行政書士 尾上 雅典氏
(エース環境法務事務所 代表)
前号では、建設廃棄物に関しては「元請事業者以外が排出事業者になることは有り得ない」ことを解説しました。今回は、「元請事業者以外が排出事業者になり替わっている実例」を取り上げ、その違法性について解説します。
その実例とは、「建設工事の発注者がなぜか排出事業者としてふるまっている」というものです。
前回ご紹介したとおり、廃棄物処理法第21条の3第1項では、
と定められていますので、「元請業者」以外が排出事業者としてふるまうと、廃棄物処理法違反となります。実際のところ、私の実感としては、規模が大きい企業ほどこの危険なふるまいが増えやすい傾向にあります。
具体的には、
① 一つの拠点に複数のグループ企業が混在
② 建設工事は、グループ企業内の建設工事を担うことを目的として設立された子会社が施工
③(発注者でしかない)親会社やホールディングカンパニーが、建設工事で発生した鉄くずを自社の財産として抜き取り、売却
というパターンがよく見受けられます。
発注者にしてみれば、「建設工事後に売れそうな鉄くずのみを置いて帰らせただけだ」という認識で、「建設廃棄物の処理に関わっているわけではない」と言いたいのかもしれません。
しかし、本当にそのような理屈が通るのでしょうか?物事は総合的にとらえる必要がありますので、「排出事業者(元請業者)」と「発注者」のそれぞれについて、違法性の有無を考えてみましょう。
まずは、「排出事業者(元請業者)」に関してです。
先述したとおり、建設工事によって発生した廃棄物は、その工事を発注者から請負った建設業者(元請業者)が、唯一無二の排出事業者となります。
そのため、発注者からリクエストがあったとしても、元請業者が建設現場に一部の建設廃棄物を放置して立ち去った場合、その元請業者は「自分が発生させた廃棄物の不法投棄をしている」ことになります。
この状況はこう考えると理解しやすいかと思います。
建設工事終了後に、発注者と「鉄くずの売買契約」を別途締結した場合なら、「鉄くずの放置」ではなく、発注者と元請業者の合意の下、元請業者の占有物である鉄くずを有効に売買したとみなせる余地がありますが、そこまで慎重に考えて、鉄くず(建設廃棄物)の取引証拠を残そうとする当事者はほとんどいません。「その鉄くずは売れそうだから、おいらにくれよ。ただし、買取費用は払わないけどね。」という発注者のリクエストに気軽に応じてしまうと、元請業者は「不法投棄」として、「5年以下の懲役、若しくは1千万円以下の罰金、又はこれの併科(廃棄物処理法第25条)」の対象となる可能性があります。
元請業者にとっては、発注者の要望に応じて、一部の建設廃棄物を放置して立ち去る行為は、得られるメリットがほとんどない一方で、非常に重い刑事罰の対象になるかもしれないという、まったく割に合わない行動と言えます。
(2019年12月)