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「建設系不法投棄」

Author

BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏


※この⼩説記事はフィクションであり、実在の⼈物、団体、事件等とは⼀切関係ありません。

主な登場人物

  • ○長尾景文、上杉県(架空の県)直江支庁環境課廃棄物対策係長、廃棄物処理法に精通している。
  • ○前田利史、上杉県直江支庁環境課廃棄物対策係技師。経験も積んでいて長尾係長の信頼も厚い。
  • ○柿崎優、上杉県直江支庁環境課廃棄物対策係主事。大学で法律を専攻し廃棄物対策係2年目。
  • ○大関長一郎、警察を一昨年定年退職し、現在は長尾の下で不法投棄監視員という再任用職員として働いている。

上杉県(架空の県)直江支庁環境課廃棄物対策係の大関不法投棄監視員が不法投棄のパトロールを行っている。大関はこれが主たる業務なので、毎日のように外回りをしているのであるが、今日は同じ係の前田技師も同行している。

「この辺のはずだなぁ」と大関が言うと「そうですねぇ、この辺ですよね」と前田が応ずる。

現在、多くの県では年間数回に亘り、県庁や県警のヘリコプターを使い上空から不法投棄の発見と未然防止、啓発活動を行っている。

数日前に県下一斉に実施したスカイパトロールには直江支庁からは前田が参加した。今居る場所は前田がその時発見した「疑わしい」とされた場所である。

「 第11回「建設系不法投棄」 画像1

スカイパトロールは広い範囲を一望に見渡せるという利点はあるものの、木々に隠れて詳細が不明なときも多い。数日後にはこのように地上から自分たちの足で確認するのが一般的なやり方である。

「前田さん、あの沢じゃないか」大関が長年の経験からかいち早く発見したようである。

「そうみたいですね。あそこに行くには、あちらの脇道から林道に入らないと行けないようですね」二人が移動しようとしたその時、二人よりも早くその場所にやって来た4トンダンプがあった。

「前田さん、ちょっと隠れて様子を見よう」大関は元警察官の本領発揮した。既に手にはカメラが構えられている。

ダンプは不法投棄されている現場に駐車すると中から二人の作業着を着た男が降りてきた。そして、積んできた家屋解体から発生したと思われる木くずをその場所に捨て始めたのである。

2~3本降ろしたところを確認、写真に収めたところで大関が近寄って男達に声を掛けた。

「こんにちは。今日はいい天気だねぇ。あんた達、どこの会社の人かなぁ」口調はのんびりとした感じで極力警戒心を押さえさせている。見事なテクニックである。

「そいうあんたらは、どこのどいつなんだ。人に名前を聞くときには自分から名乗るのが礼儀だろう」ふてぶてしく答える。

「そいつはもっともな話だ。大変失礼した。我々は総合支庁環境課の不法投棄監視員。私は大関という者だが」先ほどとは一変して、厳格な口調で返答する。相手は一瞬たじろぐ。

「お、お、俺たちは土建会社の従業員だよ」

「ふぅん、どこの土建会社のなんて言うお方かな。なんか証明するものは持っているかい。免許証、見せて貰おうか」

「 第11回「建設系不法投棄」 画像2

男達はまさか見つかるとは思ってもおらず、突然のことであったこともあろうか、言われるがままに免許証を提示した。すかさず、前田がカメラで接写するとともに記載事項を書き写す。

「ふぅん。村井さんと齊藤さんか。で、会社は?」

「直江市内のプレハ小林だよ」

「そうかぁ、プレハ小林の村井さんと齊藤さんねぇ。ところで、ここにはよく来るの?ここにあるがれきや木くずは全部あなた方がやったのかな」

「違う、違う。あんた方勘違いしているようだけど、そもそもこの土地はうちの社長の土地だし、かなりの量は誰かが不法投棄していった物だよ。うちらの物は半分も無いよ」

「まっ、詳しくは支庁で聞くから、今降ろした木くずだけでももう一回ダンプに積み込んで、一緒に付いてきてもらおうかな」

免許証を確認されたことも有り、二人は観念したように指示に従いパトロール車の後を着いてきた。


支庁の小会議室でプレハ小林の村井と齊藤と対面しているのは大関監視員、前田技師、加えて長尾係長、柿崎主事も同席している。

「あなたが村井さんで、そちらが齊藤さんだね」聞き取りは長尾係長が行っている。

「はい」二人は覚悟を決めたのか素直に答えている。

「部下からの報告によるとあなたがたは木くずを沢に捨てていたらしいね。その行為は不法投棄だと思わない?」

「不法投棄だと思うよ」

「不法投棄は犯罪だって知らないの?」

「知ってるよ」

「じゃ、どうして捨てていたの?」

「社長に捨ててこいって言われたので・・・」

「社長に命令されたことは罪にならないと思った」

「あんまり深くは考えなかったけど、社長が命令したんだから社長が罰を受けるんだろ。オレ達はさぁ、社長の手足になって動いただけだよ」

「 第11回「建設系不法投棄 」 画像3

「じゃぁさぁ、抗争している暴力団があるとするね。組長から『あっちの組長のタマ取ってこい』とか命令されて、手下のチンピラが『わかりました。親分。オイラがタマ取ってきます』とか言って、相手の組長をナイフで刺したとするじゃない。当然、捕まるよね。その時、『どうして刺したんだ』と警察から聞かれたときに『うちの親分から刺してこいと言われたから』と答えたら、刺したチンピラは罪にならないと思う?」

「・・・・・・」

「当然、殺人罪とか傷害罪とかになるでしょう。不法投棄だって犯罪だってあなたたちも判っていたじゃない。実行犯は当然罪になるよね。」

ふたりは青くなって「だんな、なんとかなりませんかねぇ」などと泣き声に変わってきた。不思議なことに悪い奴は警察や行政の人間を「だんな」と呼ぶようだ。

村井と齊藤からは得られるだけの情報を聞き取り、日を改めてプレハ小林の小林社長を支庁に呼び出した。

<つづく>

今回の確認

  1. 1.自治体では空からの監視も行っている。
  2. 2.自分の土地でも不法投棄罪は成立する。
  3. 3.実行犯は罪になる。

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