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抜本改正!労働安全衛生法の化学物質規制強化、 第一弾の改正案が提示~ラベル表示・SDS等の対象物質を追加!

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環境コンサルタント
安達宏之 氏

2021年12月16日、労働安全衛生法施行令などの改正案のパブリックコメントが出され、2022年1月14日まで意見の公募が行われました。

これは、過去の記事
「【第82回】労働安全衛生法の化学物質規制が抜本改正へ!~「自律的管理」とは何か?」
でお伝えした法改正の第一弾です。

記事のタイトルの通り、労働安全衛生法における化学物質規制は、これから大幅に変わることになりますので、十分な注意が必要です。

まず、12月に提示された改正案を含む、全体の改正イメージをつかんでおきましょう。

全体の改正のコンセプトは、「自律的管理」を基軸にした規制の導入です。
これは、特定の化学物質に対する個別具体的な規制から、危険性・有害性が確認された全ての物質に対して、国が定める管理基準の達成を求め、達成のための手段は限定しない方式に大きく転換するというものです。

具体的には、危険性・有害性が確認された全ての物質について、次の事項が義務付けられます。

 ①譲渡・提供時のラベル表示・SDS交付
 ②製造・使用時のリスクアセスメントの実施
 ③労働者が吸入する濃度の管理基準が定められた化学物質については基準以下に管理
 ④保護眼鏡、保護手袋等の使用

厚生労働省の資料によれば、この対象物質数として「約2900物質」と記載されています。
例えば、ラベル表示・SDS交付・リスクアセスメントの対象物質は現在約700物質です。膨大な数の化学物質が規制対象に追加されることがわかります。

一方、特定化学物質障害予防規則(特化則)、有機溶剤中毒予防規則(有機則)については、現在123物質の取扱い等を規制していますが、5年後を目途に「自律的管理」に移行できる環境を整えた上で、廃止することを想定しています。

このように、従来の規制が大きく変更されることになるわけですが、こうした改正を一気に進めるわけではなく、段階を経て、現在の規制を「自律的管理」に移行させようとしています。

今回の改正案は、その第1回目の改正となります。
そのポイントは次の図表の通りです。

労働安全衛生法施行令等の改正案のポイント

項目法の規制(現状)改正点施行日
1.請負人の労働者の労働災害防止措置義務の範囲拡大 化学物質の製造等を行う設備の改造等の仕事を発注する注文者は、請負人の労働者の労働災害を防止するため、必要な措置を講ずる。
○作業開始までに、注文者は、対象物の危険性・有害性、注意すべき安全衛生事項等を記載した文書を請負人に交付する。
○対象設備は、「危険有害性の高い化学物質」の製造等を行う設備(化学設備及び特定化学設備)に限定。
○対象設備の範囲を拡大し、「危険有害性を有する全ての化学物質」(ラベル表示・SDS交付・リスクアセスメント義務対象)の製造等を行う設備を規制対象とする。 令和5年4月1日
2.職長等への安全衛生教育の業種拡大 建設業や製造業(一部を除く)など6業種に該当する事業者は、新たに職務につくこととなった職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者(職長等)に安全衛生教育を行う。 ○対象業種に、「食料品製造業うま味調味料製造業及び動植物油脂製造業 を除く。)」、「新聞業、出版業、製本業及び印刷物加工業」を追加する。 令和5年4月1日
3.名称等の表示・ 通知義務の化学物質追加 ○危険性・有害性のある化学物質を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供する者は、ラベル表示をする。
○危険性・有害性のある化学物質を譲渡し、又は提供する者は、SDSを交付する。
○これら化学物質を原材料等として新規に採用し、又は変更するときなどの場面において、リスクアセスメントを行う。
○上記3つの対象物質は、本法施行令 18条及び18条の2において 、別表9に掲げる物等と定められている(約700物質)。
○対象化学物質について、本法施行令別表9を改正し、234物質を追加する。 令和6年4月1日

(1)請負人の労働者の労働災害防止措置義務の範囲拡大
本法31条の2では、化学物質の製造等を行う設備の改造等の仕事を発注する注文者に対して、請負人の労働者の労働災害を防止するため、「必要な措置」を講ずることを義務付けています。

本法施行令9条の3では、その対象設備について、危険性・有害性の高い化学物質の製造等を行う設備(化学設備及び特定化学設備)としています。ニトログリセリン等の危険物などを対象としています。

さらに、労働安全衛生規則662条の4では、上記の作業開始までに、注文者に対して、対象物の危険性・有害性、注意すべき安全衛生事項、安全衛生を確保するための措置、事故時の応急措置を記載した文書を作成し、請負人に交付することを義務付けています。

今回の改正では、この対象設備の範囲を拡大させようとしています。
具体的には、危険性・有害性を有する全ての化学物質(法第 57 条の2第1項に規定する通知対象物)の製造等を行う設備へと拡大しようというのです。

従来、「危険性・有害性の高い化学物質」と対象を限定的に捉えていましたが、今回の改正により、ラベル表示・SDS交付・リスクアセスメントの対象となる「危険性・有害性を有する全ての化学物質」がこの規制を受けることになったわけです。

(2)職長等への安全衛生教育の業種拡大
本法60条では、所定の業種に該当する事業者に対して、新たに職務につくこととなった職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者(職長等)に安全衛生教育を行うことを義務付けています。

対象業種は、本法施行令19条に定められ、建設業や製造業(一部を除く)など6業種が定められています。

今回の改正では、この職長等に対する安全衛生教育が必要となる業種に、これまで対象外であった「食料品製造業(うま味調味料製造業及び動植物油脂製造業を除く。)」や「新聞業、出版業、製本業及び印刷物加工業」を新たに追加しようとしています。

(3)名称等の表示・ 通知義務の化学物質追加
本法57条1項では、危険性・有害性のある化学物質を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供する者に対して、その容器又は包装に、当該化学物質の名称等の表示をすることを義務付けるラベル表示義務制度を設けています。

また、本法57条の2第1項では、これら危険性・有害性のある化学物質を譲渡し、又は提供する者は、文書の交付等により、当該化学物質の名称等を通知することを義務付けるSDS制度を設けています。

さらに、本法57条の3第1項では、これら化学物質を原材料等として新規に採用し、又は変更するときなどの場面において、その危険性又は有害性等を調査しなければならないとする化学物質リスクアセスメント制度も設けています

これらの対象物質は、本法施行令18条や18条の2において、別表9に掲げる物等と定められ、現在、約700物質がリストアップされています。

今回の改正では、アクリル酸二―(ジメチルアミノ)エチル、アザチオプリン、アセタゾールアミドなど234物質を新たに追加するために、本法施行令別表9を改めようとしています。

以上が、今回の改正の主なポイントとなります。

今回の改正は、令和4年2月頃に行われる予定です。
施行日は、(1)及び(2)が令和5年4月1日、(3)が令和6年4月1日です。
なお、各種の経過措置も定められています。

各企業では、まずこれら新規制に自らが該当しないかどうかをチェックし、該当する場合は、早めに対応の準備をすることが求められます。

また、冒頭で触れたように、今回の改正は、単発の改正ではなく、労働安全衛生法の化学物質対策の抜本的見直しの第一弾であることを認識し、改正が目指す「自律的な管理」に自社がどのように対応するかを考えながら、社内対策を講じるべきでしょう。

◎「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」の報告書を公表します(厚生労働省)
⇒ https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_19931.html

(2022年1月)

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