ある工場を訪問した際のことです。
工場に業務用冷蔵冷凍機器があったので、フロン排出抑制法に基づく点検記録簿の提示を依頼したところ、7.5kW未満の機器については、簡易点検の記入済チェックシートのみ提示されました。
「簡易点検の記入済チェックシートがあることはわかりましたが、それらの機器の点検記録簿は整備していますか? 例えば、それらの機器のうち、過去に修理したものはありませんか? また、廃棄した機器の記録はありませんか?」
「7.5kW未満の機器については、簡易点検のチェックシートくらいしかありません。修理したものや廃棄したものは過去にいくつかあったはずですが、よくわかりません。」
筆者の経験で言うと、フロン排出抑制法は、廃棄物処理法に次いで違反しやすい法律です。対象機器が多くの事業所にあるために、法令遵守に関わる関係者が多く、その関係者への教育訓練を含むマネジメントシステムをしっかり構築し、運用していくことが難しいからでしょう。
また、公害・化学物質対策の対象となるような有害物質と異なり、フロンガス(フロン類)への対策の必要性への認識が薄いこともあるのかもしれません。
しかし、周知の通り、フロンガスは強力な温室効果ガスです。その管理は気候変動対策として重要なものですし、フロン排出抑制法によってその管理の徹底が義務付けられています。
冒頭のケースは法令違反に該当する可能性があり、その場合、行政の立入調査で発覚すれば行政指導の対象となりうるものです。
フロン排出抑制法に基づき業務用冷凍空調機器(第一種特定製品)の管理者等が作成・保存すべき書類は、次の図表の通りです。
業務用冷凍空調機器の管理者等が作成・保存すべき書面
書面等 | 保存期間等 | ||
---|---|---|---|
準備段階、使用時・整備発注時 | 作成(法定外) | 第一種特定製品のリスト | ― |
作成・保存 | 点検記録簿 | 第一種特定製品の廃棄等に係るフロン類の引渡しを行った日から3年間保存(機器譲渡時には引き継ぎ) | |
作成(対象事業者のみ) | フロン類算定漏えい量報告 | 事業所管大臣へ報告 | |
受取 | 充塡証明書・回収証明書 | 保存義務はないが、点検記録簿への転記や漏えい量の算定に必要 | |
受取(回収時のみ) | 再生証明書・破壊証明書 | 保存義務はないが、処理状況の確認が望ましい | |
廃棄時 | 交付・受取・保存 | 行程管理票(回収依頼書、委託確認書、再委託承諾書、引取証明書) | 3年間保存 |
受取 | 再生証明書・破壊証明書 | 保存義務はないが、処理状況の確認が望ましい | |
交付 | 引取証明書の写し | ― |
出典:「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(フロン排出抑制法)第一種特定製品の管理者等に関する運用の手引き」(第3版(令和3年4月)環境省 経済産業省)
本法では、対象機器の管理者に対して、すべての機器について3カ月に1回以上の管理点検を義務付け、さらに7.5kW以上の機器について1年又は3年に1回以上の専門業者等による本格的な定期点検を義務付けています。
簡易点検を含め、点検の結果は、点検記録簿に記録しなければなりません。
フロンガスの漏えいや機器の故障があった場合、修理しないままのフロンガスの充填は禁止されています。また、修理後にフロンガスを充填した場合は、充塡証明書をもらい、それを点検記録簿に記録しなければなりません。
さらに機器の廃棄の際にも、フロンガスを第一種フロン類充填回収業者に引渡さなければならず、そのために行程管理票(回収依頼書、委託確認書、再委託承諾書、引取証明書)の交付と管理が求められています。
このように、本法では、対象機器を持っている事業者に対して、日頃の使用時や廃棄時において様々な書面等の作成を義務付け、フロンガスを漏らさずに適切に管理することを義務付けています。
冒頭のケースでは、簡易点検のチェックシートのみを保存しているにすぎず、機器を修理した際の記録がありませんし、廃棄時の記録もありません。
管理方法として重要なものと思われるのは、「第一種特定製品のリスト」と「点検記録簿」です。
第一種特定製品のリストは、本法で作成・保存が義務付けられているものではありません。しかし、事業所にどのような機器があるのかを一覧で把握しないことには管理はできないことが多いと思われます。
また、事業所に設備を導入する際は、必ずこのリストに記載するか否かを検討する手順をつくるべきでしょう。
点検記録簿も重要です。様式は自由ですが、機器を廃棄後も3年間保存することが義務付けられている中で、記録すべき項目が多岐に渡ります。
冒頭のケースでは、修理したことも廃棄したこともはっきりしない機器がありましたが、点検記録簿があれば、そのようなことは生じないのです。
第一種特定製品のリストと点検記録簿をしっかり整備することにより、日頃の管理から廃棄までの本法の一連の義務にも対応しやすくなるでしょう。
なお、点検記録簿に記録すべき事項は、次の図表の通りです。
点検記録簿に記録すべき事項
記録事項 | 対応する義務等 |
<基本的な事項> | |
---|---|
(1)管理者名称(会社名、実際の管理従事者名) | 機器ごとに管理者を確認する。 |
(2)製品の所在、製品特定情報 | 型番・型式、用途(空調/冷凍冷蔵)、定格出力等を確認する。 |
(3)初期充塡量等(充塡されているフロンの種類及び量) | 銘板を確認する。わからない場合は、可能な範囲で推計を行う。 |
<点検/修理に関する事項> | |
(4)点検に関する事項
|
・簡易点検を実施する。 ・定期点検を実施する。 |
(5)修理に関する事項: 修理実施年月日/修理者名(会社名、修理実施者名)/修理内容・結果 | 漏えい・故障があった場合は、修理を実施する。 |
(6)修理困難時に記載する事項: 速やかな修理が困難である理由/修理の予定時期 | 修理困難理由・実施予定を検討する。 |
<充塡/回収に関する事項> | |
(7)充塡に関する事項: 充塡実施年月日/第一種フロン類充塡回収業者の氏名(会社名、充填者名)/充塡フロン類の種類・量 | 必要に応じて、(整備者が、)第一種フロン類充塡回収業者へ充塡を委託する。 |
(8)回収に関する事項: 整備時回収の実施年月日/回収した第一種フロン類充塡回収業者の氏名(会社名、回収作業者名)/回収したフロン類の種類・量 | 必要に応じて、(整備者が、)第一種フロン類充塡回収業者へ回収を委託する。 |
<機器廃棄時のフロン類の引取り又はフロン類が充塡されていないことの確認に関する事項> | |
(9)機器廃棄時に関する事項: フロン類の引取り又はフロン類が充塡されていないことの確認を行った年月日/引取り又は確認した第一種フロン類充塡回収業者の氏名(会社名、引取り又は確認を行った者の氏名) |
出典:同上資料をもとにまとめる。
安達宏之『企業事例に学ぶ 環境法マネジメントの方法 ―25のヒント―』
※本書は、本連載の記事を改訂・追加し、再構成したものです。
https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/104656.html
(2025年03月)