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工場の「緑地」にどう取り組むべきか

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

 東海地方のエネルギー関連の工場を訪問したときのことです。工場内の移動を自転車や車で行うなど、かなり広大な敷地で操業していました。

 「緑地の図面を見せていただけますか?」
会議室で書類を確認する中で聞いてみると、緑地を含む工場の地図が出てきました。
しかし、どうも現状と異なるようです。

「地図では、東の建屋の横が緑地になっていますが、確かこの場所には資材置き場がありましたよね?」
「あ、確かにそうですね…。」

 後で調べてもらったところ、元々は緑地だったのですが、生産工程の変更に伴う建屋改修の際に、生産管理の部署と構内常駐業者の勝手な判断で資材置き場にしてしまったということでした。

 この工場には工場立地法が適用され、この地域では緑地面積が敷地の20%以上と定められていました。しかし、資材置き場になってしまった面積を引いて工場内の緑地面積を計算してみたところ、緑地面積は18%になっていました。
 本法の基準を満たさず、違法な状態になっていたのです。

 工場立地法の規制対象となる工場では、生産施設の面積の上限が設定されるとともに、緑地などの面積の下限が設定されます。

 こうした基準を満たしていない場合、市町村は勧告や変更命令を行うことができます。

 今回のような事態にならないように、日ごろから工場内の緑地等が法の規制を受けていることを関係者に周知するために、教育訓練を計画することが重要です。
 また、緑地等に手を加える場合は、必ず本法の担当部署がチェックできるようにする手順を設け、違反しないための仕組みを整備することも必須でしょう。

 ところで、工場緑地への取組みについて、本法の順守はもちろんですが、SDGsなどによって生物多様性への取組みが年々重要性を増しています。
 しかし、その対応方法に悩む企業が少なくありません。

 こうした状況を踏まえると、工場の緑地管理について、ただ工場立地法の順守だけにとどめるのは、いかにも「もったいない」と私には感じます。

 実は、次の図表のように、工場立地法の「緑」には「生物多様性」の視点が圧倒的に不足しています。

工場立地法の「緑地」と生物多様性条例の例

工場立地法生物多様性条例の例
■「緑地」の定義(本法4条1項1号)
「緑地(植栽その他の主務省令で定める施設をいう。以下同じ。)」
 ↓
●「緑地」の要件の一つ
「低木又は芝その他の地被植物(除草等の手入れがなされているものに限る。)で表面が被われている土地」(本法施行規則3条)

●対象となる緑地の例(工場立地法運用例規集より)
・「樹木の生育する土地については、当該土地…の全体について平均的に植栽されている必要があり…」
・「定期的に整枝・剪定等手入れを行い、工場等の周辺の地域の生活環境を損なうものでないこと」
■例:神戸市生物多様性の保全に関する条例

(緑化における配慮)
第16条 市及び事業者は,緑地の造成その他の緑化に係る事業を行うときは,規則で定める植物種を使用しないよう努めなければならない。
 ↓
●「規則で定める植物種」(条例施行規則別表第2)
・オオバヤシャブシ、ハゴロモモ、園芸スイレンなど29種の外来種

 例えば、本法施行規則3条では、本法の「緑地」の要件の一つとして、「低木又は芝その他の地被植物(除草等の手入れがなされているものに限る。)で表面が被われている土地」を挙げています。

 また、同法の運用指針となる「工場立地法運用例規集」(文末にURLを提示)では、「樹木の生育する土地については、当該土地…の全体について平均的に植栽されている必要があり…」と定めたり、「定期的に整枝・剪定等手入れを行い、工場等の周辺の地域の生活環境を損なうものでないこと」と定めたりしています。

 これらの記述は、おそらく単なる「荒地」を「緑地」と主張させないようにする趣旨なのでしょうが、この規定からは生物多様性の保全の視点がすっぽり抜け落ちています。

 そもそも生物多様性とは、「様々な生態系が存在すること並びに生物の種間及び種内に様々な差異が存在すること」です(生物多様性基本法2条1項)。
 つまり、生態系の多様性、種の多様性、遺伝子の多様性の3要素を含んだ概念です。緑地だからよいというものではなく、それがこうした多様性の保全に寄与しうるものかどうかが重要なのです。

 「神戸市生物多様性の保全に関する条例」では、希少野生動植物種の保全や、外来種による生態系被害の防止、市民等との協働による保全活動などを定めていますが、企業に関連する規定もいくつかあります。

 その中には、「市及び事業者は,緑地の造成その他の緑化に係る事業を行うときは,規則で定める植物種を使用しないよう努めなければならない。」という条文もあります(16条)。
 「規則で定める植物種」とは、本条例施行規則でオオバヤシャブシなど29種の外来種が定められています。

 緑地整備の際に外来種を安易に使用せず、できる限り在来種によって対応することを求めていると言えるでしょう。

 生物多様性の視点から緑地を考える場合は、工場立地法に沿って考えても前向きな対応は難しいと言わざるをえません。
 こうした生物多様性保全条例など、視野を広げて検討していくとよいでしょう。

参照資料
「工場立地法運用例規集」
https://www.meti.go.jp/policy/local_economy/koujourittihou/hou/170401_koujourittihou-unyoureiki.pdf

参考文献
安達宏之『企業と環境法 ~対応方法と課題』(法律情報出版)
http://www.kankyobu.com/sp/book3.htm

(2021年07月)

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