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規制対象を見極める

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

 ある精密機器のメーカーの工場を訪問していたときのことです。

 製造工程の一部において、やや騒音が気になるところがありました。そこで、「騒音規制法などの規制の適用は受けていますか?」と聞いたところ、次のような答えが返ってきました。

 「実は、私も前からその点が気になって、昨年、敷地境界線で騒音を測定してみたところ、騒音規制法の規制基準をオーバーしていました。どうすればいいでしょうか…?」

 一般論として、事業所の騒音が気になったときに測定をしてみることはよいことでしょう。ただし、環境法への対応方法の良し悪しとしては、少々検討が必要だろうと思います。

 環境法を含めて、規制措置を定める法律では、その規制対象を厳格に定めています。
 したがって、法令調査をする際には、まずこの規制対象を見極めることが重要となります。

 環境法の規制対象の例を掲げると、次の図表の通りです。

環境法の規制対象の例

法律名規制対象注意すべき点
水質汚濁防止法
(排水規制)
公共用水域に排水し、かつ、特定施設を設置している事業場 ○公共用水域に排水しても、特定施設が無ければ該当しない
○特定施設は約100種類あるので、しっかり確認する
○条例による横出し規制が無いかどうか確認する
騒音規制法
(事業場規制)
指定地域内にあり、かつ、特定施設を設置している事業場 ○特定施設は11種類のみ。指定地域内でも、それが無ければ該当しない
○条例による横出し規制が無いかどうか確認する
悪臭防止法
(事業場規制)
規制地域内にある事業場 ○特定の施設に限定せず、対象地域内のすべての事業場を規制する
○条例による横出し規制が無いかどうか確認する

 まず、水質汚濁防止法の排水規制の場合、規制対象となるのは、「公共用水域に排水し、かつ、特定施設を設置している事業場」となります。

 「公共用水域」とは、かなり広い概念のものであり、海や川、それに接続する水路全般を指します。わかりやすく言えば、終末処理場に接続する下水道に排水しない限り、その排水先は原則として公共用水域に該当すると考えるとよいでしょう。

 「特定施設」とは、本法施行令別表第1に掲げられているものです。
 約100種類あり、全業種に関係する「65 酸又はアルカリによる表面処理施設」や「71 自動式車両洗浄施設」もあれば、特定の業種に関係する「62 非鉄金属製造業の用に供する施設」の「イ 還元そう」などもあります。

 公共用水域に排水していたとしても、特定施設が無ければ本法の排水規制の適用は受けません。
 極端に言うと、有害物質を垂れ流していたとしても、水質汚濁防止法に基づく法令違反に問われることはありません(ただし、廃棄物処理法の不法投棄に該当し、検挙される可能性はあるでしょう)。

 また、都道府県等の条例では、特定施設以外の施設を規制対象にしていることもあります。
 例えば、静岡県生活環境保全条例では、「アスファルトプラントの廃ガス洗浄施設」など4施設を独自規制の対象にしています。

 次に、騒音規制法の場合、指定地域内にあり、かつ、特定施設を設置している事業場が規制対象となるので、水質汚濁防止法の規制対象の設定の仕方と似ています。

 ただし、この特定施設については、水質汚濁防止法が約100種類を定めているのに対して、騒音規制法では7.5kW以上の空気圧縮機など11種類のみとなります。

 一方、都道府県等の条例が独自に定める対象施設は多く見られます。
 例えば、前出の静岡県条例では、0.75kW以上のクーリングタワーなど14種類を規制対象にしています。

 さらに、悪臭防止法では、規制地域内にある事業場を規制対象にしています。
 この法律は、前述の2つの法律と異なり、特に特定の施設に限定していないことに注意すべきです。

 つまり、対象地域内のすべての事業場を規制しているのです。悪臭を発生させている場合、規制基準を超えていれば、どのような事業場であっても法令違反になるということです。

 また、本法についても、条例による横出し規制がありうるので、注意すべきでしょう。
 例えば、前出の静岡県条例では、悪臭防止法と異なり、セロファン製膜施設など10施設に限定して、設置等の届出や規制基準順守を義務付けています。

 以上のことを踏まえて、冒頭でご紹介した事例を見ると、騒音が気になるのでやみくもに測定するだけでなく、同時に、騒音規制法の特定施設や条例の対象施設が工場内にないかどうかも確認すべきでした。

 ちなみに、この工場では、その後、法令の対象施設の有無を調査しました。すると、騒音規制法の特定施設はなかったものの、条例で定める横出し規制の対象施設(3.75~7.5kW未満のコンプレッサー)が見つかったため、市役所に届出を行うとともに、規制基準を順守するための防音措置を実施したそうです。

「規制対象を見極める」。  意外と見落としがちな箇所ですので、注意するとよいでしょう。

参考文献
安達宏之『企業と環境法 ~対応方法と課題』(法律情報出版)
http://www.kankyobu.com/sp/book3.htm

(2022年03月)

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