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下取り回収②

Author

行政書士 尾上 雅典氏
(エース環境法務事務所 代表)

 前号では、「下取り」の辞書的な意味と、「下取り回収通知」の「下取り」が意味するところには、若干の乖離が生じていることを解説しました。すなわち、辞書的な定義の「下取り」は、「新製品の代金の一部に充てるため、売主が買主の所有する旧製品を買い上げること。」ですが、今日の我々が一般的に思い浮かべる「下取り」は、「代金充当のため」ではなく、「売主による不用品回収サービス」と言った方が正確と言えましょう。もちろん今日でも、「自動車」や「高級時計」等のように、中古品にも十分な換価価値が認められるものの場合は、辞書的な意味の下取りが有効に行われている例もありますが、最初の「下取り回収通知」が発せられた昭和54(1979)年当時から、「下取り」は既に「売主による不用品回収サービス」を指す方が一般的になっていたように思われます。そのような社会的背景もあり、廃棄物処理法を特定の場面で弾力的に(=行政が許認可で介在することなく)運用するために、本来なら廃棄物処理業許可が不可欠となる廃品回収サービスを、一定の条件下で廃棄物処理業許可不要と定義したものが、「下取り回収通知」となります。
 「下取り回収通知」を解釈・運用していく上では、上述した「廃棄物処理業許可が不要となる条件」を正確に把握する必要がありますので、今回からその詳細について解説をしていきます。

 まず、「下取り回収通知の解釈対象は誰なのか」を定義します。
 それを考える上では、通知の前提となる「問」が重要ですので、その問が書かれている昭和54年通知を元に解説します。

昭和54年11月26日付環整128号、環産42号

問29 いわゆる下取り行為には収集運搬業の許可が必要か。
答 新しい製品を販売する際に商慣習として同種の製品で使用済みのものを無償で引き取り、収集運搬する下取り行為については、収集運搬業の許可は不要である。

 日本語特有の問題点として、「主語が無くともなんとなく意味が通じる」というものがありますが、上記の下取り回収通知にもそれがあてはまり、「誰が許可不要となるのか」という根本的な部分がぼやけています(苦笑)。
 文章的には、主語となる可能性のある対象は、「新製品の売主」か「製品を配達する事業者」の2つが考えられます。
 しかしながら、答の文章の中に「無償で引き取り」という定義がある以上、「配達事業者」自身は無償で不用品を自ら引き取るわけではない(=単に荷主から運送を請け負っただけ)ため、この質疑を「配達事業者」に向けたものと解釈することは困難です。そのため、「下取り回収の場合は、配達事業者も収集運搬業許可不要とみなされる」という解釈は誤りと考えられます。
 「通知の解釈の対象は誰についてなのか?」は非常に重要な定義でありまして、ここを曖昧にすると、通知という、日本国民の代表たる国会が制定した法律の条文ではない、単なるお役所の解釈に過ぎない存在の成立基盤が怪しくなり、通知が意図した方向とは逆の法律違反が容易に起こってしまいがちとなるからです。

今号のまとめ
 下取り回収通知の解釈の対象となるのは、「運送事業者」ではなく、「新製品の販売事業者」と考えるのが妥当であるため、販売事業者以外の者に「収集運搬業許可不要」という解釈をむやみに拡大するのは危険。

(2018年10月)

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