九州地方のプラスチック成型加工を営む企業に環境事務局の方々とリモート会議をしていたときのことです。
その企業はISO14001を認証し、環境法への対応が適切かどうかを評価する「順守評価」の仕組みを持っていました。それは、年2回、各部門の担当者が、自部門の順守状況を自ら評価するというものでした。
「手順書によれば、確認した順守状況について順守評価表に記入しているようですね。順守評価表を見せていただけますか?」
事務局からその表が提示され、中身を見ると、どの項目も「○」印が付いています。
ただし、なぜ「○」印を付けているのか、その表だけからはよくわかりませんでした。
例えば、「毒物及び劇物取締法」(毒劇法)の義務規定には、盗難・紛失・飛散防止の措置を講じることや、貯蔵陳列場所に「医薬用外劇物」等の表示をすることなどが義務付けられています。
ところが、その順守評価表を見ると、「取扱い・表示基準の順守」とのみ書かれてあり、そこに「○」が付いていても、上記の規制を順守していることをチェックしたかどうかわからなかったのです。
そこで、製造部門の方と話す際、スマートフォンのビデオ機能を使い、製造部門が管理する毒物・劇物の置場を見せてもらいました。
すると、扉も何もない棚に劇物が置きっ放しになっており、かつ、何の表示もない状態でした。
このように、ISO14001を認証取得している企業においても、環境法の順守状況のチェックに課題が多いことは少なくありません。
これまでの筆者の経験から、環境法順守状況のチェックの課題と対策は、次の図表の通りです。
環境法順守状況のチェックの課題と対策
◆環境法順守の基本◆ ○適用される規制を「見える化」する(一覧表など) ○順守状況を定期的にチェックする手順をつくる ○上記2つを運用できる人材を育成する |
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定期的なチェック手順がある企業の課題と対策 | |
課題 | 対策 |
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■チェックの根拠が不明 例:何を根拠にチェックしているのか、一覧表に記載がない ■チェックを書面のみで行っている 例:保管場所などをチェックせず、一覧表だけ見てチェックしている ■セルフチェックで終わらせている 例:自らの順守状況をチェックするので、ついつい「○」にしてしまう ■チェック者の力量が足りない 例:力量の無い新任者にチェックをさせている |
■チェックの根拠を明示する 例:一覧表に「評価の根拠」の列をつくり、「○」「×」の根拠を明確にする ■現場チェックも組み込む 例:一覧表に「保管場所の確認」をチェック項目に加える ■第三者チェックの手順をつくる 例:順守評価を社内外の第三者に委ねる。又は、内部監査を充実させる ■チェック者の教育を行う 例:チェック者の社内資格制度を設け、教育計画を策定し、実施する |
まず、言うまでもありませんが、環境法を順守し続けるためには、その順守状況をチェックする手順を整備することが不可欠です。
「なにをいまさら」と思う方もいるかもしれませんが、ISO14001やエコアクションなどの環境マネジメントシステムを運用していない国内の企業の大半は、こうした仕組みがありません。改めて確認しておきたいと思います。
その上で、そうした手順があっても課題はいろいろあります。
冒頭の事例で紹介したように、チェックのための一覧表があっても、何を根拠にチェックしているのかよくわからないことがあるのです。その多くは、一覧表に記載がないことに起因します。
そこで、最も簡便な対策としては、一覧表に「評価の根拠」の列をつくり、「○」「×」の根拠を明確にするのです。例えば、毒劇法であれば、その欄に、「盗難・飛散防止策がある(施錠など)」、「医薬用外劇物の表示がある」などの項目を設けることにより、チェック者が何を基に「○」「×」を付けるのかが明確になります。
また、そうすることより、チェック作業について一覧表を見るだけで終わらせることなく、保管場所などの現場へ行ってチェックすることがわかるようになるでしょう。
さらに、ISO14001やエコアクションを認証している企業においても、その多くは、日ごろ順守を実施している担当者自身が、順守のチェックもしていることがあります。
一般に自分がやっていることをチェックすると、その作業はどうしても形骸化しがちとなります。
その意味では、第三者がチェックする手順をつくることも一考でしょう。
最近では、順守評価を社内外の第三者に委ねることをしばしば見かけるようになりました。実は、冒頭の事例も、筆者がその立場となり、順守のチェックをしていたときのエピソードです(ただし、内容を大幅に改変しています)。
ちなみに、これを内部監査において社内で実施しようと、順守に関する監査項目を充実させ、順守評価と内部監査を一体化させている企業もあります。
そもそもISO14001では、内部監査において法令順守も監査するはずなのですが、残念ながらこれも形骸化しているケースが少なくないので、参考になる取組みです。
一方、こうしたチェックの取組みをいくら強化しても、チェック者の力量が足りなければ、すべての取組みは水泡に帰し、形骸化することになります。
その意味では、チェック者の社内資格制度を設け、教育計画を策定し、実施するなどの取組みも不可欠であると言えるでしょう。
(2021年10月)