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「判断基準」も義務規定として対応する

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

 フロン排出抑制法や省エネ法、食品リサイクル法など、環境分野の法律の条文を読んでいると、「判断基準」という用語がよく登場していきますが、これはどのような意味なのでしょうか。「規制基準」とは異なるものなのでしょうか。

 例えば、フロン排出抑制法の「判断基準」に基づき、多くの企業では、業務用エアコンを3カ月に1回点検していますが、これは義務だと思いますか?

 回答としては、「判断基準は、規制基準ほど厳しいものではないが、義務と捉えるべき」といえるでしょう。

 次の図表の例の通り、規制基準と判断基準では、違反した場合の措置について明らかに大きな差があります。

図表:規制基準と判断基準の違い

基準の種類 具体例
基準の内容 違反した場合の措置
規制基準 ●例:水質汚濁防止法
排出水を排出する者は、その汚染状態が当該特定事業場の排水口において排水基準に適合しない排出水を排出してはならない
・排水基準に違反した場合、6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金などの罰則がある
・排水基準に違反するおそれがある場合、都道府県知事による改善命令や一時停止命令が出されることがある(命令に違反した場合は罰則が適用)
判断基準 ●例:フロン排出抑制法
主務大臣は、フロン類の管理の適正化のために取り組むべき措置に関して第一種特定製品の管理者の「判断の基準」を定める
(⇒対象事業者はこれを順守しなければならない)
・都道府県知事は、「判断の基準」を勘案して必要な指導及び助言をすることができる
・「判断の基準」に照らして著しく不十分であると認めるときは、専門的な定期点検の対象機器を使用等する場合に限り、都道府県知事による勧告、公表、命令が出されることがある(命令に違反した場合は罰則が適用)

 法令の条文に即して、具体的に解説していきましょう。

 まずは、規制基準の例として、水質汚濁防止法の基準と違反した場合の措置を見ていきます。

 本法12条1項では、排出水を排出する者に対して、その汚染状態が当該特定事業場の排水口において排水基準に適合しない排出水を排出してはならないと定めています。
 対象事業者(公共用水域に排水している特定事業場)への排水基準順守を義務付けている規定となります。

 この規定に違反した者に対して、本法31条1項では、6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処するという罰則規定もあります。
 つまり、排水基準を超える汚水を排出した対象事業者を警察や海上保安庁はいつでも捕まえることができるということですので、この規定はとても重い条文となります。
 こうした直罰規定だけでなく、本法13条1項では、排水基準に違反するおそれのある対象事業者に対して、都道府県知事が改善命令や一時停止命令を出すことができる規定も設けています。
 こうした命令に違反した場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処するという罰則規定もあります(30条)。

 このように、水質汚濁防止法に示されている基準と違反した場合の措置とは、「排水基準を守らないと罰則を適用したり、改善命令などを出したりしますよ」という、極めてシンプルなものと言えるでしょう。

 次に、判断基準の例を見てみましょう。

 フロン排出抑制法(正式名称「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律」)には、次の一文があります(16条1項)。

 「主務大臣は、第一種特定製品に使用されるフロン類の管理の適正化を推進するため、第一種特定製品の管理者が当該フロン類の管理の適正化のために管理第一種特定製品…の使用等に際して取り組むべき措置に関して第一種特定製品の管理者の判断の基準となるべき事項を定め、これを公表するものとする。」

 要するに、「主務大臣は、管理者が取組事項を決めるときに『これでいいかな』と判断する基準を定めますよ」ということです。

  この条文に基づいて、主務大臣は判断基準を定めています。
 具体的には、「第一種特定製品の管理者の判断の基準となるべき事項」という告示(平成26年経済産業省・環境省告示13号)が定められています。

 例えば、冒頭で示した、業務用エアコン等の簡易点検の義務などの規定は、この告示の第2-1(1)において、次のように定められています。

「第一種特定製品の管理者は、3月に1回以上、管理第一種特定製品について簡易な点検(以下「簡易点検」という。)を行うこと。」

 こうした判断基準は、前述の水質汚濁防止法の規制基準と異なり、違反した場合の措置が大きく異なります。

 都道府県知事は、対象機器に使用されるフロン類の管理の適正化を推進するため必要があると認めるときは、その管理者に対し、「判断の基準」を勘案して必要な指導及び助言をすることができます(本法17条)。

 さらに都道府県知事は、対象製品の使用等の状況が判断基準に照らして著しく不十分であると認めるときは、管理者に対し、その判断の根拠を示して、対象機器の使用等に関し必要な措置をとるべき旨の勧告をすることができます。

 ただし、勧告を受ける可能性のある対象者は、対象機器の管理者すべてではなく、「管理第一種特定製品の種類、数その他の事情を勘案して主務省令で定める要件に該当するものに限る」と限定されています。
 具体的には、本法施行規則2条に基づき、専門的な定期点検が義務付けられている7.5kW以上の対象機器の管理者のみに限定されているのです。

 こうした限定された管理者のみが勧告に従わなかった場合、都道府県知事は、その旨を公表することができます。
 また、それでも勧告に基づく措置をとらなかった場合で、フロン類の管理の適正化を著しく害すると認めるときは、その者にその勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができます(本法18条)。命令に違反した場合、50万円以下の罰金に処するという罰則があります(本法104条)。

 このように、フロン排出抑制法の判断基準は、対象者が限定され、かつ、判断基準に照らして「著しく」不十分であると認めるときに勧告等の措置が定められており、水質汚濁防止法のような厳しい規制基準とは明らかに異なって緩やかなものと言えるでしょう。

 とはいえ、判断基準も事業者にとっては規制基準と同様に「義務」と言わざるをえません。限定されているとはいえ、罰則の対象になることもありますし、対象機器の管理者すべてに行政の指導・助言が認められているからです。

参考文献 安達宏之『企業と環境法 ~対応方法と課題』(法律情報出版)
http://www.kankyobu.com/sp/book3.htm

(2019年1月)

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