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「処理状況確認」について(第7回)

Author

行政書士 尾上 雅典氏
(エース環境法務事務所 代表)

 今回は、実務のシーンごとに適切な処理状況確認の頻度を考えていきます。

 「1年に1回以上」と頻度自体を最初からルール化することも可能ではありますが、現状の多くの排出事業者においては、特に企業規模が大きいところほど、委託先処理業者すべてを毎年1回必ず訪問するような、人員的・時間的な余裕は無いものと思われます。そのため、まずは、排出事業者が処理状況確認をすべきタイミングを先に例示したいと思います。

 前回までに見てきたとおり、排出事業者による処理状況確認は、「委託した処理が委託契約書に沿って適切に実施されていることを定期的に確認(廃棄物処理制度専門委員会報告書)」するために行われるものですので、「委託契約に沿った処理が実行されているか否かの確認」と言い換えることも可能です。
 上記の「委託契約に沿った処理が実行されているか否かの確認」には、「処分委託契約後」のみならず、「契約前の相手方処分業者の適格性に関する最終確認」を含めるべきと考えます。
 いきなり「契約前の相手方処分業者の適格性に関する最終確認」と書き出しましたが、「その業者が委託先として適切かどうか」「その業者は許可の範囲内で適切に産業廃棄物を処分できるか」を、排出事業者が事業場を訪問して、実地に検分する、という行動を意味しています。おそらく、どの企業においても、一度はそのような確認作業を行った経験をお持ちのことと思います。
 そのため、処理状況確認をすべき最初のタイミングは、「処分業者との契約直前(新規契約時)」と定義したいと思います。
 「新規契約時」の処理状況確認は非常に重要な行動です。その理由は、これまで取引実績のない処分業者の実際の処分方法や経営状況等、その場に行かないと取れない有益な情報が、処分業者の事業場に転がっているからです。

 「新規契約」後に、処理状況確認を行った方が良いタイミングは、「排出事業者の段階で、産業廃棄物の発生形態や性状が変化する場合」です。たとえば、産業廃棄物の性状が「固形」であったものが「泥状」に変わった場合、処分業者の設備によっては、「泥状のものは受け入れ不可」となることもありますので、産業廃棄物の性状が変わったとしても、それまでどおりに受け入れてもらえるかどうかを、処分場で実際の設備を前にして確認する必要があります。
 ここまでが「排出事業者都合」とも言える処理状況確認で、次は「処分業者都合」を契機とした処理状況確認のタイミングを見ていきます。

 「残さの最終処分先が変わった場合」
 「中間処理残さ」の(最終)処分先を決めるのは「中間処理業者」ですが、市場価格の変動に応じて、中間処理業者がその処分先を変更することがよくあります。その場合、排出事業者と中間処理業者間の委託契約書の「残さの最終処分先」に関する記載を変更する必要があります。
 「管理型最終処分場A」を「管理型最終処分場B」に変更するような場合は、「管理型最終処分場で埋立」という点には変化がありませんので、そのまま契約書の記載を変更するだけで良いと思いますが、「管理型最終処分場A」で埋立処分していた残さを、急に「製紙原料として売却に変更したい」と言われた場合は、本当にその中間処理業者の事業場で、製紙原料として売却できるレベルの処分が可能なのかを確認した方が良いでしょう。そうしないと、本来なら製紙原料として売却できない品質の残さを、管理型最終処分場以外の不適切な場所・方法で処分されるリスクがあるためです。

 以上が、「必ず現地に処理状況確認に行った方が良い」タイミングの3例となります。これ以外に、排出事業者が「定期的に」処理状況確認する際の「最適な頻度」については、排出事業者の処分委託量や、処分業者の財務状況によって大きく変動します。
 具体的に言うと、排出事業者からの処分委託量が多い、または処分業者の財務状況が悪化傾向になっている場合は、それだけ処理状況確認を行う必要性が増すことになります。そのため、ここはケースバイケースで判断するしかありませんが、先述した3つのタイミングでの処理状況確認を履行しておけば、「訪問するための訪問」といった無駄な訪問の頻度を減らすことが可能になります。

 もっとも、地方自治体の独自条例により「1年に1回以上の訪問」が義務付けられている場合は、「現地での確認」か、別の機会に取り上げる「デジタル技術を用いた処理状況確認」により、条例で定められた義務を果たした証拠を残す必要があります。

 独自条例で定期的な現地確認が義務づけられておらず、新規契約後、産業廃棄物の発生形態や性状が変化せず、中間処理残さの変更もない状態が続いているという場合は、処分業者が業許可の更新を受けたタイミングで、すなわち「概ね5年に1回程度」は、最低でも現地に処理状況確認に行った方が良いと思います。その理由は、処分業者の経営状況は刻々と変化するものであり、現場に直接行かなければ、施設の稼働状況や、処分業者の経営実態など、取引継続の可否を判断する上で非常に重要な情報が手に入らないからです。

 結局のところ、「処理状況確認」とは、「監査」や「監視」ではなく、排出事業者と産業廃棄物処分業者との「対話の場」であり、「コミュニケーションのきっかけ」とすべき段取りですので、対等な取引相手としてざっくばらんな姿勢で臨んだ方が、お互いにとって有益な時間となるはずです。

(つづく)
(2024年08月)

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