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「直罰」の条文だけを見ない

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

 ある企業が管理している法規制のリストを見ていたときに、不思議に思うことがありました。

 その企業の工場は、騒音規制法の指定地域内にあり、大型のコンプレッサーなどの特定施設もあるので、同法の規制を受けています。
 法規制のリストには、確かに騒音規制法も含まれており、市役所への届出義務の記載もされているのですが、規制基準の順守に関する項目がすっぽりと抜けているのです。

 「規制基準の順守も義務なのに、なぜ抜けているのですか?」とお聞きすると、次のような答えが返ってきました。
 「このリストでは、罰則付きかどうかに着目してまとめています。規制基準の順守規定は、違反しても罰則が無いので抜かしてもよいと判断しました。」

 しかし、これは、明らかに法令の規制を誤解しています。騒音規制法の規制基準は、確かに違反したら直ちに罰則が適用されることはありませんが、これも義務規定であり、適切に運用すべき規定です。

 この企業が誤った原因は、法規制に違反した場合の法の対応方法が、「直罰」と「間接罰」の2つに大きく分かれることへの認識が足りなかったことにあると思います。

 次の図表のように、法の義務規定には、「直罰」と「間接罰」の2つのパターンがあります。

図表:直罰と間接罰

罰則の種類 具体例
義務規定 義務に違反した場合の主な罰則等
直罰 ●例:廃棄物処理法
何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない。(第16条)
〇次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(中略)
14 第16条の規定に違反して、廃棄物を捨てた者(第25条1項14号)
間接罰 ●例:騒音規制法
指定地域内に特定工場等を設置している者は、当該特定工場等に係る規制基準を遵守しなければならない。(第5条)
〇市町村長は、指定地域内に設置されている特定工場等において発生する騒音が規制基準に適合しないことによりその特定工場等の周辺の生活環境が損なわれると認めるときは、当該特定工場等を設置している者に対し……騒音の防止の方法を改善し、又は特定施設の使用の方法若しくは配置を変更すべきことを勧告することができる。(第12条1項)

〇市町村長は、……前項の規定による勧告を受けた者がその勧告に従わないときは……騒音の防止の方法の改善又は特定施設の使用の方法若しくは配置の変更を命ずることができる。(第12条2項)

〇第12条2項の規定による命令に違反した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。(第29条)

 廃棄物処理法は、第16条において、「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない。」と定めています。いわゆる不法投棄の禁止規定です。
 これに違反して廃棄物を捨てた場合、第25条において、5年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処すなどの罰則を定めています。

 不法投棄をした場合に直ちに罰則が適用される形をとっているということは、例えば、その行為をした者は警察に捕まることもありうるということです。

 ちなみに、廃棄物処理法で定める不法投棄への罰則は上記の25条1項14号だけではありません。25条2項では、不法投棄罪の「未遂」についても同様に罰することを定めていますし、法人の従業者などが不法投棄をした場合、行為者を罰するほか、その法人に対して3億円以下の罰金刑を科すという条文もあります。
 本法がいかに厳しい法律か、よくわかります。

 では、騒音規制法の場合はどうでしょうか。

 騒音規制法5条では、「指定地域内に特定工場等を設置している者は、当該特定工場等に係る規制基準を遵守しなければならない。」と定めています。
 対象者に対して規制基準を順守することを義務付けています。廃棄物処理法の不法投棄禁止規定と同様に、義務規定と言えます。

 ところが、本条に違反した場合に直ちに罰則が適用される形はとっていません。

 具体的に言うと、まず、第12条1項において、規制基準に適合しない対象の工場等がある場合、まず市町村長が騒音防止の方法を改善することなどを勧告することになります。
 勧告を受けた者がその勧告に従わないとき、市町村長は、期限を定めて必要な限度において、騒音の防止の方法の改善又は特定施設の使用の方法若しくは配置の変更を命ずることができます。

 命令にも違反した場合、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処するなど、初めて罰則が適用されることになります。
 また、前述した廃棄物処理法と同様に、法人の従業者などが違反した場合、行為者を罰するほか、その法人に対しても10万円以下の罰金刑を科すという条文もあります。
 このように、騒音規制法の規制基準の順守規定の場合については、規定に違反しても直ちに罰則が適用されることにはなりません。市町村からの勧告と命令を経て、それにも従わない場合、初めて罰則が適用されます。

 こうした命令を前置きした間接罰は、直罰とは異なります。しかし、だからと言って、それに従わなければ、最終的に罰則が適用されることになるので、軽く見てよいわけがありません。
 なお、騒音問題については、近隣からの苦情も多く、自治体も厳しく指導する公害なので、その意味でも騒音対策を軽く見てはいけません。
 事業者に何らかのことを求める条文があるときは、直罰の規定かどうかを意識するだけでなく、勧告等を通して、最終的に罰則が及ぶ条文となっているかにも注意すべきでしょう。

参考文献 安達宏之『企業と環境法 ~対応方法と課題』(法律情報出版)
http://www.kankyobu.com/sp/book3.htm

(2019年3月)

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