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「処理状況確認」について(第2回)

Author

行政書士 尾上 雅典氏
(エース環境法務事務所 代表)

 前回は、廃棄物処理法第12条第7項の「処理状況確認」の定義を見ました。
 今回は、この条文が新設された経緯を見ていこうと思います。
 廃棄物処理法第12条第7項は、2010年改正時に新設された条文ですが、国会審議の前にその構想が初めて議論された場所は、2009年2月の第6回「廃棄物処理制度専門委員会」でした。
 その際の資料には、
廃棄物処理政策における論点の検討
<適正処理の確認>
(7) 排出事業者は「発生から最終処分が終了するまでの一連の処理の行程における処理が適正に行われるために必要な措置」を講じなくてはならない責任を有している。
 しかし、マニフェストでは最終処分までの処理の流れを把握することはできても、廃棄物処理業者等に委託した処理が処理基準等を遵守してなされたかということまでは確認できない。このため、排出事業者が委託した処理の状況を定期的に実地確認することが、適正処理の確保に効果的なのではないか。
 と書かれており、当初から「排出事業者が委託した処理の状況を定期的に実地確認することが、適正処理の確保に効果的」と考えられていた様子がうかがえます。
 第6回専門委員会では、日本経済団体連合会から出席していた委員から
  • ・法的に義務づけられると、排出事業者と処理事業者の双方にとって膨大な負担になる
  • ・年に1回、実地確認をしたとしても、どの程度不適正処理の防止に効果があるのかよくわからないため、法令上義務化すべきではないという意見が寄せられている
  • ・大企業では100社以上の事業者と契約をしていたり、非常に遠方の事業者と契約をしている場合もあったりと、たとえ年に1回の実地確認であっても非常に膨大な負担になる
 と、法律で実地確認を義務付けた場合の問題点の指摘があった程度で、他の委員からは特に異論は出ませんでした。
 この指摘は、2024年現在の企業活動にも共通する話です。廃棄物処理法では、「処理状況確認」が「罰則無しの努力義務」に落ち着きましたが、現在では、地方自治体が独自制定した条例によって、一部地域では「年に1回の実地確認」が実質的に義務付けられている場合があり、「増えない人手」と「マルチタスク」の進展で疲弊している最前線の方にとっては、「絵空事」としか思えないことが多いのではないでしょうか。
 「1年に1回」という訪問頻度のみを指標化・義務化することの弊害について、そろそろ見直しをすべき時期になったと思います。機会を改めて、本連載でも後日それについて触れる予定です。
 第6回専門委員会での議論の後、第7回及び第8回の会合では他の論点に関する議論が行われ、2009年7月の第9回会合で、第6回から第8回までの論点検討結果をまとめた「廃棄物処理制度専門委員会報告書(案)」が提示されました。
  第9回会合では、経団連等の企業としての立場から参加した委員からは
  • ・鉄鋼業界では、多くの企業が年一回以上の頻度で委託先の現地調査を自主的に行っているが、調査権限があるわけではないため、限界がある
  • ・全ての委託先を望ましい頻度で実地確認することは現実的でなく、内部事情までの確認といった実効性の上がる効果は期待できない
  • ・委託した処理の状況とは具体的にどのような情報を意味するのか明確にすべきである
  • ・個人事業主まで含めた全ての排出事業者に義務付けることは社会全体からみて極めて非効率な制度となる
  • ・中間処理業者の情報開示により確認することが現実的。処分業者に情報提供・公開等を義務付け、排出事業者が開示情報により処理の確認ができる体制を整えるべき
  • ・自主的な現地訪問に加え、委託契約時にも委託先の確認は可能
  • ・許可業者の規制強化対策を総合的に評価して、実地調査を実施すべきか判断いただきたい
  • ・排出事業者による委託先での処理状況の定期的な実地確認は、負担の大きさに比べて効果は薄く、導入すべきではない。
という反論が出ましたが、その他の委員からは、
  • ・定期的な実地確認を行うことは負担が大きいと思うが、情報をきちんと聴取するというのは全数あってしかるべき。情報を見て自分たちの排出したものがどうなっているかというのは少なくとも把握しておくべき
  • ・定期的な実地確認は、廃棄物のライフサイクル管理という意味では相当重要な行為であり、有効性を認識すべき
  • ・どこに出すかを実際に目で確認せずに委託する行為自体を今後は戒めるべき
  • ・「定期的」なというところ、あるいは「全数」という要件を過大な負担にならないよう配慮することは結構だが、少なくとも、処理業者との委託契約時には実地確認すべき
  • ・実地確認は、委託契約上問題ないのに、現地に行ってみると問題が発生しているということがあり、必要性としては非常に高い。ただし、負担のない形として中小企業等への配慮を検討すべき
  • ・事業者がきちんとライフサイクルを確認しているかは消費者にとっても重要な視点であり、当然ながら実地確認は行うべき
  • ・排出事業者の責任で、産業廃棄物処理業者が悪質か優良かを選別していってほしい。その大きな判断材料となるものがコストで、あまりに安い処理費用であればおかしいとするべき。優良な事業者を選択する際にも適正な価格か判断することとできないか
と、「排出事業者は定期的な実地確認を行うべき」という意見がほとんどでした。
 「やった方が良いことは確か」ではありますが、「1年に1回という定期訪問を義務づけるべきか否か」となると、排出企業においての費用対効果と、そもそも実行し続けられるのかという大変実務的な課題があることが、第9回会合では明らかとなったわけです。

(つづく)
(2024年03月)

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