ある中小企業の工場を訪問したときのことです。中に入ると、いくつかの建屋で解体工事が行われていました。老朽化した建屋を解体し、新しいものを建てようとしているようです。関連書類を拝見しながら、次のやりとりをしました。
「大気汚染防止法のアスベスト(石綿)対策はどのように行っているのですか?」
「発注した建設会社さんから、レベル2のアスベストがあると報告を受け、自治体に届出しています。飛散対策の工事もこのように行われて、建設会社さんの説明も丁寧ですよ。」
「それは安心ですね。」
その後、事務所に入り、環境関連の書類を確認していると、上記の解体工事とは別に、様々な設備を改造する作業をしていることがわかりました。その中にはボイラーや配管も含まれていました。そこで、次のように質問しました。
「ボイラーや配管の改造工事もしているのですね。これらの工事は解体工事の建設会社さんが行っているのですか?」
「いえ、これらは別の工事会社さんが対応しています。」
「そうなんですね。では、この改造工事でのアスベスト対策はどのようにしているのですか?」
「え?ボイラーなどの工事もアスベスト対策が必要なのですか...?どのように対応しているのか急いで調べてみます。」
以上の事例のように、企業の環境担当者で、自社の建屋などがあれば、大気汚染防止法によるアスベスト規制があることは常識ですが、工作物のアスベスト規制があることを知らない場合が少なくありません。
大気汚染防止法のアスベスト規制の概要は、次の図表の通りです。
大気汚染防止法のアスベスト規制
■規制対象となる作業 建築物、工作物の解体・改造・補修作業
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◆規制対象者 | ◆義務 |
■元請業者等 |
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■発注者 |
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建築物や工作物の解体、改造、補修作業を行う場合、元請業者等は、レベル1~3のアスベストの有無を事前調査し、発注者に書面で説明しなければなりません。
レベル1~3のアスベストは、次の通りです。
- ○レベル1(発じん性が著しく高い):吹付け石綿
- ○レベル2(発じん性が高い):耐火被覆材、断熱材、保温材
- ○レベル3(発じん性が比較的低い):その他の石綿含有材(成形板等)
このうち、一定規模以上の工事の場合、都道府県知事への事前調査結果の報告義務が発生しています。この報告は、アスベストの有無にかかわらず行うものです。
レベル1~3を含む工事の場合、石綿飛散防止のため作業基準を遵守し、作業記録を保存します。工事終了後は、発注者へ報告し、その書面を保存します。
また、発注者は、工期や工事費などの契約で作業基準の遵守を妨げるおそれのある条件を付さないように配慮しなければなりません。さらに、レベル1、2を含む解体等工事を行う場合、作業実施14日前までに都道府県知事に届け出なければなりません。
さて、今回の事例で登場した「工作物」についても、「建築物」とともに解体・改造・補修作業をする場合に規制されることになります。
「工作物」の厳密な定義はありません。
厚生労働省・環境省のマニュアルには、次のように記載されています(「建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル」令和3年3月。6年2月改正)。
「工作物には、工場・事業場における製造施設や煙突だけでなく、土地に固着している構造物が含まれる(建築物よりも工作物の方が幅広い)ことに留意が必要である。」
「例えば煙突、立体駐車場、エレベーター昇降路、ボイラ、タービン、化学プラント、焼却施設、遮音壁など、断熱、保温、吸音、結露防止、耐火などの性能が求められる工作物にも石綿含有建材が使用されている可能性がある。」
つまり、その範囲はかなり広いものとなります。
なお、除去等を行う材料が、木材、金属、石、ガラス等のみで構成されているものなどで、手作業等により容易に取り外すことが可能である等、周囲の材料を損傷させるおそれのない作業などは除外されています。
また、事前調査結果を都道府県等に報告する義務が発生する場合があります。
この規制対象となる工作物は、具体的には次の17種類となります。これら工作物を解体・改造・補修する作業を伴う建設工事で作業の請負代金の合計が100万円以上であるものに事前調査結果の報告義務が課されています。
- ① 反応槽
- ② 加熱炉
- ③ ボイラ及び圧力容器
- ④ 配管設備(建築物に設ける給水設備、排水設備、換気設備、暖房設備、冷房設備、排煙設備等の建築設備を除く。)
- ⑤ 焼却設備
- ⑥ 煙突(建築物に設ける排煙設備等の建築設備を除く。)
- ⑦ 貯蔵設備(穀物を貯蔵するための設備を除く。)
- ⑧ 発電設備(太陽光発電設備及び風力発電設備を除く。)
- ⑨ 変電設備
- ⑩ 配電設備
- ⑪ 送電設備(ケーブルを含む。)
- ⑫ トンネルの天井板
- ⑬ プラットホームの上家
- ⑭ 遮音壁
- ⑮ 軽量盛土保護パネル
- ⑯ 鉄道の駅の地下式構造部分の壁及び天井板
- ⑰ 観光用エレベーターの昇降路の囲い(建築物に該当するものを除く。)
誤解のないように繰り返すと、上記17種類の工作物だけが事前調査の対象となるものではありません。
しかし、「石綿等が使用されているおそれが大きいものとして環境大臣が定めるもの」としてこれら17種類が定められているので、これらを自社で保有し、それに関連した工事が発生する場合は特に注意を要すべきでしょう。
安達宏之『企業事例に学ぶ 環境法マネジメントの方法 ―25のヒント―』
※本書は、本連載の記事を改訂・追加し、再構成したものです。
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(2024年07月)