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「産業廃棄物の種類」その6<廃プラスチック類とゴムくず>

BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

このシリーズは、廃棄物処理法の条文に明示していないような事柄について、定説と伴にBUNさんの主張(自説や妄説)を聞いていただくという企画です。
 一応、「定説」とされているレベルの箇所には<定説>と明示し、BUNさんの独りよがりと思われるようなところには<自説>、さらに根拠が薄いなぁというようなところには<妄説>と明示して話を進めていきます。
 読者の皆さんも、<定説>部分は信じてもかまいませんが、<妄説>の箇所は盲信することなく、眉に唾を付けて読んで下さいね。
 さて、ここのところ「産業廃棄物の種類」をテーマに、あ~でもない、こ~でもないと述べてますが、今回は「燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物(法律第2条第4項)」のうち6番目に登場する「廃プラスチック類」と、これと比較するために、順番を飛び越しますが「政令で定める廃棄物」のうちの一つ「ゴムくず」について取り上げてみましょう。

<廃プラスチック類とゴムくず>
<定説>
廃棄物処理法がスタートした直後の施行通知には次のように説明しています。
昭和四六年一○月二五日 環整第四五号
6 廃プラスチック類......合成樹脂くず、合成繊維くず、合成ゴムくず等合成高分子系化合物に係る固形状及び液状のすべての廃プラスチック類を含むものであること。
12 令第二条第五号に掲げる産業廃棄物......天然ゴムくずが含まれるものであること。

既に皆さんご存じのとおり、廃プラスチック類とゴムくずは廃棄物処理法がスタートした昭和46年の時点から、産廃19種類の中で別の区分になっています。
なんで、「ゴムくず」なんて、単独で独立した種類にしたんだろう?
廃棄物処理法を担当した方は一度は思われたのではありませんか?
BUNさんは廃棄物処理法がスタートして10年ちょっとの時には担当したのですが、そのBUNさんでさえ、そう思いました。

ほぼ<定説>
古い古い記憶を呼び起こすと、昭和30年代ってプラスチック類はそんなに普及していなかったように思います。
現代では思いも寄らないと思いますが、身近にある「物」のほとんどは身近にある「物」で作られていました。食器は瀬戸物・陶器でしたし、服は木綿や綿入れ、履き物は下駄や草履、足袋。乗り物は蒸気機関車(BUNさんは高校2年まで国鉄米坂線を走っている蒸気機関車で通学していました)。
SLを思い浮かべていただくとわかると思いますが、ほとんどの部分が鉄です。座席は布張りの木製でした。
もちろん、これは日本でも田舎中の田舎の話で、都市部は多少は違ったとは思いますが・・・
だから、当時、今のプラスチックに求められるような「適度な堅さ、適度な柔らかさ、粘り」のような性質は樹脂、皮革に求められていました。古い辞書で「プラスチック」と調べると「合成樹脂」「合成皮革」って載ってますよ。
これが急激に変化したのは、前の東京オリンピック(昭和39年、1964年)、そして大阪万博(昭和45年、1970年)の頃でしょうか。
「三種の神器」とか呼ばれて、テレビ、冷蔵庫、洗濯機が一般家庭でも購入出来る時代、そして「3C」と呼ばれるカラーテレビ、クーラー、自家用車(カー)が普及した時代です。
廃棄物処理法のスタートはちょうどこの大阪万博の時なんです。
世の中に物資が溢れて、大量生産、大量廃棄になり、「有害」「不衛生」という「物」を規制するだけでは収まらなくなり、「不要」という「物」を規制しなければならなくなった。それが清掃法では収まらずに廃棄物処理法を制定せざるを得なくなった背景だ、ということはいろんな本でも語られています。

手元にある古い資料※1を見ると、1960年(昭和35年)の京都市の家庭から排出される「ごみ」の組成分析表では、平均的家庭一所帯から1日で出される「ごみ」の総量は可燃、不燃物合わせて1322グラム、このうち「ビニール・セルロイド類」が、3グラムです。3/1322=0.2%。(表現も「廃プラスチック類」ではなく「ビニール・セルロイド類」と時代を感じます。)
廃棄物処理法スタート時直前の(1969年、昭和44年※2)の東京都の可燃物に占めるプラスチック類の比率は9.7%、1999年(平成11年)の「6都市平均値」※3では、プラスチック類の比率は13%となり、年代を追う毎に飛躍的に増加したのがわかります。
※1、「ごみ処理の理論と実際」(昭和36年、(財)日本環境衛生協会)
※2、「最新公害時点」(昭和47年、(財)日本工業立地センター)
※3、「FACT BOOK 2000」((財)日本環境衛生センター)

<妄想> 世の中のたいていの「偉い人」って年寄りです。年取ってくると時間の感覚が伸びてくる気がします。
小学生の時の1年間は長かった。でも、今、1年なんてあっという間です。
20歳から30歳までの10年間は長いと思います。でも、50歳から60歳なんてあっという間です。
失礼な話ながら、廃棄物処理法がスタートする昭和45年の時の20歳の青年と、国の法律という制度を権威を持って審議する50歳代以上の委員の先生方では、「感覚」は違ったと思うんです。
20歳の青年は「もう、プラスチックの時代だ」と無意識に感じ取っていたと思うのですが、50歳代の偉い人の感覚では「プラスチックなんて今後どこまで普及するかわからない。弾力性のある素材はやっぱり(天然)ゴムをおいて他にない。(天然)ゴムが世の中から不必要とされることはないだろう。需要は今後ますます伸びるだろう。」と感じておられたのではないかと。(あくまでも個人的な妄想です。)
実はBUNさんは、前々から「なぜ、ゴムが一品目として独立した種類、区分になっているのか?」気になっていて、いろんな資料を見るときも頭の片隅において調べているのですが、明確に記載している資料は発見していません。
また、(BUNさんよりも)昔から廃棄物処理法に携わっている先輩方にお聞きしても、前述レベル以上の確たる証言は得られていないんです。

引き続き<妄説>
ゴムくずを一品目として独立した種類、区分にしたもう一つの理由を次のように推察しています。
それは「ゴムって天然の植物から採取している物だよなぁ」ってことです。
だから、「動植物性残渣」にもなるんじゃないかと。さらに、状態によってはネバネバ、ドロドロしていますよね。「汚泥」でもいいのではないかと。さらに、前述の通り言葉の成り立ちとは前後するし矛盾した言い回しではあるけど、「天然の合成樹脂」として廃プラスチック類に含めてもよかったのではないかと思われる訳です。
それなのに、なぜ独立して1種設けたか?
それは「処理方法が違う」と制度設計者は考えたのではないか?
このシリーズでは何回か述べましたが、なぜ、種類の違う品目にしなければならないのか?それは処理の方法が違うから。処理方法が「燃やす」と「埋める」だけなら燃えるごみと埋めるごみの2種類で済む。それをわざわざ違う種類にしたのは、処理方法が違うと考え方から・・・なのではないかとBUNさんは思うのです。
当時、廃プラスチック類は燃やすか埋めるかしか処理方法は無い(現実には、それが大半)。
しかし、天然ゴムは再生が可能だ。よって、天然ゴムの処理方法としては、リサイクルをメインに構築しよう。
当然、一般的な動植物性残渣や汚泥とは扱いは違う。だから、「ゴムくず」は独立した一つの種類にしよう。と。

<定説>
廃プラスチック類は安定型産業廃棄物です。ご存じのとおり、安定型産業廃棄物は腐敗しない、汚水を発生させない、性状的に安定しているからこそ、遮水シートや水処理施設の義務づけがない安定型最終処分場に埋めてもいい、という理屈です。
昔から、1ガラス・陶磁器くず、2ゴムくず、3廃プラスチック類、4金属くず、5がれき類は「安定5品目」と呼ばれ、安定型最終処分場で処分されてきています。
(現在は、この5品目にアスベストの溶融物も加えられています。)
一方、逆に、この5品目であっても「金属鉛」「ブラウン管の側面」「容器包装」などは安定型最終処分場での埋立は禁止されています。
金属鉛は「金属くず」に該当しますが、その飽和濃度が基準値以上になってしまいます。(金属鉛を水に浸けておくと、それだけで基準値を超える濃度が溶け出してしまう。)
「ブラウン管の側面」はガラスくずに該当しますが、時折、鉛や水銀が溶出するときがあるのだそうです。「容器包装」はマヨネーズの殻をイメージすると分かり易いと思いますが、殻としては廃プラスチック類ですから安定型最終処分場に埋めてもいいのですが、マヨネーズの殻であった宿命として、中にマヨネーズがくっついているだろう、そのまま埋めればBODが高くなってしまうだろって理屈です。だから、容器包装廃棄物については、中味をきれいに洗って付着物が無い状態が明白なら安定型最終処分場に埋めてもいいよ、という基準ですね。(政令第6条第1項第3号イ)

<自説>
廃プラスチック類も安定5品目の1つですが、昨今(とは言えもう30年位前から)、「生分解性プラスチック」なるものも発明されていますよね。プラスチックが微生物で分解されるなら、それはもう動植物性残渣と大差がないのではないか。
それに環境問題に鋭敏な人は「可塑剤が溶け出すのではないか」と主張なさる方もいます。
BUNさん個人としては、「そうは言っても安定型最終処分場のルールが作られてからでも40年、現実的にそんなに大きな問題になっているか。」と思うと、それほど神経質になることもないかなぁとも思うのです。
いろいろ考えさせられることはあります。
一つは、ここ数年の中国をはじめとする諸外国の廃プラスチック類締め出しの機運もあり、令和元年には国から、市町村の焼却炉で産業廃棄物である廃プラスチック類を受け入れてくれないか、という要請が出されました。
マイクロプラスチックによる海洋汚染も世間の耳目を集めています。
平成10年前後には、ダイオキシン騒動があり、「廃棄物を燃やすこと」を忌避する方もいらっしゃいます。しかし、この当時としては超厳しいダイオキシン規制を日本は技術力で克服しました。
また、エネルギーは絶対必要なのですが、原子力発電はご存じのとおりです。
市町村の一般廃棄物焼却炉では、ごみの分別が進み発熱量が不足して、助燃剤として灯油を使用しているところもあります。

こんな種々の事情を勘案すると、BUNさんは廃プラスチック類は焼却するのがベターなのではないか、と思う訳です。あえて「ベスト」とは使いたくないので、「ベター」としてみました。
全量リサイクルを推奨する人もいますが、リサイクルの過程で汚水を発生させたり、エネルギーを過度に使用してまでしてやるリサイクルは、少なくとも現時点ではBUNさんは好きではありませんので、リサイクルがベストとも言い難い。
そんなことを考えると、「廃プラスチック類は埋立処分」「廃プラスチック類はリサイクル」と一様に処理方法を決めるのは得策ではない。
å と、なれば、廃プラスチック類を安定型産業廃棄物にしておく必然性もないし、もう一歩踏み込めば、「廃プラスチック類」という産業廃棄物の種類分けは妥当なんだろうか?ともなる訳です。

ちなみに、産業廃棄物としての廃プラスチック類の排出量は年間680万トン。これは全ての産業廃棄物排出量約4億トンの1.8%にあたります。と、言われても実感しませんよね。BUNさんはこれを1日あたり、国民一人あたりに換算しています。すると、産業廃棄物である廃プラスチック類の排出量は1日一人あたり約150グラム、りんご半分位です。
皆さんは、この量を多いと思いますか?少ないと感じますか?

ちなみにちなみに、ゴムくずの年間排出量は1万6千トン、総排出量の0.0042%です。

今回は取り留めもない<自説>で終わってしまいました。
なかなか、「廃プラスチック類、ゴムくず」も難しいですね(;´_`;)

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【参考資料】
■産業廃棄物の種類別排出量グラフ(平成30年度実績値)

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■産業廃棄物の種類別排出量(平成30年度実績値)

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令和元年度事業
産業廃棄物排出・処理状況調査報告書
平成30 年度速報値(概要版)令和2 年3 月

(2020年11月)

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