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資格者の未選任を防ぐ

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

 埋め立て地の工業地帯の一角にある木材メーカーの工場を訪問したときのことです。
 海に面しており、公害防止組織法の適用対象となっていました。

 本法によれば、製造業などの業種の工場で、汚水等排出施設などを設置している場合は、特定事業者として規制を受けることになります。
 特定事業者には、公害防止統括者や公害防止管理者、それらの代理者を選任し、届出を行わなければなりません。そして、公害防止管理者等の指示に従って公害防止業務を遂行することが求められています。
 また、公害防止管理者やその代理者には、資格が必要であり、国家試験に合格するか、又は認定講習を修了しなければなりません。

 この工場には、本法に基づき、水質関係の公害防止管理者と代理者を選任することが義務付けられていました。
 ところが、資格を有する人が誰もいません。確認したところ、「数年前まで公害防止管理者も代理者もいたが、退職や転勤をしてしまった」ということでした。

 公害防止組織法の主な義務と罰則は、次の表の通りであり、この状態は明らかに法令違反です。

資格者の選任義務と罰則等の例
(公害防止組織法の特定工場に該当する場合)

義務違反した場合の主な罰則等
公害防止統括者を選任し、選解任等を届け出ること(法3条。工場長が一般的)。 ■都道府県知事は、公害防止統括者、公害防止管理者、公害防止主任管理者、これらの代理者が、この法律や大気汚染防止法等に違反したときは、特定事業者にこれらの者の解任を命ずることができる(法10条)。

■次の場合、50万円以下の罰金に処する(法16条)
。 ①公害防止管理者などを選任しなかった場合
②都道府県の解任命令に違反した場合

■次の場合、20万円以下の罰金に処する(法17条)。
・公害防止管理者などの未届、虚偽届出の場合。

■法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者がその法人又は人の業務に関し、第16条又は前条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して、各本条の刑を科する(法18条)。
●排出水量が1日当たり平均1万m3以上の場合などは、公害防止主任管理者を選任し、選解任等を届け出ること(法5条)。
●①公害防止統括者、②公害防止管理者又は③公害防止主任管理者の代理者を選任し、選解任等の届け出ること(法6条。②③は有資格者)。

 そこで、工場長に早急な対応を求めたところ、対応はすると言いつつ、「資格者がいないのだから仕方ない」とも発言するなど、どうも工場長の反応が鈍いのが気になりました。

 その後、工場長とともに工場内の巡回をしたところ、雨水溝で茶褐色の水が勢いよく流れているのを発見しました。
 当日は快晴であり、雨水溝に水が流れるているわけがありません。その雨水溝の先は、最終排水口であり、海が広がっています。工場長が慌てて排水口を緊急遮断し、排出元を特定し、流出を止めました。
 幸いなことに、この茶褐色の水に有害物質は含まれておらず、海に流出することもありませんでした。

 状況が落ち着いた後に、私は工場長に申し上げました。
「もし、茶褐色の水が海に流れていたら、通報やパトロールによって、海上保安庁が事態を把握し、保安庁の人たちがこの工場に来たと思います。
そのとき、彼らは必ず言いますよ、『公害防止管理者を出せ』と。
そのとき、どうされるのですか?」

 この一件によって、ようやく工場長も事の重大性をご理解いただけたようです。

 厳しい行政指導は間違いなくあるでしょうが、海域の汚染が現実化すれば、そこにとどまらず、選任義務違反で検挙される可能性もあるでしょう。

 環境法が求める資格者の選任義務には、今回ご紹介した公害防止管理者だけでなく、エネルギー管理者(省エネ法)、特別管理産業廃棄物管理責任者(廃棄物処理法)などがあります。
 こうした資格者を選任しなければいけない企業において、今回の事例のように、資格者の退職や異動などの事情により未選任状態が続いている企業を時折見かけます。

 行政当局としては、たまたま立入調査等でその企業を訪問して見つけない限り、なかなかこうした状況を発見することはないでしょう。

 しかし、だからといって、企業がその状況を放置することは絶対に避けるべきです。
 なぜなら、こうした法令違反のままの状態で環境汚染を引き起こした場合、行政も警察もそれを是認することは決してないからです。
 「退職したのだから仕方ないですね」などと言うことは決してありません。

 退職や異動等によって資格者がいなくなる事態はいつでも起こりうることです。資格者を配置し続けられるように教育計画を立てて計画的に資格者の充当を行うべきです。
 それでも、時に未選任の状況が生じた場合は、あらかじめ行政に事情を説明し、どのような計画で資格者配置をするのかを提示するとよいでしょう。

 環境法が資格者の選任を貴社に義務付けているということは、貴社にはそれなりの環境負荷があるから貴社を法のメインターゲットにしていることの証左でもあります。
 そのリスクへの自覚を持って慎重に対応することが求められます。

参考文献
安達宏之『企業と環境法 ~対応方法と課題』(法律情報出版)
http://www.kankyobu.com/sp/book3.htm

(2019年12月)

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