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「産業廃棄物の種類」その5<廃酸、廃アルカリ>

BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

このシリーズは、廃棄物処理法の条文に明示していないような事柄について、定説と伴にBUNさんの主張(自説や妄説)を聞いていただくという企画です。
 一応、「定説」とされているレベルの箇所には<定説>と明示し、BUNさんの独りよがりと思われるようなところには<自説>、さらに根拠が薄いなぁというようなところには<妄説>と明示して話を進めていきます。
 読者の皆さんも、<定説>部分は信じてもかまいませんが、<妄説>の箇所は盲信することなく、眉に唾を付けて読んで下さいね。
 さて、ここのところ「産業廃棄物の種類」をテーマに、あ~でもない、こ~でもないと述べてますが、今回は「燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物(法律第2条第4項)」の3番目に登場する「廃油」について取り上げてみましょう。

<廃酸、廃アルカリ>
<定説>
廃棄物処理法がスタートした直後の施行通知には次のように説明しています。
昭和四六年一○月二五日 環整第四五号
4 廃  酸......廃硫酸、廃塩酸、各種の有機廃酸類をはじめ酸性の廃液のすべてを含むものであること。したがって、アルコール又は食用のアミノ酸の製造に伴って生じた発酵廃液は廃酸に該当するものであること。
廃酸は、液状の産業廃棄物であるが、水素イオン濃度指数を五・八以上八・六以下に調整した場合に生ずる沈でん物は汚でいと同様に取り扱って差し支えないものであること。
5 廃アルカリ......廃ソーダ液、金属せっけん液をはじめアルカリ性の廃液のすべてを含むものであること。したがってカーバイトかすは、廃アルカリとしてではなく汚でいとして取り扱い、埋立処分にあたっては、浸出液の処理を行なうこと。廃アルカリの水素イオン濃度指数を調整した場合に生ずる沈でん物の取扱いは、廃酸の場合と同様とするものであること。なお、工場廃液は、4若しくは5又は4及び5の混合物として取り扱うものであること。

理系の方はもちろん、文系の方でも酸性、アルカリ性はご存じだと思います。小学校の理科実験でリトマス紙が赤く変わるのが酸性、青く変わるのがアルカリ性って習いましたね。
その度合いを表す指標が水素イオン濃度指数(pH)で、7以下が酸性、7以上がアルカリ性。7が中性でしたね。

<自説>
廃酸の通知には「水素イオン濃度指数を五・八以上八・六以下に調整した場合」と出てきますが、この5.8~8.6というのは水質汚濁防止法で規定している排出水の公共河川に放流してよい範囲なんです。
そのため、この数値が登場したものと思われますが、もちろんこの範囲を超えても「中和の際に発生する沈殿物」は「汚泥」になるものと思います。むしろ、この「沈殿物」を「汚泥」と呼ばないとしたら、なんと呼んでいいのか?
これと関係するのかもしれませんが、ここで気になる言い回しをしているんですね。それは「汚でいと同様に取り扱って差し支えない」という表現です。
実は、こういう言い回しをしている通知がBUNさんが知る限りもう一つあります。

時代は30年ほど下りますが、平成一六年三月一六日付け「感染性廃棄物処理マニュアル」の中から。
6 医療器材としての注射針、メス、ガラス製品(破損したもの)等については、メカニカルハザードについて十分に配慮する必要があるため、感染性廃棄物と同等の取扱いとする。また、鋭利なものについては、未使用のもの、血液が付着していないもの又は消毒等により感染性を失わせたものであっても、感染性廃棄物と同等の取扱いとする。(なお、この表現は、平成4年の初出の時から変わっていません。)

これにはまいりますよね。「鋭利なものについては、未使用のものであっても、感染性廃棄物と同等の取扱いとする。」ですよ。未使用のメスや注射器を、たとえば床に落としてしまって変形してしまって使えない。だから廃棄するって言うときでも「感染性廃棄物」として扱えって言うんですか?
それはちょっと違うんじゃないの?と言えば、「いやいや、感染性廃棄物として扱え、とは言ってないでしょ。<同等の取り扱い>をしなさいって言ってるんですよ」
じゃ、感染性でない廃棄注射器は感染性廃棄物なんですか?感染性廃棄物じゃないんですか?感染性廃棄物じゃないんだったら普通の産業廃棄物として廃プラスチック類、金属くずの許可業者に委託しなければならないでしょ。許可区分が別という制度にしている限り、はっきりしてよって。
この「同等の取り扱い」って表現は、制度設計者、マニュアル策定者の「苦肉の策」の表現なんでしょうね。
で、話は戻りまして、昭和46年の元祖「同等の取り扱い」。
はたしてこの通知を書いた人は「中和の際に生じる沈殿物」は「汚泥」にしたかったのか、「廃酸」にしたかったのか?なぜ、明確に「中和の際に生じる沈殿物は汚泥とする。」と言い切れなかったのか?

<妄説>
おそらく、この通知の執筆者は、書いていて既に自己矛盾に気がついていたのかもしれないなぁ。と、言うのは前々回の「汚泥」、前回の「廃油」の回でも書いたけど、「処分するために処理した後に残る物」すなわち、「中間処理残渣」なんだけど、これを元々の種類と違う種類にしてしまうと、極端な場合は、一般廃棄物が産業廃棄物に衣替えしてしまう。
だから、原則的な理論としては、処理した後に残る物は、本来的には処理する前の物と同じ種類、区分にしておく必要がある。
実は、この考え方、概念は、処理基準の表現にも出てくる。

チ 廃油(タールピッチ類を除く。)の埋立処分を行う場合には、あらかじめ焼却設備を用いて焼却し、又は熱分解設備を用いて熱分解を行うこと。(政令第6条第1項第3号チ)

この基準を最初に読んだときBUNさんは頭が混乱しました。廃油を焼却したら、それはもう廃油じゃなく、燃え殻じゃないか。なぜ、素直に「廃油は埋立禁止」と規定しないのか。訳が分からなくなりました。
最近、ようやくわかってきました。制度を作った人は、前述のとおり「処理した後に残る物は、処理する前の物と同じ種類」が理屈上は大原則なんです。処理した後に種類が変わることは理論に矛盾が出てしまうんです。だから、「廃油は焼却したあとも廃油」。だから、廃油の埋立基準は「廃油を埋め立てするときは焼却してから」という書き方にしないと筋が通らない。
話を元に戻して、だから、「廃酸を中和して生じる沈殿物」も本来的には、この制度を作った人の頭の中では「廃酸の処理後物」(つまり、種類としては「廃酸」のまま)でないとおかしくなる。けして別の種類の産廃にしてはならない。そうしないと理論に矛盾が生じる。それはわかってはいるけど、どう見ても、そこから見た人には「汚泥」は「汚泥」にしか見えない。
しょうがない。自己矛盾ではあるけれども、ここは百歩譲って「汚でいと同様に取り扱って差し支えない」という表現で妥協しよう。逃げておこう。・・・・(この表現は、当時、法律を作った人からは怒られちゃうかな。まぁ、半世紀も前のことだ許していただこう。)
時代が下った「感染性廃棄物処理マニュアル」も同じ気持ちだったのかなぁ。
さすがに、未使用のメスや注射器まで「感染性廃棄物」とは言えない。それはわかっている。しかし、メカニカルハザードはあるし、他人から見れば未使用か、使用済みかなんてわからない。だから、処理ルートとしては特管物のルートで扱って欲しい。でも、許可区分が違うしなぁ。しょうがない。ここは百歩譲って「感染性廃棄物と同等の取扱いとする」という表現で妥協しよう。逃げておこう。と。
なお、ここはあくまでもBUNさんの<妄想>ですので悪しからず。

とまぁ、このように産廃19種類という種類分けは、スタート時点での制度設計者も矛盾を抱えた制度だなぁと感じていたのかも知れない。

<定説>
前述の通知では廃アルカリについて「廃ソーダ液、金属せっけん液をはじめアルカリ性の廃液のすべてを含むものであること。したがってカーバイトかすは、廃アルカリとしてではなく汚でいとして取り扱い・・・」とあります。
ここの部分でこの通知を書いた人はなぜ「したがって」と書いたのか?やはり、廃酸、廃アルカリは液体に限定だ。<したがって、>固体である「カーバイトかす」は、いくらしみ出てくる液体がアルカリ性であっても「廃アルカリ」という種類ではなく「汚でい」として取り扱うんだ。
ここで推察出来ると思うのですが、廃アルカリ(廃酸も同様ですが)は液状、液体の場合しか「廃アルカリ」という種類にはしない、ということです。
固形状の「物」は廃酸や廃アルカリという種類にはしない、と言っています。

<自説>
汚泥は含有(溶出)している有害金属の濃度によっては特管産廃になります。しかし、pHがいくら高くとも、低くとも特管産廃にはならないんですね。
たとえば、pH13のアルカリ液体がしみ出すような「物」はどういう分類になるのか?
まぁ、極端な例としては、不純物が混入してしまった水酸化ナトリウムの試薬(白い粒状)などは廃棄物となったらどの種類に該当するのか?
まぁ、この昭和46年の通知の時点では特別管理廃棄物の概念が登場する20年も前の通知ですから、そこまでは想定していなかったのかもしれませんね。
逆の言い方をすれば、特管物のルール、制度を定めるときには、20年前の廃棄物処理法スタート時点の制度設計者の思いを踏襲していたのか?って気にもなります。

<定説>
通知の最後では、「工場廃液は、4若しくは5又は4及び5の混合物として取り扱うものであること。」と言っています。
つまり、「工場廃液は、廃酸若しくは廃アルカリ又は廃酸及び廃アルカリの混合物として取り扱うものであること。」ということです。

<自説>
ここも面白いですね。特に「廃酸及び廃アルカリの混合物」って。
以前、「pH7.0ちょうどの廃液はなにになるのか?」と質問した人が居て、「それは廃酸と廃アルカリの混合物だ」と答えたとか。つまり、廃液である限り、廃酸か廃アルカリ、どちらかに該当しちゃうってことですね。
ここまで来るとさらなる疑問が出てきますね。
じゃ、「工場の排水を川に流す行為は廃棄物の不法投棄になるのではないか?」と。

<定説>
実はこの疑問に答えられるように、国は廃棄物処理法施行と同時に通知を出している。
廃棄物の処理及び清掃に関する法律の運用に伴う留意事項について
昭和四六年一○月二五日 環整第四五号
2 廃棄物処理法は、固形状及び液状の全廃棄物(放射能を有する物を除く。)についての一般法となるので、特別法の立場にある法律(たとえば、鉱山保安法、下水道法、水質汚濁防止法)により規制される廃棄物にあっては、廃棄物処理法によらず、特別法の規定によって措置されるものであること。

この通知で明らかなように、工場の排水を川に流す行為は水質汚濁防止法により規制されるから、工場廃液が廃酸、廃アルカリといった廃棄物であっても、それは、廃棄物処理法は適用せずに、水質汚濁防止法を適用するよってことなんですね。

<自説>
めでたし、めでたし。じゃないんですね。環境法令に詳しい方は、ここでさらに疑問が出てくる。
「排水基準が適用になる工場って一日の排水量が50トン(特定施設の種類等によっても異なります)以上の大規模な工場だけでしょ?だとすれば、大きな工場は廃棄物処理法が適用にならないから不法投棄にならずにすむのに、小さな工場は廃棄物処理法が適用になって不法投棄で捕まるの?」

ほぼ<定説>
近年、廃棄物処理法だけが厳罰化の改正を行ったために、水質汚濁防止法や他の環境法令の罰則と大きな開きが出来てしまいました。そのためこの疑問が度々提示されるようになってしまいました。
この疑問については法律の専門家である検事さんが「特別刑事法犯の理論と捜査(城祐一郎著、執筆当時、最高検察庁検事)」、「廃棄物・リサイクル・その他環境事犯捜査実務ハンドブック(緒方由紀子著、執筆当時、さいたま地方検察庁検事)」といった本を出されていますので参照してね。

なかなか、「廃酸・廃アルカリ」も難しいでしょ(^。^)

(2020年10月)

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