大栄環境グループ

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言葉の「定義」にこだわる

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

 栃木県で操業する金属加工会社にて、県の立入調査があり、公害関連法の届出対象施設の未届が複数指摘されてしまいました。そこで、事業所の環境担当者が、その改善に向けた取組みをしていたときの話です。

 適用される環境法の一覧表をチェックしていると、「騒音規制法・特定施設」の項目の中に、その対象施設として「研磨機」とあったのですが、同法のどこを探しても、「研磨機」が出てきません。
 不思議に思った担当者は、その後、たくさんの社内資料や国や自治体のホームページを当たり、ようやくそれが、国の騒音規制法ではなく、条例の規制対象であることが判明したそうです。

 用語の定義や規制の根拠をはっきりさせずに管理しようとすると、上記のような問題がしばしば発生してしまいます。

 ちなみに、栃木県生活環境保全条例では、騒音規制法の「特定施設」とは別に、独自に「特定施設」を定め、騒音規制法の対象地域以外の地域においても規制措置を講じています。また、騒音規制法が規制対象 としていない金属加工機械の研磨機や、0.75キロワット以上のクーリングタワーについては、騒音規制法の規制地域内においても規制対象にしています。

 この企業が操業する地域は、騒音規制法の指定地域内でありました。したがって、法と条例2つの規制が適用され、法の規制する金属加工機械(3.75キロワット以上のせん断機など)とともに、条例の規制する研磨機も規制対象となっていたのです。

 法も条例も、どちらを見ても「特定施設」と書いていますし、この企業でかつて一覧表を制作した頃、根拠法令を「騒音規制法」と勘違いしてしまったのかもしれません。
 しかし、迷うことなく管理し続けるためには、例えば、次の表のように、定義を明確にした一覧表が望まれます。

定義を明確にした法規制一覧表の記述例

対象(根拠)規制事項
改訂前 せん断機、研磨機(騒音規制法・特定施設) 届出、規制基準順守(協定に基づき年1回測定)
改訂後 せん断機(騒音規制法・特定施設) 届出、規制基準順守(協定に基づき年1回測定)
研磨機(栃木県生活環境保全条例・特定施設)

 上記はあくまでも一例です。表のように単に「研磨機(栃木県生活環境保全条例・特定施設)」にとどめず、より具体的に、「研磨機(栃木県生活環境保全条例・特定施設〔条例施行規則別表1(4)シ〕)」と記述してもよいでしょう。

 いずれにしても、法令のどの規定を根拠に規制対象となっているかを簡便に理解できるような一覧表を目指すべきです。

 また、別の企業を訪問し、法規制一覧表を見たところ、水質汚濁防止法の欄が設けられており、「排水基準の順守」と記述されていました。

 水質汚濁防止法では、河川などの公共用水域に排水し、かつ特定施設を設置している特定事業場に対して、届出や排水基準順守の義務などが課されています。
 しかし、工場内を見渡してみても、特定施設は見当たりません。特定施設がなければ、排水基準順守の義務もありません。

 そこで、ご担当者に「なぜ、水質汚濁防止法の排水基準順守の義務を記載しているのですか? 御社は本法の特定施設がなく、排水基準順守の規制対象ではないと思いますが」とお聞きしたところ、「でも、水質 汚濁防止法12条では特に規制対象を限定していないのではないですか?」と逆に問われてしまいました。

 水質汚濁防止法12条1項とは、次のとおりです。

 「排出水を排出する者は、その汚染状態が当該特定事業場の排水口において排水基準に適合しない排出水を排出してはならない。」

 確かに、この条文だけを読むと、特に特定施設のある事業場に限定しているようには読めません。
 しかし、この条文中に登場する「排出水」という用語については、本法2条6項において、その定義が明確にされているのです。

 「この法律において「排出水」とは、特定施設(指定地域特定施設を含む。以下同じ。)を設置する工場又は事業場(以下「特定事業場」という。)から公共用水域に排出される水をいう。」

 このように、法令は、一つの条文だけを読んで、すべてを理解することができないことがあります。用語の定義がどうなっているのかを必ず確認すべきです。
 特に上記の水質汚濁防止法の例が典型的な事例となりますが、法令は多くの場合、第2条に「定義」の条が設けられています。慣れないうちは、「定義」の条文をしっかり確認しておくことをお勧めします。

 法規制の一覧表をどのレベルまで詳細にするかについては、各社において様々な考え方があると思いますので、一概にその善し悪しを断定することはできません。
 ただ、筆者自身は、「次の引き継いだ人が探せるかどうか(管理できるかどうか)」を常に意識して、文書の整備をすべきだと考えています。「法規制一覧表は業務の引継ぎができる程度の文書量がよい」とよくご提案しています。

 その意味でも、今回のように、規制対象を一覧表に書き込むときには、その定義をきちんと確認し、明確にしておくことが望まれるのです。

参考文献
安達宏之『企業と環境法 ~対応方法と課題』(法律情報出版)
http://www.kankyobu.com/sp/book3.htm

(2019年10月)

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