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温室効果ガス削減目標は「2035年60%削減」「2040年73%」へ ~再エネを主力電源化。原子力はどうなるか?

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

 気候変動対策の国際的な合意であるパリ協定等では、各国が温室効果ガス排出量の削減に関する2035年目標と2040年目標を2025年2月までに提出することを求めています。

 これまでのわが国の温室効果ガスの排出削減目標は、2050年のカーボンニュートラルを実現するために、2030年に46%を削減することを目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦するものでした(2013年度比)。

 2024年11月25日、経済産業省と環境省の各審議会の合同会合において、2035年に60%を削減し、2040年に73%を削減するという新たな数値が出ました。
 これを軸に検討を進める姿勢が示されたのです。

 この数値は、経団連(日本経済団体連合会)が同年10月15日に提言を出したものと同じものです。しかし、両省の姿勢に対して、もっと高い削減目標を掲げるべきとする批判も出され、激しい議論となりましたが、結局、この新たな数値を定めた地球温暖化対策計画案が12月27日に公表されました。

 2035年・2040年の数値目標と同時に重要な動きとして、エネルギー基本計画の改定があります。

 2024年12月17日、資源エネルギー庁の審議会に、次期エネルギー基本計画の原案が示されました。
 ロシアによるウクライナ侵攻などの経済安全保障上の要請の高まりや、AIの普及拡大等に伴う電力需要増加が見込まれることを踏まえ、「S+3E(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合性)」のエネルギー政策の原則を維持しつつ、2040年に向けた政策の方向性を次の通り示しました。

  • ①電力需要増加に見合った脱炭素電源を確保する
  • ②再生可能エネルギーを主力電源として最大限導入するとともに、特定の電源等に過度に依存しない
  • ③徹底した省エネルギー、製造業の燃料転換等を進めるとともに、再エネや原子力など脱炭素効果の高い電源を最大限活用する
  • ④脱炭素化に伴うコスト上昇を最大限抑制する

 その上で、分野ごとの施策を示すとともに、「参考」として、2040年度のエネルギー需給の見通しを次の図表の通り示し、大きな注目を集めました。

2040年度におけるエネルギー需給の見通し

2023年度(速報値) 2040年度(見通し)
エネルギー自給率 15.2% 3〜4割程度
発電電力量 9854億kWh 1.1〜1.2兆kWh程度
電源構成 再エネ
 太陽光
 風力
 水力
 地熱
 バイオマス
22.9%
 9.8%
 1.1%
 7.6%
 0.3%
 4.1%
4〜5割程度
 22〜29%程度
 4〜8%程度
 8〜10%程度
 1〜2%程度
 5〜6%程度
原子力 8.5% 2割程度
火力 68.6% 3~4割程度
最終エネルギー消費量 3.0億kL 2.6〜2.8億kL程度
温室効果ガス削減割合(2013年度比) 22.9%
(2020年度実績)
73%(注)
※数値は全て暫定値であり、今後変動し得る。
(注)中環審・産構審合同会合において直線的な削減経路を軸に検討するとされていることを踏まえた暫定値。

出典:2024年12月17日「エネルギー基本計画(原案)の概要」をもとに作成

 図表のタイトルは「エネルギー需給の見通し」とされていますが、実際は、この電源構成を目指して政策が立案され、実行されていくことになりますので、これは、国のこれからの動きを検討する上で重要なものです。

 2011年の福島第一原子力発電所の事故以降、再エネが一定比率を占めつつも、火力発電が主要な電源となっていました。
 この構図を大きく変え、再エネを主力電源化するとともに、原子力や火力を一定程度残すという国の姿勢が鮮明になったと言えるでしょう。

 エネルギー基本計画(原案)の内容を見ても、これから国が取り組む様々な施策が散りばめられています。分野ごとに、そのポイントを見ていきましょう。

●省エネ・非化石転換
 徹底した省エネの継続、電化や非化石転換、データセンターの効率改善、工場等での先端設備への更新支援、住宅の省エネ化、エネルギー多消費産業の抜本的な製造プロセス転換などを打ち出しています。
 よく誤解されますが、省エネの取組みは終わっていません。これからも、エネルギー・気候変動対策の一丁目一番地であり続けます。

●再エネ
 再エネの最大限の導入、事業規律強化、FIP制度等の活用、地域関連経線の整備・蓄電池の導入などを打ち出しています。
 主力電源化の徹底を強調しつつ、地域との共生や国民負担の抑制などの課題を掲げ、課題解決に向けた事業規律の強化なども提示しています。

●原子力
 必要な規模の持続的活用、再稼働の加速、既存原発のサイト内での新たな原発の建て替えなど、次世代の原発開発・設置の推進などを打ち出しています。
 福島原発事故後、これまでのエネルギー基本計画では、「可能な限り原発依存度を低減する」という文言がありましたが、今回の原案ではこれを削除し、既存原発の活用や原発の新設を推進する姿勢を鮮明にしたと言えます。

●火力
 安定供給に必要な発電容量の維持、LNG火力の確保、水素・アンモニア・CCUSなどによる非効率な石炭火力などの発電量の減少などを打ち出しています。
 二酸化炭素排出量が極めて多い石炭火力発電については減らしつつ、それに代わる代替の技術によって火力発電の脱炭素化に取組むというものです。

●次世代エネルギーその他
 水素等(アンモニア、合成メタン、合成燃料を含む)の活用への設備投資、バイオ燃料導入、サプライチェーン構築の支援などを打ち出しています。また、CCUSを不可欠なものと位置付けその投資を促す支援制度の検討を提示しました。
 二酸化炭素を大気に放出せずに、地中に埋めることや利用することを行うCCUSを重視しています。

 このように、2040年に向けて多岐に渡る施策を国は打ち出すことにしました。そして、この内容のまま、12月27日に第7次エネルギー基本計画案が公表されました。

 よく言えば、ひとつの分野に偏ることなく、これからのエネルギーにおける不確実性を考慮して、取組む余地のある施策をすべて掲げたと言えるでしょう。
 一方、悪く言えば、エネルギーを取り巻く環境が厳しく、気候変動への取組みも待ったなしの状況の中で、注力すべき分野を見極めず、投入すべき資金を拡散させ、効果的な施策を打ち出せないリスクがあるとも言えるでしょう。

 世界的なエネルギーの電源構成の推移を見れば、世界でも再エネが主力電源化していくことでしょう。かつては高コストと言われた再エネも発電コストが下がりつつあります。

 また、原子力の推進を掲げているものの、福島での事故の記憶がまだまだ多くの国民に色濃く残っている中で、地元の合意を得るというハードルは高く、容易に維持・拡大できるものではありません。
 新規の稼働についても、稼働には20年程度の時間がかかると言われています。
 2040年までに原発の割合を2割程度にするには、新規の稼働が欠かせませんが、果たしてできるものなのか、疑問視する声が多く聞かれます。
 さらに、長期に渡って原発を稼働させているにもかかわらず、いまだに放射性廃棄物の最終処分場が決まっていないという問題もあります。

 水素やアンモニア、CCSの活用などは期待したいところですが、これらの活用に向けた技術が確立し、コスト的にも見合うものとなり、一般に利用できるようになるまでには、まだまだ時間がかかることでしょう。

 このように考えてくると、気候変動の実務に取組む企業関係者の視点から見て、自社が取組むべき方向性は、やはり、省エネと再エネをメインに位置付けることだろうと思われます。

◎地球温暖化対策計画案(2030年及び2040年の削減目標)
「「地球温暖化対策計画(案)」に対する意見募集について」(環境省)

◎エネルギー基本計画案
「第7次エネルギー基本計画(案)に対する意見の募集について」(経済産業省)

(2025年01月)

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