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法の役割分担を踏まえて管理する

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

 関西にある小さな印刷会社を訪問し、「環境法の対応で困っていることは何ですか?」と質問したところ、「対応すべき法律の数が多くて管理がたいへんです」という返答が返ってきました。

 しかし、工場内を見渡しても、環境負荷が大きい設備等は無く、適用される環境法がそれほど多いとも感じられません。そこで、自社に適用される環境法の一覧表を見せていただくようお願いしました。
 すると、A3判の用紙で50ページ以上の一覧表が出てきました。

 この規模の会社でここまで膨大な一覧表を持っているところは決して多くありません。
 「なぜだろう?」と中身を確認していたところ、直接適用されていない法律が多数掲げられていたのです。

 例えば、フロン規制に関連する法令として、オゾン層保護法、フロン排出抑制法、家電リサイクル法、自動車リサイクル法の4法が掲載されていました。

 しかし、この会社では、フロン規制に関連する対象設備としては、せいぜい業務用エアコンです。上記のうち、フロン排出抑制法の規制は適用されますが、他の法律の規制は適用されていませんでした。つまり残りの3法は掲載する必要は必ずしもないのです。
 単に、フロン規制に関連する法令はすべて自社にも適用されると勘違いして、管理対象としていたのです。

 このように、管理対象とする必要がないにもかかわらず、管理対象としたがゆえに管理がたいへんになってしまい、かえって自らの管理を難しくしてしまう企業が時折見かけます。
 そうしたことがないよう、法の役割分担を知り、それぞれの法が自社を規制対象としているかどうかをチェックすることが必要です。

 上記のフロン規制に関連する法令を例に取り上げてみましょう。
 次の図表の通り、それぞれの法律には「役割」があり、規制内容は異なってきます。

法の役割分担(例:フロン規制)

法律名フロン規制に関する主な規制
オゾン層保護法 ●フロンの種類によって製造や輸入を禁止または上限を設定し、対象ガスのメーカーや輸入業者にその順守を求める
フロン排出抑制法 フロンガスのメーカーや輸入業者、フロンを内蔵した製品のメーカーや輸入業者にノンフロン・低GWPフロンへの転換を求める
業務用エアコン・冷凍冷蔵機器(第一種特定製品)の利用者に所定の管理と廃棄の手順の順守を求める
●第一種特定製品の充填・回収、再生、破壊する場合は、登録や許可が必要
家電リサイクル法 ●家電4品目(家庭用 のエアコン、テレビ、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・衣類乾燥機)のメーカーや輸入業者にリサイクルの義務とともに、エアコンと冷蔵庫等のフロン回収、再利用・破壊を求める
消費者は、小売業者等に適切に引き渡し、リサイクル料金等の支払いをする
自動車リサイクル法 車のメーカーや輸入業者に、カーエアコン(第二種特定製品)に内蔵するフロン、エアバッグ、シュレッダーダストのリサイクル(フロンは破壊)を求める
車の所有者は新車購入時にリサイクル料金を負担し、使用済の車を引取り業者に引き渡す

 オゾン層保護法の主な役割は、フロンガスのメーカーや輸入業者に対して、フロンの種類によって製造や輸入を禁止または上限を設定することにあります。
 したがって、今回の印刷会社のように、フロンを内蔵した製品の利用者に対して直接の規制を行う役割はありません。

 一方、フロン排出抑制法には広範な役割が与えられています。
 まず、フロンガスのメーカーや輸入業者、フロンを内蔵した製品のメーカーや輸入業者に対して、ノンフロン・低GWPフロンへの転換を求めています。
 この規制は、あくまでも関連メーカーや輸入業者が対象となるので、フロンを内蔵した製品の利用者(管理者)に対して直接規制するものではありません。

 次に、業務用エアコン・冷凍冷蔵機器(第一種特定製品)の利用者に対して、所定の管理と廃棄の手順(定期的な点検義務など)の順守を求めています。
 これは、製品利用者への規制であり、対象事業者は膨大にのぼることになります。今回の印刷会社を含めて、多くの企業が適用される規制はこの箇所となります。

 さらに、第一種特定製品の充填・回収、再生、破壊する場合は、登録や許可が必要となります。

 家電リサイクル法には、規制対象である家電4品目の中に、家庭用のエアコンや冷蔵庫・冷凍庫が含まれています。そして、そのメーカーや輸入業者にリサイクルの義務とともに、エアコンと冷蔵庫等のフロン回収、再利用・破壊を求めているのです。
 さらに、使用済の家電四品目については、消費者に対して、小売業者等に適切に引き渡し、リサイクル料金等の支払いをすることを義務付けています。

 ここでのポイントは、規制対象が「家庭用」のエアコンや冷蔵庫等であることです。  企業でも、工場内の休憩スペースなどで家庭用エアコン等を設置していることがあり、そうした場合は、廃棄時に本法の義務が適用されることになります。
 ただし、これはあくまでも家電リサイクル法の規制であるため、例えばフロン排出抑制法に基づく管理や廃棄の手順の義務はありません。

 最後の自動車リサイクル法では、車のメーカーや輸入業者に対して、カーエアコン(第二種特定製品)に内蔵するフロン、エアバッグ、シュレッダーダストのリサイクル(フロンは破壊)を求めています。また、車の所有者に対して、新車購入時にリサイクル料金を負担し、使用済の車を引取り業者に引き渡すことを求めています。

 当然のことながら、今回の印刷会社のように、車のメーカー等でなければ、直接的なリサイクルの義務はありません。
 また、車を所有している場合でも、すでに購入時にリサイクル料金は支払っているので、環境法の一覧表で厳密に管理しなくても、所有者としての義務を満たさないことは通常は起こりえないと思います。

 以上の通り、「フロン規制に関連する法令」といっても、その役割は様々なのです。

 企業担当者としては、各法律が本当に自社に適用されるものなのかどうかを慎重に見極め、適用されるものについてはきちんと管理し、適用されないものは峻別するなど、メリハリをつけた管理が求められています。

参考文献
安達宏之『企業と環境法 ~対応方法と課題』(法律情報出版)
http://www.kankyobu.com/sp/book3.htm

(2020年06月)

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