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「産業廃棄物の種類」その2<燃え殻>

BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

このシリーズは、廃棄物処理法の条文に明示していないような事柄について、定説と伴にBUNさんの主張(自説や妄説)を聞いていただくという企画です。
 一応、「定説」とされているレベルの箇所には<定説>と明示し、BUNさんの独りよがりと思われるようなところには<自説>、さらに根拠が薄いなぁというようなところには<妄説>と明示して話を進めていきます。
 読者の皆さんも、<定説>部分は信じてもかまいませんが、<妄説>の箇所は盲信することなく、眉に唾を付けて読んで下さいね。
 さて、前回からは新たなテーマ「産業廃棄物の種類」について、あ~でもない、こ~でもないと述べてます。
 前回は20番目に登場した「動物系固形不要物」をネタに、なぜ「産業廃棄物の種類」の規定は必要なんだろうか?を考えてみました。今回は通例どおりに、法律「燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物(法律第2条第4項)」の最初に登場する「燃え殻」について取り上げてみましょう。

<燃え殻>
<定説>
廃棄物処理法がスタートした直後の施行通知には次のように説明しています。
昭和四六年一○月二五日 環整第四五号
1 燃えがら......電気事業等の事業活動に伴って生ずる石灰がら、灰かす、炉清掃掃出物等が代表的なものであり、集じん装置に捕捉されたものはダスト類として令第二条第一二号に掲げる産業廃棄物として取り扱うものであること。その他熱エネルギー源を物の燃焼に依存している場合の焼却残灰、炉清掃掃出物等についても同様の取扱いとするものであること。

これを見ると、このルールを作った人の頭では、典型的な「燃え殻」とは、火力発電所から出てくる石炭を燃やして出てくる「灰」。多少の燃え残りを含んでいる。
ただし、集塵機で集められる「煤(すす)」は、「ばいじん」という違う種類にするよ。
です。

<自説>
通知に登場する表現は、いかにも偉い学者先生が頭の中で描いた概念のように感じます。つまり、この先生の頭の中では焼却炉がイメージされていて、専門用語で言うところの「ボトムアッシュとフライアッシュは違うよ」に焦点がいっている。(ボトムアッシュとは焼却炉の下に溜まる灰、燃え殻。フライアッシュと言うのは煙に混じって飛んで言ってしまう煤。)
もちろん、それは重要なことなんです。
なぜかと言えば、ボトムアッシュとフライアッシュは性状が違ってくる。
融点の低い金属類、水銀とか鉛とかでしょうか、特に平成10年前後に話題になったダイオキシンはフライアッシュ「ばいじん」に含まれ(付着)易いことなどがあげられると思います。
だからボトムアッシュとフライアッシュとでは処理方法が違う。だから別の種類にしておく必要がある。
前回の動物系固形不要物の巻でも、また、基礎講座でも話をしていますが「処理方法が違う」だから「違う種類にする」という大原則通りなので、それはさほど議論の余地は無いのです。
現実的に問題になるのは、たとえば・・・
「木くずを焼却した後に残る灰は燃え殻か?」なんです。
と言うのは、前述の「石炭を燃やして出てくる灰は燃え殻」では、燃やす前は「石炭」という有価物なんです。このルールを作った先生の頭では、「有価物を使ってしまって排出される物が廃棄物」だと思われるんですね。だから、燃やす前の「物」が石炭であろうと薪であろうと石油であろうと、問題ではない。その後に排出される「灰」は「燃え殻」だと。
ところが、燃やす前から廃棄物であったら、出てくる「灰」は「燃え殻」と呼んでいいんだろうか?
これが廃棄物処理法を担当した当初、BUNさんが疑問に感じた点です。

<定説>
事業活動に伴って排出される「燃え殻」は産業廃棄物である。
「廃棄物の処理業」、これも間違いなく事業活動です。
もちろん、事業者が自分の廃棄物を焼却する行為も事業活動です。
平成13年に法律第16条の2、いわゆる「野焼き禁止条項」が制定されてからは、滅多に見られなくなりましたが、それまでは日本の至る所に「ドラム缶焼却炉」がありました。
市町村によっては「ごみの減量化にも繋がる」として補助金を出しているところまでありましたが。
現在は、ドラム缶焼却炉は「処理基準に合わない処理方法」として事実上禁止されています。
でも、平成13年までは、このドラム缶焼却炉で燃やされて出てくる「燃え殻」もあった訳です。

<妄説>
では、燃やす前から廃棄物であったら、出てくる「灰」は「処理物」ではないのか?
なんのために燃やしたのか?それは燃やせば「量」がぐっと減る。減量化である。燃やせば腐ることはなくなる。安定化である。もし、それに病原菌が付着していても燃やせば死滅する。安全化である。
廃棄物処理の3原則を満たすベストな手法。まさに「廃棄物処理」なんだから、その後に出てくる「灰」は「処理物」と言っていいのではないか?
こう考えたんですね。そして政令の産業廃棄物の種類を見ると、最後の13号に「処理物」とある。
まさにこれだ。だから、処理する前に既に廃棄物であった「物」を焼却して出てくる「灰」は「燃え殻」ではなく「処理物」が正しいと。
しかし、それは間違いでした。13号処理物を見ると次のように規定していたんです。
(今は複雑怪奇な条文になってしまったので、当時の条文で紹介します。なお、この話は2年前の「へんてこ条文」に詳しく書きましたので、そちらを参照のこと)

十三  燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類又は前各号に掲げる産業廃棄物を処分するために処理したものであつて、これらの産業廃棄物に該当しないもの

これでおわかりのとおり、燃え殻をはじめ、政令で具体的に規定している産廃については「これらの産業廃棄物に該当しないもの」とありますので、該当しないんです。
つまり、見た目ですぐに「これは燃え殻だ」とわかる。だから、燃え殻に該当するから13号処理物ではない、となる訳です。めでたしめでたし。

いやいや、めでたしじゃないんですね。燃やす前に既に産業廃棄物であった物はそれでもいいかも知れないけど、じゃ、燃やす前に一般廃棄物である物を燃やして出てくる「灰」はなにになるのか?

先ほどの13号処理物の規定をもう一度見てみると「産業廃棄物を処分するために処理したもの」と書いてあるんですね。だから、一般廃棄物を燃やして残る「灰」は、13号処理物ではないんです。
じゃ、燃やす前に一般廃棄物であった「物」を事業活動を伴って焼却して、残る「灰」は産業廃棄物の「燃え殻」なのか?
もし、この状態の「灰」を産業廃棄物にしてしまうと、市町村のクリーンセンターの焼却炉から出てくる「灰」は全て産業廃棄物になってしまいます。
市町村と言えども事業活動ですから。産業廃棄物の燃え殻には業種指定はありませんから。

それは困りますね。一般廃棄物が全て産業廃棄物に衣替えしてしまいます。責任所在があいまいになってしまいます。
そこで、これは廃棄物処理法の不文律なのですが、大原則として「処理する前に既に一般廃棄物であれば、処理した後に出てくる処理物も一般廃棄物である」としているんですね。

本日のまとめ
産業廃棄物20種類の中に「燃え殻」がある。
通知で明確に示している「燃え殻」とは、燃やす前に有価物であった「物」(たとえば火力発電所で燃料として使う石炭)を燃やして出てくる「灰」が産業廃棄物の「燃え殻」。これは確実に間違いない。
燃やす前に産業廃棄物であった「物」(たとえば工事業者が出す解体木くず)を燃やして出てくる「灰」は産業廃棄物の「燃え殻」。処分するために処理(焼却)しているとしても、それは13号処理物ではない。
燃やす前に一般廃棄物であった「物」(たとえば事務所から出てくる紙くず)を燃やして出てくる「灰」は産業廃棄物の「燃え殻」ではない。それは一般廃棄物。

なかなか、「燃え殻」も難しいでしょ(^。^)

(2020年06月)

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