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テナント(賃借人)が発生させた廃棄物について④(委託契約におけるビル管理会社の位置づけ)

Author

行政書士 尾上 雅典氏
(エース環境法務事務所 代表)

 テナントが発生させた廃棄物の処理方法に関する連載の第4回目となります。
 前回は、2010年の「行政刷新会議」で公表された

 テナントビル、ショッピングモール、商店街など、複数の事業者が共同して3Rを推進することが適切かつ可能な場合がある。このような場合、マニフェストはビルの管理会社等が自らの名義で交付等の事務を行ってもよいとされているが、委託契約は個々の事業者が締結する必要がある。しかし、個々のテナントが処理委託契約を締結することは現実的ではなく、かつ複数の排出事業者の連携による3Rを阻害している。

 したがって、当事者間の契約に基づき、これらのグループを代表するものが排出事業者となることで、全体の廃棄物の3R促進および適正な処理委託を可能とするべきである。

という問題提起に対する
 環境省の

・契約締結に関し、委任状を交付し委任するのであれば、各テナント会社はその排出事業者責任までをも転嫁しうるものではないが、ビル維持管理会社等が一括して委託契約を締結することは可能である。

・なお、廃棄物処理法上、産業廃棄物の処理を委託する場合には、当該産業廃棄物の処分の場所や、受託者の許可の範囲等を記載した委託契約書により行うことを義務付け、委託者である排出事業者に、受託者が適切に当該産業廃棄物の処理の事業を行えるかどうかを確認させ、排出事業者責任の徹底を図っているところであり、この趣旨からは、委託者である排出事業者が受託者と自ら直接契約を締結することが望ましい。

という公式見解を紹介しました。

 ビル内のテナント数が一桁レベルといった小規模なビルであれば、テナントの入れ替わりがそれほど激しくないため、論理的には、環境省が考える「各テナントから委任状交付を受け、ビル管理会社が産業廃棄物処理業者と一括契約を行う」ことは可能と言えば可能です。小規模テナントビルであれば、テナントが変わるたびに委任状を受け取ることも比較的容易だからです。
 しかし、都心のオフィスビルのように、テナントの数が100を超える規模になると、ビル管理会社は賃貸人と賃借人の間の賃貸契約に関わらず、清掃等のビルの維持管理のみに携わっていることがほとんどだと思います。こうなると、環境省の見解の大前提である「テナントからの産業廃棄物処理委託契約に関する委任状の交付」を漏れなく受けることは、非常に難しくなります。テナントの数が増えれば増えるほど、委任状の受領漏れが増える可能性が増すからです。より率直に言うならば、「産業廃棄物処理委託契約に関する委任状を全テナントから取得する」という、手間が掛かりすぎる割には実体的な意義が乏しい実務をテナントとビル管理会社が自発的に実行すると期待する方が無理というものです。
 また、そもそもの話として、各テナントから委任状の交付を受けたところで、ビル管理会社が自己の名義で産業廃棄物処理委託契約を締結して良いかどうかという問題があります。平成23年3月17日付通知では、「産業廃棄物管理票はビル管理者が自らの名義で交付して良い」とされていますが、それは単なる行政見解に過ぎず、法的な問題がうやむやになってしまっている点については、先に触れたとおりです。
 契約の名義人、すなわち、ビル管理会社が排出事業者として契約の当事者になり得るかどうかについては、上記の環境省の公式見解で直接言及はされていません。しかし、「ビル維持管理会社等が一括して委託契約を締結することは可能」とは、「排出事業者責任のビル管理会社への転嫁」を否定している以上、「ビル管理会社が自己の名義で、すなわち排出事業者として契約締結を行って良い」という趣旨ではなく、「委任状を交付した複数のテナントの代理人として、各テナントを連名表記した一通の委託契約書を産業廃棄物処理業者と取り交わして良い」と、解釈するのが妥当と思われます。この場合、テナントが変わるたびに、委任状を取得し直し、その新しい委任状に基づき、契約者としてのテナントの変更手続きも必要となります。テナントと産業廃棄物処理業者、そしてビル管理者の誰にとっても非常に煩雑な手続きになることがお分かりいただけると思います。
 以上のとおり、全テナントからの委任状を取得することは、現実的には非常に困難ですし、実際にはほぼ行われていない段取りと推察されますので、「通知」と「行政刷新会議での公式見解」のいずれも、社会実態とかけ離れた実施が不可能に近い手続きと言わざるを得ません。
 真面目に考えれば考えるほど、「テナントが発生させた」廃棄物の正しい処理方法が分からなくなります(苦笑)。現状では、環境省の通知どおりに手続きをするか否かの、どちらに転んでもモヤモヤとした二者択一しかありませんが、次回、廃棄物処理法に違反することなく、当事者すべてが煩雑さから解放される「第3の道」をご提案したいと考えています。

(2022年2月)

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