細分箇条「7. 支援」では、資源、力量、認識、コミュニケーションなどの要求事項を定めています。

この中でも、力量(7.2)と認識(7.3)を自社のEMS活動にどのように落とし込むかについて悩む企業が少なくないようです。

規格の「7.2 力量」では、組織に対して、次の4点を行うことを求めています。

①次の業務を行う上で必要な力量にどのようなものがあるかを決定すること
・組織の環境パフォーマンスに影響を与える業務
・順守義務を満たす組織の能力に影響を与える業務

②適切な教育、訓練又は経験に基づいて、それらの人々に力量を備えさせること

③組織の環境側面及び環境マネジメントシステム(EMS)に関する教育訓練のニーズを決定すること

④該当する場合には必ず必要な力量を身に付けるための処置をとり、とった処置の有効性を評価すること

また、力量の証拠を記録することも求めています。

上記のことを噛み砕いて言えば、まず、EMSを運用していくうえで必要な力量にどのようなものがあり、そのために必要な教育訓練メニューにはどのようなものがあるかを整理しなさいということです。
その上で、教育訓練などを通して関係者の力量を確保させ、その有効性も評価しなさいということです。

教育訓練に関するPDCAをしっかり回して力量確保の仕組みを整備・運用しなさいということを規格は求めていると言えるでしょう。

力量確保の対象となる業務については、上記①の通りですが、やや曖昧です。特に、上記①における「組織の環境パフォーマンスに影響を与える業務」を行う人とは、具体的に誰を指すのでしょうか。

この点について、ISO14001:2015年版「附属書A」(この規格の利用の手引)の「A.7.2」では、次のように述べています。

①著しい環境影響の原因となる可能性をもつ業務を行う人
②次を行う人を含む、環境マネジメントシステムに関する責任を割り当てられた人
・環境影響又は順守義務を決定し、評価する
・環境目標の達成に寄与する
・緊急事態に対応する
・内部監査を実施する
・順守評価を実施する

こうした業務を行う人々が力量を確保しているかどうかを確認するとともに、力量確保するためのPDCAの仕組みがきちんとあるかどうかを検証することが必要なことと言えるでしょう。

また、規格の「7.3 認識」では、組織の管理下で働く人々に次の認識をもたせることを求めています。

・環境方針
・自分の業務に関係する著しい環境側面及びそれに伴う顕在する又は潜在的な環境影響
・環境パフォーマンスの向上によって得られる便益を含む、環境マネジメントシステムの有効性に対する自らの貢献
・組織の順守義務を満たさないことを含む、環境マネジメントシステム要求事項に適合しないことの意味

これを担保するために、特に古くからEMSを運用している企業では、環境方針や環境目標などを小さな冊子にして社員に持たせているケースが少なくありません。

この点について、「附属書A」の「A.7.3 認識」では、次のように述べています。

環境方針の認識を、コミットメントを暗記する必要がある又は組織の管理下で働く人々が文書化した環境方針のコピーをもつ、という意味に捉えないほうがよい。そうではなく、環境方針の存在及びその目的を認識することが望ましく、また、自分の業務が、順守義務を満たす組織の能力にどのように影響を与え得るかということを含め、コミットメントの達成における自らの役割を認識することが望ましい。

やや辛辣な書き方がされていますが、環境方針等のコピーを社員に持たせることそのものは否定されるべきではないでしょう。

ただ、持たせることで満足するのではなく、持たせるのであれば、その仕組みの有効性を確認することが必要です。
また、個々の社員自らがEMSにおける自らの役割を適切に認識するためにどのような仕組みがあり、実情がどうなのかをきちんと考え続けることが求められているのです。

(2018年06月)

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