各地に複数の事業所を持つ企業を訪問したところ、環境法対応の本社担当者が悩んでいました。産業廃棄物管理票(マニフェスト)を紙から電子に切り換えたいが、なかなかうまくいかないというのです。
「なぜ、うまくいかないのですか?」
「各事業所には電子マニフェストを導入するよう何度も要請しているのですが、『そうしたいが、収集運搬業者が嫌がり、実現しません。』と言われるのです...。」
数年前と比べると、電子マニフェストを導入する企業は格段に増えたように思いますが、一方で、こうした悩みを抱える企業も少なくありません。
廃棄物処理法では、産業廃棄物の処理を委託する排出事業者に対して、処理業者にマニフェストを交付し、その適正処理を確認することを義務付けています。
そのマニフェストについては、紙マニフェストを使うか、電子マニフェストを使うかは、原則として排出事業者が判断することになります。
ちなみに、筆者は、電子マニフェストを推奨しています。
理由は簡単です。筆者がこれまで見聞きしてきた環境法令違反の事例のうち、紙マニフェストに関する法令違反が最も多く、紙マニフェストを利用することは、法令違反リスクが高いためです。
排出事業者から見た、電子マニフェストと紙マニフェストの運用比較と、紙マニフェストにおける主な違反事例を記すと、次の図表の通りとなります。
電子マニフェストと紙マニフェストの運用比較
項目 | マニフェスト(産業廃棄物管理票) | 紙マニフェストの主な違反事例 | |
電子マニフェスト | 紙マニフェスト | ||
マニフェストの交付・登録 | 廃棄物を収集運搬業者、または処分業者に引渡した日から3日以内(土日・祝日及び年末年始を含めない)にマニフェスト情報を情報処理センターに登録 ※3日以内とは、廃棄物を引渡した日を含まない(以下同様) |
廃棄物を収集運搬業者、または処分業者に 引渡しと同時に マニフェストを交付 |
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処理終了確認 | 情報処理センターからの運搬終了報告、処分終了報告、最終処分終了報告の 通知(電子メール等)により確認 |
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○照合確認の義務を知らない、忘れるなどの理由により、 返送確認期限を過ぎても何も対応していない |
マニフェストの保存 | マニフェストの 保存が不要 (情報処理センターが保存、5年分は常時確認) |
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○紛失 などの理由により、5年分のマニフェストが見つからない |
産業廃棄物管理票交付等状況報告 | 情報処理センターが都道府県・政令市に報告するため、 報告が不要 | 都道府県・政令市に 自ら報告 | ○毎年6月末までの 報告をしない |
出典:1~3列は、公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センター「電子マニフェストをはじよう」から抜粋・要約。4列は筆者作成。
この図表のように、紙マニフェストのほうに高い法令違反リスクがあることは、一目瞭然です。
事業所にある保管マニフェストのファイルを開くと、交付時に控えとして保存するA票の「数量」欄などが空欄のものをよく見かけます。
しかし、これは明確な法令違反です。本法では、14項目の法定記載事項を定めており、「数量」はそのうちの1つです(本法第12条の3第1項、本法施行規則第8条の21参照)。
また、排出事業者には、返送状況を確認する義務があります。産廃の中間処理の場合、90日以内に返送が確認されない場合は、処分状況を確認し、それから30日以内に都道府県・政令市に報告することが義務付けられています。
返送しないのは処理業者の問題だとしても、確認を怠れば、排出事業者の問題となるわけです。
電子マニフェストにすれば、こうした違反は一気に減ります。紙マニフェストの場合は、担当者の力量に委ねざるをえないところが多いのに反して、電子マニフェストであれば、例えば、「数量」欄を未入力のままでは入力作業が終わらないので、いわば自然と法令遵守ができるというわけです。
では、どのように電子マニフェストに移行させればよいのでしょうか。
筆者は、次の2点を提案しています
1点目は、社内において、期限を定めて明確に電子化を指示することです。
冒頭の事例のように、複数の事業所を持つ企業が移行する場合、個々の事業所には処理業者との様々な付き合いもあり、その処理業者が難色を示すと、容易に移行できないことがあります。
あるいは、電子化するに際して移行当初は電子マニフェストの業務を覚えなければならず、それが面倒であるために、様々な理由を挙げて電子化に移行しない事業所もあるようです。
これに対しては、各事業所任せにせずに、期限を定めて、それまでに電子化に移行するよう本社が明確に指示することです。
事業所としても明確な指示が出れば、例えば難色を示している処理業者に対して、「本社の決定により電子化をしないと取引ができないので、○年○月までに移行してほしい」と依頼することができます。
2点目は、紙マニフェストの運用状況を厳格にチェックすることです。
電子マニフェストに比較的円滑に移行した企業の状況を見ると、移行前にも、内部監査等の機会を利用して、紙マニフェストの運用状況をしっかり確認していることが多いように感じます。
確認の結果、違反事例をいくつも見つけ、その是正状況が社内で共有される。また、日頃の運用やチェックの作業負荷が多いことが認識される。それによって、電子化のメリットへの共通理解が醸成され、円滑な移行に結びついているように思います。
2023年度、電子マニフェストの普及率はついに80%を超えました(枚数ベース)。2024年10月には84.2%となっています。
2024年8月に閣議決定された第5次循環型社会形成推進基本計画では、「産業廃棄物委託処理量に対する電子マニフェストの捕捉率」を現在の60%程度から、2030年には75%に引き上げる目標を掲げました。
マニフェストを電子化することへの国の姿勢は明確です。
処理委託後に不適正処理が発覚した場合、紙マニフェストの場合は、過去に遡って徹底的に保存されたマニフェストがチェックされます。そのときに今回紹介したような違反事例が見つかれば、排出事業者責任を追及されることは必至なのです
法令違反リスクを低減するために、電子化への移行が終わっていない企業は、やはりその移行を真剣に検討・実施すべき時期だと言えるのでしょう。
安達宏之『企業事例に学ぶ 環境法マネジメントの方法 ―25のヒント―』
※本書は、本連載の記事を改訂・追加し、再構成したものです。
https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/104656.html
(2024年12月)