BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏
※この⼩説記事はフィクションであり、実在の⼈物、団体、事件等とは⼀切関係ありません。
主な登場人物
山崎と阿部は阿部の会社である食品メーカー株式会社縞馬屋伊達工場に来ている。
縞馬屋で数年前から行っている工場間での相互監察の関連から阿部が工場長をしている隣県の伊達工場における廃棄物処理についてチェックしている最中であった。(詳細は前号)
昨日一日かかって契約書等の書類の点検が一応終了した。今日はいよいよ現場の点検である。
現場の案内には、特管産廃管理責任者となった佐竹製造部長が勤めることになった。
「昨日の終業時に片倉工場長に呼ばれましてね。『数年前からあなたが特管産廃管理責任者です』なんて言われちゃってさぁ。今朝には数年前の日付に遡って辞令書までもらっちゃったよ。でも、資格手当も遡って出してくれるってことなので喜んで受けちゃったよ」
佐竹は単に手当をもらえるから喜んでいるだけでは無く、自分の実績を認めてもらえたことの方がうれしかった。
「実は数年前まで宇喜多さんという大先輩がいて、その方がこの工場の廃棄物関係は一手に引き受けていたんだけど、定年退職と同時に娘さんの嫁ぎ先に引っ越しちゃって。いろいろ聞いておけば良かったなぁって思っていたところだったんですよ。そんな訳で廃棄物処理法は体系立てて勉強したことは無いんだけど、どうしたらいいですかねぇ」
阿部が推薦したとおり佐竹は真面目で勉強熱心な人物のようである。
「佐竹部長は既に特管産廃管理責任者の資格は有る訳ですけど、養成講習会が産廃処理振興センター、略称JWって業界では呼んでいるんですけど、そこでやっていますから一度受講なさってはいかがですか」山崎が答えた。
「でも、製造部長の仕事もあるし長期に職場を空けるわけにもいかないよなぁ」
「特管産廃管理責任者の講習会はたった一日ですよ」
「たった一日?それで知識が得られるのかい?」
「まぁ、正直無理でしょうね。でも、重要なポイントは効率よく教えてくれますし、なんといってもテキストが充実しています。だから、受講して職場に戻り、適時、そのテキストで復習すればいいんですよ」山崎が答える。
「それはいいことを聞いた。私の工場からも誰か受講させることにしよう。そうだ、一日で済むなら私自身も一度受講してみようかな」阿部工場長も乗り気である。
そんな話をしながら製造ライン、水処理ライン、そして廃棄物ラインについて見てまわった。
「ここが廃棄物保管庫なんですけど、どうですかねぇ」佐竹が尋ねる。
「廃棄物の保管場所には掲示版を掲げなくてはならないんですけど、入口に立派な看板が設置されていましたね」
「あぁ、あれはさっき話した宇喜多先輩が退職前に設置してくれたみたいだね。」
「法定項目は記載されていますが、担当者が宇喜多さんのままになっていましたから、そこは書き換えておいてください」
「了解しました。ちょっと気になっていることがあってねぇ。」
「なんでしょう?」
「数ヶ月前に処理業者をエコアザ社からアスマグマ社に変えたでしょ。その影響で、まだストック量が結構多いんですよ。2~3週間分は保管している状況なんだけどだめかなぁ」
「大丈夫ですよ。排出事業場にはそこから排出される廃棄物の保管量制限は無いんです。」
「じゃ、いくらでも保管してていいの?」
「生活環境保全上の支障が出なければね」
「『生活環境保全上の支障』ってなに?」
「『生活環境保全上の支障』というのは飛散、流出、地下浸透、悪臭や鼠、害虫の被害といったことですかね」
「それなら大丈夫。うちは食品メーカーと言うこともあり、見ていただいたとおり保管倉庫には冷蔵設備も付けているから」
「そのようですね。屋外に野ざらし、なんていうのは論外ですけど、この倉庫からはみ出さないようにしておく限りは問題ないでしょう。」
「なるほど。いくら保管量の上限規定は無い、と言っても排出事業場で生活環境保全上の支障なく保管できる量は自ずと決まってくるねぇ。」
「まぁ、そういったこともあり、法令では上限量は規定していないのかもしれないですね。でも、屋外に保管する時は勾配規定等が出てきますから注意して下さいね。もっとも、縞馬屋さんでは関係しないか」山崎が答えた。
佐竹の案内でおおかた施設は点検したが、念のため敷地内全体を見てまわることにした。工場は郊外にあり敷地は緑地帯も含めて相当広い。阿部と山崎は業務を終了し半分散歩気分であった。
ところが、工場敷地の外れにドラム缶が数本放置されているのが目に入った。
「佐竹部長。あのドラム缶はなんですか?」山崎が尋ねた。
「なんだろう?私も今まで気にとめたことも無かったなぁ。言い訳するわけじゃ無いけど、私の担当は製造部門。敷地内の管理となると総務部の管理課が所管なんですよ」
ドラム缶に近づいた三人はお互い顔を見合わせた。
「だいぶ古いもののようだね。銘板も見えなくなっているし、錆も相当出ているし」と阿部が独り言のように声に出していった。
「無理に蓋を開けてこぼれたりすると後が大変だから、あとは管理課に任せましょう」と佐竹。
「でも、そんなにゆっくりとはしていられませんよ。万一、破損して中の廃液が流れ出したりすると不法投棄で検挙される可能性もありますから」と山崎。
「おいおい、山崎さん。いくらなんでも不法投棄だなんて。ここは我が社の土地ですよ。不法投棄は大げさでしょう」
「なにを言っているんですか佐竹部長。いくら自分の土地でも処分のあてなく放置していると『投棄した』と解釈されたケースもあるんですよ。ましてや、壊れて中の廃液が河川に入り、魚が死んだりしたら新聞沙汰ですよ」
「そうなの?それじゃ、散歩気分でのんびりしている時じゃ無いね。急いで事務室に戻って、管理課長に伝えておくよ。」
阿部と山崎は案内の佐竹が事務所に戻ってからも、付近の敷地を監察し、その後事務室で合流した。事務室には片倉工場長も既に控えていた。
「お疲れ様でした。概要は丹羽さんと佐竹部長から聞いたよ。けっこう改善点はあるようだね。早急に対処して、いつ行政の立入検査があっても大丈夫な状態にしておくよ」
「はい、いくらかでも片倉先輩のお役に立てたのならよかったです。会社の規定ですから、私の方からも本社の方には報告書を上げておきます」
阿部は片倉、佐竹と軽く打ち上げをするとのことでもう一晩伊達のビジネスホテルに泊まるとのことであった。おそらく、縞馬屋内部の情報交換でもあるのだろう。
山崎が隣県の自宅に着く頃には時計の針は12時を廻っていた。
「ようやく明日からは本業に戻れるなぁ」
山崎は先ほど立ち寄った職場の机の上に積み重ねられた書類の山を思い浮かべていた。
<つづく>
今回の確認
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