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建っている間は廃棄物処理法を適用しない

BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

このシリーズは、廃棄物処理法の条文に明示していないような事柄について、定説と伴にBUNさんの主張(自説や妄説)を聞いていただくという企画です。
 一応、「定説」とされているレベルの箇所には<定説>と明示し、BUNさんの独りよがりと思われるようなところには<自説>、さらに根拠が薄いなぁというようなところには<妄説>と明示して話を進めていきます。
 読者の皆さんも、<定説>部分は信じてもかまいませんが、<妄説>の箇所は盲信することなく、眉に唾を付けて読んで下さいね。
 さて、今回は「建っている間は廃棄物処理法を適用しない」ということを考えてみたいと思います。

<定説>
 このメルマガの読者なら、皆さん即答なさると思うのですが、「ビルの解体工事から排出されるがれき類や木くず」の排出者は誰ですか?
 それは「工事の元請業者」ですね。このことは、私が知る限りは昭和57年2月に通知された「建設廃棄物の処理の手引き」以降、旧厚生省時代から連綿と続く考え方です。
 ただし、途中で「フジコー裁判」が行われ、「区分一括発注の場合は下請も排出者となる」という時代もありましたが、平成22年改正により、第21条の3という条文を制定し、法律上も「建設工事に伴って排出される廃棄物の排出者は元請業者」であると規定しています。

<自説>
 でも、一度改めて考えてみて下さい。新築や改築ならまだしも、解体工事であれば、建築物を解体する前から、その建物の所有者(この人がたいていの場合、解体工事の発注者となる訳ですが)は、「この建物要らないよ」と考えていると思いませんか。
 要るんだったら、壊しませんよね。要らないから壊すわけです。で、あるならば、その建物は廃棄物であり、その廃棄物の排出者は、建物の所有者ということになりませんか。
 と、なれば、その「建物を解体する行為は、廃棄物の中間処理」となりますよね。と、なれば、他人の建物を解体する工事をする人物は中間処理業の許可が必要、となります。

<妄説>
 まぁ、そうなると世の中の多くの建設業者さんに、廃棄物の中間処理業の許可を取って貰わなければならない、となります。
 しかも、理屈上、もっと大変なこととして、一般国民が住んでいるいわゆる「一般住宅」は一般廃棄物ということになってしまいますよね。
 一般住宅に住んでいたのは一般人。その人物が「この建物は要らない」と思うからこそ、解体を依頼する。この行為には「事業活動」は伴っていない。廃棄物処理法第2条第4項の産業廃棄物の定義には「事業活動に伴って生じた」という形容詞が付く。よって、事業活動が伴わずに発生する産業廃棄物はあり得ない。となると、第2条第2項の規定により、これは一般廃棄物ということになる。
 第2条第2項「一般廃棄物とは産業廃棄物以外の廃棄物をいう」。
 すなわち、一般住宅が建っている時点で、その住人である一般国民が、「もう、この家、立て替えよう。古くなった家は要らないから壊して頂戴。」となると、解体する前にその古い家は一般廃棄物。したがって、その家屋を解体する人物は一般廃棄物の中間処理業の許可が必要、となります。
 さらに問題なのは、このシリーズの第一回でやりました「オリジン説」です。「一般廃棄物を処理して発生する残渣物は一般廃棄物」でしたね。
 と言うことは、一般家屋を解体して発生する廃棄物は、一般廃棄物となってしまい、市町村に統括的責任がある、となってしまいます。
 (まぁ、分かり易く言えば、市町村のクリーンセンターで受けてやる義務が生じるってことですね。)
 家一軒解体して出てくる廃棄物の量は半端じゃありません。それが全部市町村のクリーンセンターに搬入されたら、市町村の焼却炉や最終処分場はパンクしてしまいます。
 そのため、一般家屋を含めて、建築物の解体工事から排出する廃棄物は産業廃棄物である、としなければならなかったのでしょうね。
 さて、ここからが議論のあるところです。
 「産業廃棄物である」とする手法はいくつかあります。
 まず、一番分かり易いのは、「家屋解体で発生する廃棄物は産業廃棄物とする」と規定しちゃうことです。
 前述の通り、現在では第21条の3第1項で、「排出者は元請とする」と規定した訳ですから、出来ないことではない。
 では、なぜ、この手法を採らなかったか。
 一つは「歴史的経緯」があると思います。
 どういうことかと言うと、昔、昔、縄文時代からでもいいのですが、昭和40年代までは家屋を解体しても、廃棄物はあまり出なかったのです。
 ビックリなさる方もいるかもしれませんが、田舎の風景を思い浮かべて下さい。現在でも、明治、大正、江戸時代の建物、さらにその残骸なんてほとんど無いでしょ。なぜか。昔の日本の庶民の家は茅葺き屋根の木造家屋だったんです。プラスチックや石膏ボード、合板類など使っていない。しかも、みんな貧乏でしたから家の建て替えなんて、何十年、何百年に一度位しかやらない。木材は貴重品。使える物は解体した建物から流用する。さらに、木材や茅は貴重な燃料なんです。廃棄物にならないんです。だから、解体から発生する廃棄物なんてほとんどない。その程度なら市町村で面倒見てあげてもかまわないってことだったんでしょうね。
 ところが、昭和40年代になり、戦後間もなく建てられた住宅が建て替え時期に入った。しかも、建材としてはプラスチックや石膏ボードなんかも多くて、大量の廃棄物が市町村に持ち込まれるようになった。
 そこで、「解体から出てくる廃棄物は産業廃棄物」として欲しい、となったようなんですね。
 ちなみに、建設系廃棄物の制度の変遷を概略書いておくと・・・
 昭和45年の廃棄物処理法スタート時でも、廃プラスチック類や金属くずは産業廃棄物。
 昭和58年、解体木くずを産業廃棄物に。
 それ以降、五月雨的に平成9年までに、解体だけでなく、新築、改築時の木くずも、さらに木くずだけでなく紙くずや繊維くずも産業廃棄物として追加してきています。
 まぁ、このような経緯もあり、最初からまとめて「家屋解体で発生する廃棄物は産業廃棄物とする」と規定することは避けたのかもしれません。
 もう一つの要因は、公共工事の取り扱いかなぁとも思います。
 公共工事の場合、解体工事から排出する際の元々の所有者、管理者は国、県、市町村です。そうなると、発注者が排出者としての責任を果たさなければならなくなる。(今となっては当然のことではありますが。)
発注者は、工事全体を建設業者に任せた限りは、あとは「そちらで上手くやってよ」と業務を軽くしたい。
 だから、一般家屋の解体工事だけを例外的に規定するのではなく、もっと、上のレベルで包括的な制度にして欲しい、と考えたのかもしれませんね。

さて、話を戻しまして、一般家屋の解体材を産業廃棄物にする二つ目の手法。それは「排出時点」をすり替えることです。これをやることにより、「排出者」もすり替えることが可能になります。
 「一般国民が事業活動を伴わずに発生させるから一般廃棄物」となってしまう訳です。
  そこで、「建っているうちは廃棄物は発生していない。」「解体工事をやるから廃棄物が発生する」という論法です。
 この論法を用いれば、「では、その解体工事を行っている人物は誰か。」それは解体業者であり、その工事について対外的に責任を持てるのは「元請業者」である。となる訳ですね。
 現実にも、この論法が採用されたものと思われます。
 ですから、「建っている間は廃棄物処理法を適用しない」となり、よって、建物を解体する行為は、「廃棄物を発生させる」行為であり、「中間処理ではない」。よって、中間処理業の許可も不要であるし、排出者は解体業者(元請)であるから、解体工事から発生した廃棄物を運搬する行為は「自社運搬」にあたり許可は不要、という論法で整理したのでしょうね。
 この「「排出時点」、「排出者」をすり替える」については、次回、もう少し考えてみましょう。

第10回 「建っている間は廃棄物処理法を適用しない」のまとめ
<定説>
 建設系廃棄物の排出者は建設工事の元請業者である。
 (廃棄物処理法第21条の3第1項)
<自説>
 しかし、解体する時点で、元々の所有者は「この建物は要らない」というのであれば、建物が廃棄物であり、排出者は元々の所有者ではないのか。
<妄説>
 解体廃棄物については、「解体工事」という事業を行うから廃棄物が発生する、と捉える。そうすることにより、排出者を解体業者にすることが可能になり、産業廃棄物の処理ルートに乗せることができる。

(2020年02月)

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