大栄環境グループ

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総合判断説その3

BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

このシリーズは、廃棄物処理法の条文に明示していないような事柄について、定説と伴にBUNさんの主張(自説や妄説)を聞いていただくという企画です。
一応、「定説」とされているレベルの箇所には<定説>と明示し、BUNさんの独りよがりと思われるようなところには<自説>、さらに根拠が薄いなぁというようなところには<妄説>と明示して話を進めていきます。
読者の皆さんも、<定説>部分は信じてもかまいませんが、<妄説>の箇所は盲信することなく、眉に唾を付けて読んで下さいね。
 さて、「物は有価物か廃棄物か」の定説となっているのは、総合判断説ですが、それをあえて点数評価してみようという妄説に前回からお付き合いいただいています。
今日は、5つの要素の最後「取引価値の有無」です。

<定説>行政処分指針から抜粋
エ 取引価値の有無
 占有者と取引の相手方の間で有償譲渡がなされており、なおかつ客観的に見て当該取引に経済的合理性があること。実際の判断に当たっては、名目を問わず処理料金に相当する金品の受領がないこと、当該譲渡価格が競合する製品や運送費等の諸経費を勘案しても双方にとって営利活動として合理的な額であること、当該有償譲渡の相手方以外の者に対する有償譲渡の実績があること等の確認が必要であること。

<自説、妄説>
 「取引価値の有無」は、「物の性状」と同じく、BUN式点数加算法では40点を配分してみました。なぜ、「取引価値の有無」が重いのかについて以下に記載してみました。
 「取引価値の有無」とは端的に表現すれば、「処理料金の徴収の有無」でしょう。
 ごく一部、処理料金に相当する金を受領して無罪になった裁判例(茨城木くず裁判)はあるものの、当時、環境省もこの判決に反論しており、現時点でも全国のほとんどの自治体(私の知る限り「全て」と言っても過言ではない)では、さすがに「処理料金を徴収する」パターンは、処理業の許可は必要であって、許可を取らずに行為を行えば、無許可営業として告発する、という見解で臨んでいると思われます。
※(なお、当裁判は、他に加味すべき要因があるのですが、それはまた別の機会に。)
 私は、全国のほとんどの自治体のこの運用を、現時点では極めて妥当な判断だと思っています。
 脱法的な裏取引が無いことを前提とすれば、人は「金を出して買ってくる」という判断をするにあたり、必ず「総合的に判断」しているはずであるからです。
 たとえば、まず「自分が要らない物」は金を出して買ってくるはずがありません。
 特殊な用途や目的がなければ「有害物」を金を出して買ってくるはずがありません。
 たとえば、農家や家庭菜園をやっている方は農薬を買うでしょう。しかし、耕す農地もない人が、毒性のある農薬を買うことは無いでしょう。(時折、奥さんと上手く行っていない人も農薬を買うかも知れませんが、それはまた別の目的があるからでしょう(^_^;))
 また、世間で物を引き取るときに、金をもらえる取引が行われている物を、わざわざ金を出して買ってくるはずがないでしょう。「1,000円で買いますよ」と言っているのに「いやいや、500円を支払いますよ」と言う人も滅多にいないでしょう。
 100円と言えども今買ったばかりの物を、その直後に投げ捨てる人はまずいません。
 と、言うことは、買い取られる「物」であれば、人はその物をぞんざいに扱うことはなく、したがって、不法投棄などは起きない、ということになるのです。
 そのような「物」なら、廃棄物処理法という厳しいルールを適用しなくても、さしつかえない、となる訳です。
 しかも、「取引価値の有無」、すなわち「金のやりとり」は外見上、極めて「わかりやすい」のです。なので、通常、裏取引がなければ、「人が金を出して買ってくれる物は有価物。逆に、処理料金を払わなければ持って行ってくれない物は廃棄物。」として扱っているのが実情です。そして、これでも世の中の9割8分位は支障なく運用されていると思っています。
 しかし、この「売った。買った。」だけでは解決出来ない「グレーゾーン」が存在します。その典型的な例が「0円取引」です。
 「タダで引き取りますよ」というパターンですね。
 「タダで持って行く、という人に預けていいんだろうか?」「タダで持って行く人は許可は要らないんだろうか?」。売った、買ったが伴いませんので、0円取引ではこの「取引価値の有無」が不明確になってしまうんですね。

<定説>「手元マイナス」
 もう一つ、「売った。買った。」だけでは解決出来ない「グレーゾーン」を紹介しておきます。これは、公式な「通知」にあることですから、<定説>としておきます。
 それは「手元マイナス」というパターンです。
 たとえば、「うちの工場の庭先まで、その物をもって来てくれれば、原料として使えるから30円で買うよ」と言っている工場があるとします。それを聞きつけた別の事業者が、「うちの事業所ではその物は要らないから、じゃ、その工場まで運んで売り渡そう。」と考えて運んだとします。ところが、運ぶのに200円かかってしまいました。すると、たしかに物は30円で売れましたが、排出事業者としては運搬に200円かかりましたから30-200=-170円となってしまいます。排出事業者の手元がマイナスになってしまうような取引、これをこの業界では「手元マイナス」と呼んでいます。
 「手元マイナス」になってしまう「物」は、果たして有価物なのか、廃棄物なのか、売った、買っただけでは簡単には判断が付きませんよね。
 そこで、平成17年の時に環境省は「規制改革通知」の中で、「手元マイナスになってしまうような物は、排出事業者の時点では廃棄物、それを運搬している時点でも廃棄物、買い取ってくれる人の元に届いて、本当に原料として使用しているのであれば、買い取られて以降は有価物」という、明確な通知を出してくれたのです。
 ところが、これが8年後に再び「不明確」な状態に陥りました。
 平成25年3月29日通知の該当箇所を抜粋して紹介しましょう。
 「当該輸送費が売却代金を上回る場合等当該産業廃棄物の引渡しに係る事業全体において引渡し側に経済的損失が生じている場合であっても、少なくとも、再生利用又はエネルギー源として利用するために有償で譲り受ける者が占有者となった時点以降については、廃棄物に該当しないと判断しても差し支えないこと。」

なんとも上手な言い回しです。表面上は「到達した時点以降については、廃棄物に該当しない」としか言っていないんですね。この通知のポイントは、文字に表れていない部分なんですね。すなわち、この通知は到達した以降しか言及していないから、排出事業者の時点、運搬途上については「どちらともとれる」、つまり、ケースバイケースってことです。
<自説>
 現在でも、手元マイナスのケースは平成17年の通知に基づいて、「排出事業者の時点では廃棄物」と判断している自治体が圧倒的に多いと思います。手元マイナスでも廃棄物処理法を適用しない、というケースは受け皿がバイオマス発電の認可を受けている等の余程しっかりした事業でなければ認めていないと思います。
 と、言うことで、今回は総合判断説の「取引価値の有無」について検討してみました。

「総合判断説」その3のまとめ
<定説>
 総合判断説の5つの要因の一つとして「取引価値の有無」が挙げられている。
<自説>
 裏取引さえなければ、「人が金を出して買ってくれる物は有価物。逆に、処理料金を払わなければ持って行ってくれない物は廃棄物。」として扱っている。
 しかし、0円取引、手元マイナスは「売った」「買った」だけでは判断が付かない。
<定説>
 手元マイナスは廃棄物、使用者の手元に届き、原料として買い取られて以降は有価物として扱われるのが一般的。

総合判断説その3画像

(2019年10月)

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