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法改正を見逃さない仕組みをつくる

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

 環境法の対応状況を確認するために、プラスチック成形加工を行う中小企業を訪問しました。

 この会社では、ISO14001に基づく環境マネジメントシステム(EMS)によって環境法対応の実務を行っていました。
 法対応の手順書があるというので拝見していたところ、法改正の調査手順としては、次の一文があるのみでした。

 「毎年9月、当社に適用されている法令の改正の有無について、環境省等のホームページを参照することにより調査する。」

 読者の皆さんの会社では、どのような法改正の調査手順を定めているでしょうか。
 実は、中小企業において筆者が最もよく見る手順が、上記のようなものです。

 法改正の調査手順について正解はありません。
 しかし、上記のような手順では、おそらく法改正を適切にフォローすることはできないことでしょう。

 実際に上記の会社では、法改正をきちんと追うことができずに、過去に法令違反の事態を招いたことがありました。
 具体的には、有害物質貯蔵指定施設を設置していたにもかかわらず、2012年施行の改正水質汚濁防止法の規制を見逃し、届出や構造基準順守などを行っていませんでした。行政の立入調査によってそれが判明し、行政指導を受けていたのです。

 筆者がこれまで見てきた様々な企業の法改正の調査手順の主なものをまとめると、次の図表の通りです。

法改正の主な調査手順

項目調査方法(例)筆者の評価
調査頻度 年1回、自社の都合に合わせた月を設定し、調査する。 × 例えば、「9月」と設定した場合、3月改正・4月施行の規制を見逃す。
1年に複数回、調査する。 段階的に法整備が進む状況と様々な月に施行される規制をフォローできる。
調査対象 検索先を「環境省等のホームページを参照」などとする。 × 省庁ウェブサイトにある程度の情報はあるが、探せる力量が担保されていない。また、他省庁や自治体の情報を追わない。
昨年調べたウェブサイト先(URL等)や省庁・自治体の部署名を押さえる。 抜け漏れは減る。特に、担当者が変更する可能性がある企業では有効。
有料の法改正データベースを利用する。 抜け漏れは減る(担当者の力量も一定程度カバーできる)。
調査機会 EMS上の手順で事務局が調査する。 本業上で知りえた法改正情報を事務局がキャッチできないリスクがある。
法規制の適用を受ける部門担当者が集まるような本業の会議体で検討する機会を設ける。 本業上で知りえた法改正情報を共有でき、かつ、改正法が自社に適用されるか否かを実務的に検討する機会が増える。
調査者①
(担当者数)
担当者1名が調査する。 × 社員の力量次第で調査レベルが落ちる。引継ぎができなくなる。
複数の社員が調査し、議論する機会を設ける。 クロスチェックが可能になり、調査漏れが減る。また、力量も向上する。
調査者②
(本社と事業所)
本社が国の法令を調査し、事業所が自治体の条例を調査する。 事業所によってチェックレベルに差が出る。
上記同様、事業所が条例を調査するが、本社がチェックする。 国の法令と同様のレベルを確保できる。

 このように、企業によって調査手順には様々なものがあります。項目ごとにそのポイントを説明していきましょう。

 まず、調査頻度について。前述したように、多くの中小企業では、年1回程度、自社の都合に合わせた月を設定して調査しています。

 例えば、ある企業で、10月から新しい期が始まるため、9月中に法改正情報のチェックを終わらせて法規制登録簿を整理し、10月からそれを使用するとします。
 その場合、仮に法改正が3月にあり、かつ、その施行が4月の場合、新規制への対応に間に合わない可能性が出てしまいます。

 あるいは、前号で解説した、2020年4月施行の改正フロン排出抑制法の場合、法律改正は6月でしたが、詳細なルールを定めた政省令改正は10月でしたので、上記の企業はやはり4月施行時点での準備が整わないリスクが発生してしまいます。

 このように、調査頻度を年1回にするというのは避けたほうがよいでしょう。

 次に、調査対象について。検索先を「環境省等のホームページを参照」などとすることはお勧めできません。
 これでは具体的にどのような情報によって、法改正の有無をチェックしたのかが社内で共有されず、チェックの形骸化を引き起こしてしまうからです。

 昨年調べたウェブサイト先(URL等)や省庁・自治体の部署名を押さえることや、有料の法改正データベースを利用するなど、実効性のある検索先を提示すべきでしょう。

 調査機会についても検討の余地があります。
 筆者が気になるのは、ISO事務局などが、本業の流れとはかかわりのないところで独自に法改正情報を調べ、社内で共有化されていない場面を多く見ることです。

 その場合、本業上で知りえた法改正情報を事務局がキャッチできないリスクが出てしまいます。これを避けるためには、法規制の適用を受ける部門担当者も集まるような本業の会議体で検討する機会を設けることが望まれます。

 それが難しい場合でも、例えば、ISO事務局などが、本業の会議体において、自ら調べた法改正の調査結果を簡単に報告する手順を設けるだけでも、一定の効果はあると思います。

 さらに、法改正の調査者を誰にするのか、あるいは、何名体制にするのかも検討を要する事項となります。

 担当者が1名の場合、社員の力量次第で調査レベルが落ちますし、かつ、引継ぎができなくなり、継続的な調査体制を構築できなくなるリスクがあります。
 やはり、複数の社員が調査し、議論する機会を設けることが望まれます。

 また、本社が国の法令を調査する一方、自治体の条例の調査については、所在する各事業所に丸投げする企業が多くあります。これは大企業のほうで発生しやすい事象かもしれません。
 しかし、これは、事業所によってチェックレベルに差が出るので、避けるべきです。

 ある企業では、事業所が条例を調査する手順ではありましたが、年1回の内部監査において、事前に監査員が条例を調べた上で事業所を訪問し、条例改正の有無について確認と議論を行う機会を設けていました。事業所間のレベルの差を無くす試みとして高く評価できると思います。

 実際の調査手順は、上記の図表の各項目を様々なパターンで掛け合わせてつくるものです。その掛け合わせの仕方は、各企業の実状に即したものを選んでいけばよいでしょう。

 法改正は今後も続いていきます。環境法はこれからも厳しくなっていきます。
 現時点での法令順守の状況に問題がない場合であっても、「数年後もこの仕組みで法改正が追えるかどうか」を頭に入れながら手順の整備を検討することが不可欠です。

参考文献
安達宏之『企業と環境法 ~対応方法と課題』(法律情報出版)
http://www.kankyobu.com/sp/book3.htm

(2020年03月)

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