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脅威と機会のリスクとはなにか~改正ISO最大の疑問点!?

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

改正ISO14001の国際規格原案(DIS)の中で最もわかりにくいと言われている箇条が6.1.4の「脅威と機会に関するリスク」です。

用語そのものがわかりにくいだけでなく、その箇条と他の箇条との関係性もわかりにくいという声をよく聞きます。つまり、この箇条に書かれていることを踏まえて、どのような環境マネジメントシステム(EMS)活動を行ってよいのか、ピンと来ていないということでしょう。

箇条6.1.4では、組織に対して「脅威と機会に関するリスク」を決定し、文書化した情報を維持することを要求しています。
「脅威と機会に関するリスク」とは、(1)EMSによる成果達成、(2)望ましくない影響の防止、(3)継続的改善の達成のために取り組むべきことです。また、「リスク」という用語は「目的(3.16)に対する不確かさの影響」と定義されています。

決定された「脅威と機会に関するリスク」については、「著しい環境側面」や「順守義務」(現在の規格の「法的及びその他の要求事項」のこと)とともに、取組みのための計画を策定しなければなりません。
また、「脅威と機会に関するリスク」を考慮して、環境目的を確立してEMS活動に取り組むことなどが求められます。

では、「脅威と機会に関するリスク」とは具体的に何を指すのか。この点について、改正ISOの本文と付属書は特に触れていません。すなわち、何を「脅威と機会に関するリスク」と捉えるかについては、組織にフリーハンドを広く与えていると考えられます。

例えば、地球温暖化が組織にとって望ましくない影響を与えるものだと判断して、これを組織の「脅威と機会に関するリスク」と決定し、温暖化防止に向けた計画を策定して取り組むこともできるでしょう。

あるいは、環境対策に詳しかった社員が退職したことによる人材不足を組織の「脅威と機会に関するリスク」と決定し、環境分野での人材育成に向けた計画を策定することもできるでしょう。

こうした取組み例について、「従来の著しい環境側面に関わる活動により、既に対応しているのではないか」と疑問を感じる方もいるかと思います。

現在の規格では、抽出された環境側面の中から、著しい環境側面を決定し、それを考慮に入れて目標展開活動や運用管理などを行うことを求めており、例示した事項をこの中に反映させている組織も少なくないことでしょう。

改正ISOの注記でも、著しい環境側面が「脅威と機会に関するリスク」をもたらし得ることに触れており、両者が関連し合っていることを認めています。
なお、このことも踏まえて「脅威と機会に関するリスク」への具体的な対応方法を考えてみると、(あくまでも一つの方法ですが)既存の環境影響評価の手順の中にリスク決定の手順も新たに組み込むことも可能だと筆者は考えています。

したがって、両者の異同にこだわる実益はあまりありません。むしろ、「脅威と機会に関するリスク」を選び出す作業の中で、従来の著しい環境側面などの取組みではフォーローしきれていなかったが組織にとって取り組むべき重要事項を前向きに見つけて、取組みを推進していくべきでしょう。

また、本連載の第3回目の記事でお伝えしたように、改正ISOでは、4.1と4.2において、組織に対して、“外部と内部の課題”と“利害関係者のニーズや期待”が何かを決定することを求めています。
ここで決定された事項の一部は、著しい環境側面や順守義務に展開されるでしょうが、同時に「脅威と機会に関するリスク」に関連づけられて独自に展開されることもあるでしょう。

(2015年04月)

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