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労働安全衛生法の化学物質対策にどう対応すべきか

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

労働安全衛生法を「環境法」だと思いますか?

行政や研究者の世界では明らかに環境法ではないとはいえ、企業によっては「環境法」と捉えて運用しているところが少なくありません。

一方、本法を環境法と捉えずに、別に対応している企業もありますので、環境コンサルタントの筆者が特にこの法律について確認する際には、その企業がどのように対応しているのかを慎重に聞くようにしています。

金属加工の工場を訪問したときのことです。
その企業が適用対象としている環境法の資料を見ている中で、「おや」と気になる点があったので、サステナビリティ推進課のご担当者に聞いてみました。

「化管法のPRTRやSDSの義務が書かれていますが、労働安全衛生法の化学物質規制が書かれていませんね。総務部や安全衛生委員会などの別部署で対応されているのですか?」

「はい。労働安全衛生法の対応については、総務部が所管しています。」

「わかりました。では、後で総務部のほうで対応状況を聞いてみますね。」

ところが、その後、総務部に行って同様のことを聞くと、「いや、化学物質対策はサステナビリティ課が対応しています。ウチではありませんよ」と言われてしまいました。

つまり、この企業では、労働安全衛生法の化学物質規制について明確な管理体制が整備されていなかったのです。

労働安全衛生法の規制をどこまで環境上の取組みとして対応するか否かについて、企業によって考え方は様々です。
正しい回答は一つではないでしょう。

しかし、少なくても上記のように事実上、無管理の状態であるのが誤っていることは明らかです。何らかの対応が必要です。

化学物質対策を定める環境法は多岐にわたりますが、代表的なものとしては、化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)と化管法(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律)があります。

化審法・化管法と労働安全衛生法の化学物質規制の相違をまとめると、次の表のようになると思います。

主な環境法と労働安全衛生法の化学物質規制の相違

法律名規制相違のポイント
主な環境法の化学物質規制 化審法 人の健康を損なうおそれなどがある化学物質による環境の汚染を防止。新規化学物質の製造・輸入の事前審査や、上市後の化学物質の製造・輸入の届出や取扱い義務がある。 ・対象化学物質を主に年1t以上製造・輸入する場合に届出等の義務
・主に製造・輸入業者が規制対象となり、単なる取扱い業者は規制対象ではない。
化管法 事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境保全上の支障を未然に防止。PRTR制度(対象化学物質の排出・移動量の届出)とSDS制度(事業者間で対象化学物質を提供する際に取扱い情報等を提供)を柱とする。 対象物質で重複がある。
SDS制度も重複する(ラベル表示は努力義務)。
・PRTRという独特の法制度がある。
・化学物質リスクアセスメントの義務はない。
労働安全衛生法 ・労働災害の防止のため、安全衛生推進者等の選任など、安全管理体制の整備を義務付けるとともに、危害防止基準や自主的活動の促進などを定める。
化学物質規制として、製造等の禁止、特化則等による個別規制、SDS・ラベル表示・リスクアセスメント等の義務がある。
対象物質が多い(重複もある)。
化管法と同様にSDS制度がある(対象物質に重複がある)。
特化則等による取扱いの詳細な規制措置がある。
化学物質リスクアセスメントという独特の法制度がある。
・ラベル表示が義務。

 まず、化審法は、人の健康を損なうおそれなどがある化学物質による環境の汚染を防止することを目的にしています。
 そのために、新規化学物質を製造・輸入しようとするときに事前審査を義務付けるとともに、市場で出回った後についても、対象化学物質を年1t以上製造・輸入する際の届出や取扱い義務などを定めています。

 労働安全衛生法との相違を考えるときには、化審法の規制対象が主に製造・輸入業者であり、単なる化学物質の取扱い業者は規制対象とはならないことを押さえるとよいでしょう。

 次に、化管法は、事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境保全上の支障を未然に防止することを目的としています。
 具体的には、対象化学物質の排出・移動量について年に1回届出を義務付けるPRTR制度と、事業者間で対象化学物質を提供する際に取扱い情報等を提供することを義務付けるSDS制度を定めています。

 労働安全衛生法との相違を考えるときには、まず、どちらの法律もSDS制度を定め、かつ、対象となる化学物質に重複があることを押さえることが大切です。
 一方、PRTR制度は化管法独自のものであり、また、ラベル表示は努力義務となることも認識すべきでしょう(労働安全衛生法の場合、ラベル表示は義務)。

 以上を前提に、労働安全衛生法の化学物質対策を見ていきましょう。

 労働安全衛生法は、労働災害の防止のため、安全衛生推進者等の選任など、安全管理体制の整備を義務付けるとともに、危害防止基準や自主的活動の促進などを定めている法律です。

 その規制の中には、広範囲な化学物質対策も定めています。現時点で670を超える化学物質を取り扱う事業者に、SDS(安全データシート)の交付やラベル表示、化学物質リスクアセスメントを義務付けています。

 さらに、健康障害が多発する100以上の化学物質については、特定化学物質障害予防規則や有機溶剤中毒予防規則等により、個別に厳しく規制しています。

 こうした労働安全衛生法の化学物質対策を、化審法・化管法のそれと比べてみると、特に取り扱う段階において、対象物質やSDS制度の点で化管法との重複があることに気づかされます。

 ある化学物質を取り扱う工程があるとしましょう。
 取り扱うに際して、労働安全衛生法に従って、SDSや化学物質リスクアセスメントの結果に基づき、その注意点などを確認し、作業者の健康被害等の防止に努めることになります。
 また、化管法に従って、SDSに基づき、その注意点などを確認し、環境汚染につながらないように努めることになります。

 このように特定の工程を想定するとわかりやすいと思うのですが、両者の規制は重複していることになります。
 したがって、一つの部門で対応方法を管理したほうが効率的であるとは言えるでしょう。

 一方、すでに労働安全衛生部門と環境部門が別個に動き、組織的に統合が難しい場合は、少なくても両者間での情報のやりとりが継続的に行えるような手順を整備し、例えば法改正の情報入手に抜け漏れがないようにすることが必要と言えるでしょう。

 社内の作業者の健康や安全に影響を与えるものが外部に出れば、環境汚染につながるおそれがあるということと、そもそも環境法と労働安全衛生法の規制対象や規制事項が重複していることを踏まえ、実効的かつ継続的な対応方法を考えることが肝要です。

参考文献
安達宏之『企業と環境法 ~対応方法と課題』(法律情報出版)
http://www.kankyobu.com/sp/book3.htm

(2021年06月)

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