大栄環境グループ

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やるべきことはシンプルかつ具体的に記述する

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

 ゴム製品を製造・小売販売する企業のご担当者とオンラインで会議をしていたときのことです。ご担当者から、こんな悩みが聞かされました。

 「法規制登録簿の内容がわかりづらく、社内で不評なのだが、どのように改善したらよいかわからないのです…。」

 「法規制登録簿」とは、同社に適用される環境法の一覧表のことです。
 その名称は企業によって様々ですが、ISO14001やエコアクションなどの外部認証を受けている企業はもちろん、法令順守に積極的な企業は概ねこうした一覧表を作成しています。
 私自身、法令順守においてこれは必須のものであると考えています。

 しかし、法規制登録簿に対しては、上記のような悩みがよく出てきます。

 次の図表では、自社に適用される環境法の規制対応の記述について、悪い記述例と良い記述例をいくつか掲げてみました。

適用される環境法の規制対応の記述例

適用される環境法規制悪い記述例良い記述例
大気汚染防止法17条1項、2項 ばい煙発生施設を設置している者又は特定物質を発生する施設を設置している者は、事故が発生し、ばい煙又は特定物質が大気中に多量に排出されたときは、直ちに、応急措置を講じ、かつ、その事故を速やかに復旧するように努めなければならない。この場合、直ちに、その事故の状況を都道府県知事に通報しなければならない。 事故が発生し、〇〇棟から特定物質(アンモニア)が多量に漏えいした場合は、緊急事態手順書に沿って、応急措置等を講じ、直ちに県(〇〇対策課)に通報する。
水質汚濁防止法12条1項 特定事業場の排水口において排水基準に適合しない排出水を排出してはならない。 排水管理規定に基づき、定期的に排水口の測定を行い、基準値を超えていないことを確認し、その結果を3年間保存する。
廃棄物処理法12条6項 産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、政令で定める基準(委託基準)に従わなければならない。 ・許可業者と法定事項を含む契約書を締結する。
・許可証が有効期限内であることを確認する(期限が近ければ取り寄せる)。
※詳細は、〇〇県産廃対策課HP参照

1つ目の大気汚染防止法では、事故時の措置を定めた条文を取り上げています。

 悪い例では、事故が発生した場合、応急措置等を講じることや都道府県への通報義務が記載されており、一応、とるべき対応手順が書かれています。
 しかし、文章が長く、しかも、工場等のどこで発生しうる事態なのかわかりません。これでは、日ごろ管理し、事故の際に注意すべき対象がわからなくなってしまいます。

 一方、良い例では、シンプルでわかりやすくまとまっています。  「〇〇棟から特定物質(アンモニア)が多量に漏えいした場合」と対象を明確にするとともに、緊急事態手順書も作成していることがわかり、対応手順もはっきりしています。

 2つ目の水質汚濁防止法では、特定事業場における排水基準の順守を定めた条文を取り上げています。

 悪い例では、シンプルであるものの、条文をほぼそのまま引用するのみであり、基準に適合しない排水を防止するために何をするのかがわかりません。

 一方、良い例では、シンプルでわかりやすくまとまっています。
 一方、良い例では、排水基準を順守するためにやるべきことが明確に定められています。  「排水管理規定」という詳細を定めた文書の存在があることを明示し、それに基づく定期的な測定や測定結果の3年間保存という実施事項が明確になっています。

 3つ目の廃棄物処理法では、産業廃棄物の処理を委託するときに順守すべき委託基準を定めた条文を取り上げています。

 悪い例では、やはり条文のままであり、具体的に何をするのかわかりません。

 委託基準は、例えば契約書の法定記載事項の記載義務など、詳細な義務から成っており、すべてを法規制登録簿に記載すると膨大な量になってしまいます。
 そこで、ある程度圧縮などの工夫が必要となりますが、この悪い例では、あまりに圧縮しすぎており、どのように調べればよいかも何もわかりません。

 一方、良い例では、委託基準順守のポイントが例示されるとともに、参照先も明示しているので、担当者が委託基準をよくわかっていなくても、調べ方がわかります。

 そもそも、企業がやるべき事項を文書化することを一般的に定めた法令はなく、書き方に正解があるわけではありません。
 長々と文書化しても構いません。ただし、それでは、利用しづらいでしょうし、結局は管理の形骸化を招くことになるでしょう。

 各社が、担当者の力量を持たせながら、いかに効率的で有効な文書を試行錯誤しながらつくっていくしかないのです。

 そのときは、上記のように、やるべきことを「シンプルかつ具体的に」記述することを心がけて対応するとよいでしょう。

参考文献
安達宏之『企業と環境法 ~対応方法と課題』(法律情報出版)
http://www.kankyobu.com/sp/book3.htm

(2020年10月)

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