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「処理状況確認」について(第3回)

Author

行政書士 尾上 雅典氏
(エース環境法務事務所 代表)

 前回は、2009年7月に開催された第9回廃棄物処理制度専門委員会で、「排出事業者への実地確認の義務化」について議論された際に委員から出された意見をご紹介しました。
 「実地確認の義務化」に否定的な意見としては、
  • ・排出事業者に調査権限があるわけではないため、限界がある
  • ・全ての委託先を望ましい頻度で実地確認することは現実的でない
  • ・中間処理業者の情報開示により確認することが現実的
  • ・定期的な実地確認は、負担の大きさに比べて効果は薄く、導入すべきではない
という、排出事業者側の負担の大きさや実効性に関する疑念が呈されていました。
 その一方で、肯定的な意見として、
  • ・情報をきちんと聴取するというのは全数あってしかるべき
  • ・定期的な実地確認は、廃棄物のライフサイクル管理という意味では相当重要な行為であり、有効性を認識すべき
  • ・どこに出すかを実際に目で確認せずに委託する行為自体を今後は戒めるべき
  • ・少なくとも、処理業者との委託契約時には実地確認すべき
  • ・事業者がきちんとライフサイクルを確認しているかは消費者にとっても重要な視点である
  • ・排出事業者の責任で、産業廃棄物処理業者が悪質か優良かを選別していってほしい
と、排出事業者責任の一環として、定期的な実地確認に取組むべきという指摘がありました。
 排出事業者か排出事業者以外かで意見が二つに分かれることになりましたが、専門委員会での議論に入る前に提示された原案は、次のとおりでした。
「第9回 専門委員会資料」
 産業廃棄物処分業者等に委託した処理が処理基準等を遵守してなされたかということまで確認するため、排出事業者及び中間処理業者は、委託した処理の状況を定期的な実地確認や産業廃棄物処分業者等による情報の提供又は公表等により確認するべきである。排出事業者が直接委託していない処理(例えば、中間処理後の最終処分)に関しては、原則として直接委託した者が確認し排出事業者はその結果を確認すればよいとすることが考えられる。
 最初に環境省が提示した原案では、「排出事業者自身の定期的な実地確認」か「処分業者等による情報提供または公表」という二つの選択肢が挙げられていましたが、実際に審議が始まると、「排出事業者自身の定期的な実地確認」に議論がほぼ集中したことになります。
 余談になりますが、上記の「処分業者等による情報提供または公表」については、「焼却施設」「最終処分場」「廃石綿等又は石綿含有産業廃棄物の溶融施設」「PCB廃棄物の分解施設又はPCB廃棄物の洗浄施設若しくは分離施設」の4種類限定ではありますが、2010年の廃棄物処理法改正でそれらの産業廃棄物処理施設設置事業者に、「維持管理状況に関する情報の公表」が義務づけられました。産業廃棄物処理業者全般の義務ではなく、不始末があると周辺の生活環境に害を与えかねない施設限定とはいえ、排出事業者のみならず、周辺のステークホルダーへも情報公開が義務づけられたことは、国としてのリスク管理の方向性としては望ましいものだったと言えます。
 さて、「定期的な実地確認の義務化」の議論に話を戻しますが、「やらないよりもやった方が良い」ことについては、反対派と賛成派の意見が一致するところでしたが、「1年に1回といった定期訪問を義務づけるべきか」や「排出企業は定期訪問を実行し続けられるのか」という、実務的な課題を一挙に解決できるような名案は出てきませんでした。法律の条文を作るだけで解決できるような問題ではないため、それも無理ありません。
 その後、「廃棄物処理制度専門委員会報告書(案)」が公開され、パブリックコメントを募集した後、2010年1月に「廃棄物処理制度専門委員会報告書」として、専門委員会での検討結果がまとめ上げられました。
 「廃棄物処理制度専門委員会報告書」では、「排出事業者責任の強化・徹底」のための「(イ)適正な委託処理の確保」として、「実地確認」に関し、
 排出事業者は最終処分が終了するまでの一連の処理行程における処理が適正に行われるために必要な措置を講じなければならないという義務を有しているが、その措置の実効性を高める観点から、排出事業者及び中間処理業者は、委託した処理が委託契約書に沿って適切に実施されていることを定期的に確認するべきである。その方法としては、実地に確認することや産業廃棄物処理業者による情報提供等により確認することなどが考えられ、排出事業者が直接委託していない処理(例えば、中間処理後の最終処分)に関しては原則として直接委託した者が確認し排出事業者はその結果を確認すればよいとすることが考えられる。
 と言及されました。
 「第9回専門委員会資料」と読み比べると、表現がほとんど変わっていないことがわかると思います。

(つづく)
(2024年04月)

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