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「処理状況確認」について(第4回)

Author

行政書士 尾上 雅典氏
(エース環境法務事務所 代表)

 2010年廃棄物処理法改正前に作成された「廃棄物処理制度専門委員会報告書」では、「排出事業者責任の強化・徹底」のための「(イ)適正な委託処理の確保」として、「実地確認」に関し、
 排出事業者は最終処分が終了するまでの一連の処理行程における処理が適正に行われるために必要な措置を講じなければならないという義務を有しているが、その措置の実効性を高める観点から、 排出事業者及び中間処理業者は、委託した処理が委託契約書に沿って適切に実施されていることを定期的に確認するべきである。その方法としては、実地に確認することや産業廃棄物処理業者による情報提供等により確認することなどが考えられ、 排出事業者が直接委託していない処理(例えば、中間処理後の最終処分)に関しては原則として直接委託した者が確認し排出事業者はその結果を確認すればよいとすることが考えられる。
 と言及されましたが、その後の国会審議を経て、新設された条文は次のとおりとなりました。
 廃棄物処理法第12条(事業者の処理) (抄)
 事業者は、自らその産業廃棄物の運搬又は処分を行う場合には、政令で定める産業廃棄物の収集、運搬及び処分に関する基準(「産業廃棄物処理基準」)に従わなければならない。
2~6
7 事業者は、前2項の規定によりその産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、当該産業廃棄物の処理の状況に関する確認を行い、当該産業廃棄物について発生から最終処分が終了するまでの一連の処理の行程における処理が適正に行われるために必要な措置を講ずるように努めなければならない。

 「廃棄物処理制度専門委員会報告書」と「廃棄物処理法の条文」の両方に、「処理状況確認」に関する部分にマーカーを引きましたが、廃棄物処理法の条文(第12条第7項)では、「廃棄物処理制度専門委員会報告書」で言及されていた、「定期的」と「実地に確認」という具体的な単語がスッポリと抜け、抽象的な努力義務規定となっています。
 法律の条文という特別な文章表現の制約上、抽象的な表現に落ち着いたことは仕方の無いことですが、廃棄物処理制度専門委員会報告書作成時の環境省には、「排出事業者が定期的及び実地に確認すべき」という問題意識があった、と言うことはできそうです。
 廃棄物処理法の条文では、「産業廃棄物の処理の状況に関する確認」と、排出事業者が行うべき行動が抽象的にしか表現されていませんので、その本質を読み解くためには、廃棄物処理制度専門委員会報告書で示された環境省の問題意識にも注目する必要があると筆者は考えています。
 既にお示ししたとおり、廃棄物処理制度専門委員会報告書では、「確認」の対象を、「委託した処理が委託契約書に沿って適切に実施されていること」と、非常に具体的に示しています。法律条文の「処理の状況に関する確認」という抽象的な定義よりも、排出事業者が取るべき行動をさらに具体的にイメージすることができます。詳細は次回読み解くこととなりますが、「委託契約書に沿った処理」と「適切に実施されていることを定期的に確認」の2つが、排出事業者への要請を理解する上でのキーワードとなります。
 さて、昨今、「(排出事業者による)委託先処理業者の監査」という、排出事業者を第三者、あるいは監督機関であるかのように誤信しているとしか思えない、不適切な日本語が使用される場面が増えていますが、廃棄物処理法の条文及び廃棄物処理制度専門委員会報告書で指摘された論点には、「監査者」のような、排出事業者を処理業者よりも優越的な立場に置き、処理業者を監視させようというような政策意図はまったく見受けられません。むしろ、そこから見て取ることができるものは、「契約書に沿って適切に実施されているかどうかを確認する」という、排出事業者と処理業者間の対等な関係の重要性ではないかと思います。

(つづく)
(2024年05月)