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「処理状況確認」について(第1回)

Author

行政書士 尾上 雅典氏
(エース環境法務事務所 代表)

 廃棄物処理法に関する実務において、「処理状況確認」という用語ほど、人によって理解の仕方や使い方が異なるものはないように思えます。
 廃棄物処理法の条文では「処理状況の確認」と抽象的にしか書かれていませんが、行政がその地域での独自ルールを制定する際には「現地確認」とされたり、排出事業者が口にする時には「委託先処理業者の監査」と言われたりと、意味するところがこれだけ変わる言葉は他にありません。
 このような混乱に陥った理由は、廃棄物処理法では、「委託基準の一つ」として抽象的にしか定義されていないことや、「具体的にどのような行動をすべきなのか」を解説した通知その他が存在しないことにありそうです。もちろん、「処理状況の確認」について触れた通知は多数存在するのですが、どれを読んでも「処理状況の確認」としか書かれておらず、「現地確認なのか?」、それとも「監査なのか?」、はたまた「単なる見学で良いのか?」等、企業にとって必要な行動を具体的に明示したものはほぼありません。
 この「具体的な定義が無い」ことを出発地点とした上で、できるだけ法律の条文に忠実な解釈を心掛けつつ、現実の企業実務に反映させられるように、今回から「処理状況確認」を深掘りしていきたいと思います。具体的には、「正確な法的位置づけ」から始め、「処理状況確認の誕生の経緯」や、「現代日本社会においてのあるべき姿」、令和5年3月に環境省から発出された「デジタル原則を踏まえた廃棄物の処理及び清掃に関する法律等の適用に係る解釈の明確化等について」の注意点等を考察していく予定です。
 今回は、「処理状況確認」に関する廃棄物処理法の条文を挙げておきます。読みやすくするために、「処理状況確認」に関係する部分のみを抜粋しております。

廃棄物処理法第12条(事業者の処理) (抄)
 事業者は、自らその産業廃棄物の運搬又は処分を行う場合には、政令で定める産業廃棄物の収集、運搬及び処分に関する基準(「産業廃棄物処理基準」)に従わなければならない。
2~4 (略)
5 事業者(中間処理業者を含む)は、その産業廃棄物の運搬又は処分を他人に委託する場合には、その運搬については第14条第12項に規定する産業廃棄物収集運搬業者その他環境省令で定める者に、その処分については同項に規定する産業廃棄物処分業者その他環境省令で定める者にそれぞれ委託しなければならない。
6 事業者は、前項の規定によりその産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、政令で定める基準に従わなければならない。
7 事業者は、前2項の規定によりその産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、当該産業廃棄物の処理の状況に関する確認を行い、当該産業廃棄物について発生から最終処分が終了するまでの一連の処理の行程における処理が適正に行われるために必要な措置を講ずるように努めなければならない。

 廃棄物処理法第12条第7項に、「処理状況確認」に関する定めが置かれており、産業廃棄物処理委託をした際に排出事業者が負う義務の一部であることがわかります。ただし、「努めなければならない」とされているとおり、あくまでも「罰則無しの努力義務」となっています。
 しかし、「処理状況確認」を怠った場合には、廃棄物処理法第19条の6に基づく「措置命令」の対象になることがありますので、排出事業者としては決して無視できない重要な実務の一つと言えます。

廃棄物処理法第19条の6(措置命令) 
 前条第1項に規定する場合において、生活環境の保全上支障が生じ、又は生ずるおそれがあり、かつ、次の各号のいずれにも該当すると認められるときは、都道府県知事は、その事業活動に伴い当該産業廃棄物を生じた事業者(当該産業廃棄物が中間処理産業廃棄物である場合にあつては当該産業廃棄物に係る産業廃棄物の発生から当該処分に至るまでの一連の処理の行程における事業者及び中間処理業者とし、当該収集、運搬又は処分が第十五条の四の三第一項の認定を受けた者の委託に係る収集、運搬又は処分である場合にあつては当該産業廃棄物に係る事業者及び当該認定を受けた者とし、処分者等を除く。以下「排出事業者等」という。)に対し、期限を定めて、支障の除去等の措置を講ずべきことを命ずることができる。この場合において、当該支障の除去等の措置は、当該産業廃棄物の性状、数量、収集、運搬又は処分の方法その他の事情からみて相当な範囲内のものでなければならない。
  • 一 処分者等の資力その他の事情からみて、処分者等のみによつては、支障の除去等の措置を講ずることが困難であり、又は講じても十分でないとき。
  • 二 排出事業者等が当該産業廃棄物の処理に関し適正な対価を負担していないとき、当該収集、運搬又は処分が行われることを知り、又は知ることができたときその他第12条第7項、第12条の2第7項及び第15条の4の3第3項において準用する第9条の9第9項の規定の趣旨に照らし排出事業者等に支障の除去等の措置を採らせることが適当であるとき。
 2024年1月現在では、廃棄物処理法第19条の6に基づく措置命令が発出された実例はありませんが、万が一その命令の対象となると、「社名の公表」や「廃棄物撤去費用の負担」を覚悟しなければならなくなりますので、企業にとっては実質的なペナルティとなってしまいます。また、さらにその措置命令を履行しなかった場合には、「措置命令違反」となり、廃棄物処理法第25条の「5年以下の懲役もしくは1千万円以下の罰金またはこの併科」という刑事罰の対象になります。
 「処理状況確認」に関する条文のポイントをまとめておきます。
  • ●「処理状況確認」とは、産業廃棄物処理委託をした際に排出事業者が行うべき「産業廃棄物処理の状況に関する確認」を意味する
  • ●努力義務であるため、それを怠ったとしても、すぐさま刑事罰の対象になるわけではない
  • ●ただし、怠った場合は、廃棄物処理法第19条の6に基づく措置命令の対象となる可能性がある
  • ●廃棄物処理法第19条の6に基づく措置命令を受けたにもかかわらず、それを履行しなかった場合には、措置命令違反として刑事罰の対象になる
  • ●排出事業者が実行しなければならない、産業廃棄物処理委託に伴う実務の一つである

(2024年02月)

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