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「無許可業者の許可は取り消せない」

Author

BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏


※この⼩説記事はフィクションであり、実在の⼈物、団体、事件等とは⼀切関係ありません。

主な登場人物

  • ○長尾景文、上杉県(架空の県)直江支庁環境課廃棄物対策係長、廃棄物処理法に精通している。
  • ○山崎光秀、廃棄物処理会社株式会社セントラルクリーンの専務取締役。産廃協会の地区役員でもあり、地域業界の若手リーダー的存在。
  • ○前田利史、上杉県直江支庁環境課廃棄物対策係技師。経験も積んでいて長尾係長の信頼も厚い。
  • ○柿崎優、上杉県直江支庁環境課廃棄物対策係主事。大学で法律を専攻し廃棄物対策係2年目。
  • ○宇佐美菊子、上杉県直江支庁環境課廃棄物対策係技師。新採職員。化学専攻。
  • ○大関長一郎、警察を一昨年定年退職し、現在は長尾の下で不法投棄監視員という再任用職員として働いている。

「長尾係長、係長は意地悪だ」お茶を飲みながら山崎は長尾に笑いながら語りかけた。勿論冗談半分である。

言われた長尾もニヤニヤしながら「どうしてだい?こんなに優しい県職員は滅多にいないと思うけどなぁ」と言い返す。

ここは上杉県の出先機関の直江地方支庁環境課事務室内の応接セット。もっとも、応接セットと言っても許可申請者が来れば書類、図面を拡げられる極めて事務的な机とパイプ椅子だけである。

「適正処理を目指す仲間達」その1 画像1「いいや、係長は意地悪だ」山崎は念を押すようにもう一度言葉にした。

山崎はこの地方では中堅クラスの産業廃棄物処理業者の専務である。収集運搬業と汚泥脱水の中間処理業の許可を取っている従業員30人ほどの会社の専務をしている。また、その行動力を買われ産業廃棄物協会の支部役員も務めているこの地方の産廃処理のリーダー的存在である。

一方、意地悪だと言われた長尾は年齢は三十代半ば、支庁環境課で廃棄物対策係長をしている。「なぜ意地悪なんだい?」長尾が聞いた。

「係長はオレの会社のようにちゃんと許可を取得して真面目にやっている会社に対して、すぐに『許可取り消すぞ。取り消すぞ』と脅かす。たまには無許可業者の許可を取り消してみろ」

さすがに、最初から許可を持っていない無許可業者に対しての許可取消処分は行えない。

「ん~、参った。」・・・・とは言うものの実は、長尾は係員とともにある「無許可業者の許可取消」を目論んでいたのであるが、それはいくら親しい山崎であっても、決定し公表する前に漏らすわけには行かない。

山崎と長尾はもうかれこれ10年来の付き合いであった。行政担当者と処理業者の関係はややもすると許可を巡り汚職事件にもなりかねないものではあることから社会的には敵対的な関係かと思われるかも知れないが、一方で協力しあわなければならないことも多い。

今日も山崎は地域の不法投棄防止対策協議会で実施する「不法投棄原状回復事業」の打ち合わせで来所していた。

上杉県ではもう20年以上前から県、市町村、衛生組合と言った公的、準公的組織とともに建設業協会、そして産業廃棄物協会と言った民間組織とともに協議会を作り、不法投棄の防止や行われてしまった不法投棄の原状回復事業を行ってきている。県は不法投棄を回収したり原状回復を実施する重機や運搬車両を所持している訳では無く、現場作業はどうしても産廃協会に頼らざるを得ない。ある意味、弱い立場なのである。

長尾はかつてヒラの担当者の時にも直江支庁環境課に勤務していた関係から山崎とは冗談を言い交わす間柄になっていたのである。

山崎はこの後10分ほど実務的な話を女性担当者である宇佐美菊子技師とした後、帰っていった。

「宇佐美さん、前田くん、柿崎くん、ちょっと集まってくれ」長尾が廃棄物対策係の係員を招集した。前田は化学系技師、柿崎は法律を専攻した事務屋である。

「例のタケダ回収の方はどうなってる?」

「適正処理を目指す仲間達」その1 画像2「適正処理を目指す仲間達」その1 画像3

「相変わらず、『なんでも回収します』というチラシを撒いて廻っているようです」前田が答えた。

「許可関係は調べたかい?」長尾が聞くと、今度は柿崎が「有限会社タケダ回収はうちの県の産業廃棄物収集運搬業の許可は取得していますし、ベースにしている隣県の丹羽県の産業廃棄物収集運搬業の許可も取得しています。しかし、ここ直江市、麦豊町、加東町の一般廃棄物処理業の許可は取っていません」と答えた。

「大関さん、タケダ回収の家庭からの不用品の処理実態は掴めたかなぁ」と長尾は大関に声を掛けた。大関は警察官OBで昨年から不法投棄監視員として勤めている。

「住民から情報提供があった2ヶ月前から、何回か家庭からの不用品を引き渡すところを写真に撮っていますし、不用品を出した側の人物からも話を聞いています」

「それで、出した側の人物は処理料金を支払ったって言ってたかい」

「チラシやアナウンスでは『無料です』『200円で買い取ります』など言いながら、お年寄りが不用品を預けると、トラックに積んだ後に『200円で買い取るんだけど、今、台所からトラックに運んで積んだ人足賃7万円だ。差額の69800円払え』とか言った事例もあります」

「そいつは悪質だなぁ。警察も動いているかも知れないけど、うちの県の産業廃棄物の許可を持っているのをそのままにしておく訳にはいかないなぁ。よし、やろう」長尾は「無許可業者の許可取消を決断したのであった。

まだ新人の宇佐美技師が先輩の前田にそっと尋ねた。

「前田さん。タケダは産業廃棄物処理業の許可を取っているんでしょ。それで違反になるの?」
 「廃棄物処理の許可は一般廃棄物と産業廃棄物では別ものなんだ。家庭から排出される廃棄物は一般廃棄物。タケダは一般廃棄物処理業の許可は取っていないでしょ。いくら産業廃棄物処理業の許可を取っていても一般廃棄物については無許可ってことだよね」

「無許可ってどのくらい悪い行為なんですか?」

今度は柿崎が答えた。

「廃棄物処理法では罰則を規定していて、無許可は罰則第二十五条、5年以下の懲役または1000万円以下の罰金、またはその併科だね」

柿崎は答えながら着々と産業廃棄物収集運搬業の許可取消のための事務手続きに着手していた。

<つづく>

今回の確認

  1. 1.無許可業者の許可は取り消せない
  2. 2.廃棄物処理法の処理業許可制度は一般廃棄物と産業廃棄物は別物
  3. 3.家庭から排出される廃棄物は一般廃棄物
  4. 4.行政と処理業者は敵対関係では無い。
  5. 5.不法投棄対策として協議会を組織し協力し合っている自治体も多い

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