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その4「保管基準3」

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BUN 環境課題研修事務所
長岡文明 氏

このシリーズのアシスタント、サッカー大好き。夏久愛(なつくあい)です。
昨年度入社の2年目で、総務部環境管理課で、グループ企業を含めての廃棄物管理を担当しています。
廃棄物処理法は難しくて、どんなことに注意していけばよいのか、まだまだ判らないことも多いので、「排出事業者がやっちゃいそうなミス」なんかを中心に教わっていきたいと思います。
前回は、排出事業者の排出事業所での保管基準の中の地下浸透防止や積み上げ勾配の話でしたね。今回はどんな話?
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今回はソフト面の続き。じゃ、さっそく条文を見てみようか。
省令(産業廃棄物保管基準)
第八条 法第十二条第二項の規定による産業廃棄物保管基準は、次のとおりとする。
三 保管の場所には、ねずみが生息し、及び蚊、はえその他の害虫が発生しないようにすること。
出ましたね。例の「共通基準」よね。でも、改めて考えてみると、こんなこと今の日本じゃ「常識」よね。誰が考えても廃棄物の保管場所から鼠や害虫が発生、生息してもいいなんて思わないじゃないですか。どうして、こんなことまで法令で決めているのかなぁ。
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それは「常識を守らない」人達がたまに出てくるからでしょうね。彼らに「それって常識でしょ」と言っても通じない。だからこそ、「法令違反」として「改善命令」の対象に出来る、という制度が必要なんだろうね。じゃ、次。

四 石綿含有産業廃棄物にあつては、次に掲げる措置を講ずること。
イ 保管の場所には、石綿含有産業廃棄物がその他の物と混合するおそれのないように、仕切りを設ける等必要な措置を講ずること。
ロ 覆いを設けること、梱包すること等石綿含有産業廃棄物の飛散の防止のために必要な措置を講ずること。
五 水銀使用製品産業廃棄物にあつては、保管の場所には、水銀使用製品産業廃棄物がその他の物と混合するおそれのないように、仕切りを設ける等必要な措置を講ずること。
どうして、石綿含有産業廃棄物と水銀使用製品産業廃棄物だけ、わざわざ保管基準に挙げているの?
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この2つは他の産業廃棄物には規定されていないルールがあるんだ。
そうだ。たしか、「破砕」「切断」してはいけないってルールじゃなかったかしら。
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勉強してるね。石綿含有産業廃棄物については平成18年、水銀使用製品産業廃棄物については平成30年から始まったルールで廃棄物処理法の中では比較的新しいルールだね。石綿、つまりアスベストの「害」はその形状に起因している。
アスベストの形状はストローの両端をカッターで斜めに切ったような「中空の管」。大きさは髪の毛の5千分の一。とても小さい上に空洞だから一旦飛び散ると空中を浮遊して、なかなか沈まない。これを人が吸い込むと肺の奥底まで入っていって肺胞に突き刺さる。長い潜伏期間を経た後に中皮腫といった肺がんを引き起こす。これがアスベストのリスクでしたよね。
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じゃ、水銀使用製品産業廃棄物は?
水銀使用製品産業廃棄物の代表的な物は「蛍光灯」。極々わずからしいけど蛍光を出すために水銀ガスが封入されている。水銀は水俣病の原因物質として、特に水俣条約が出来て以降は厳しく管理することが求められているってことでしたね。
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そのとおり。石綿含有産業廃棄物の代表的なものとして石膏ボードやスレート版、水銀使用製品産業廃棄物の代表的なものとしては蛍光灯があるんだけど、どちらも塗り込められていたり封入されている状態だから、その状態ではリスクは高くない。だから、特別管理産業廃棄物ではなく普通の産業廃棄物にしている。でも、運搬や保管の途中で、折ったり切ったりすれば、塗り込められている、封入されているものが飛び散らないとも限らない。そこで、他の普通産業廃棄物には無い特別なルールがある。
それが、「途中で破砕や切断をしてはいけない」ってルールですね。そのために、石綿含有産業廃棄物と水銀使用製品産業廃棄物だけ、わざわざ保管基準に挙げているんですね。
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前々回取り上げた「掲示板」に記載しておく事項としても「保管する産業廃棄物の種類(当該産業廃棄物に石綿含有産業廃棄物、水銀使用製品産業廃棄物又は水銀含有ばいじん等が含まれる場合は、その旨を含む。)」と特出しで規定しているのはそのためなんだ。
一応、「排出事業者が排出事業場で守るべき産業廃棄物保管基準」はここで一旦区切りなんだけど、なんか質問ある?
根本的な疑問が2つあります。1つはこの「保管基準」を守らなかったらどうなりますか?2つ目は「具体的な基準値」はいくらですか?
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ん~、痛いところ突いてきたね。でも、隠してもしょうがないし、法令をよく読めばわかることなので、そっと教えちゃいます。
1つ目の「保管基準を守らなかったらどうなりますか?」ですが、刑事罰は規定されていません。
じゃ、守っていなくとも「牢屋に入れられる」ってことは無いってことですか?でも、それじゃ、誰も保管基準なんて守らなくなるんじゃないですか?どうして、そんな制度にしているの?
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個人的な推察だけど、「保管基準」、「処理基準」って、とても範囲が広い。たとえば、保管上限30トンのところ、3千トン保管していても「基準違反」だし、掲示板記載事項の「管理者の氏名」を前任者のままにしていて書き換えていない時も「基準違反」となる。一律の罰則を制定しておくことは難しい。でも、刑事罰は無いけど、改善命令には結びつく。改善命令違反は刑事罰も制定されている。
と言うことは、「二段構え」ってことかしら。基準違反で程度が悪い、悪質ってときは行政は改善命令をかける。その命令にも従わない時は刑事罰を求めるってことね。
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そうだね。捉えようによっては「保管基準」「処理基準」については、行政の裁量を広く認めているって言えるかも知れないね。
2つ目の「具体的な基準値」についてはどうなの?
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これも廃棄物処理法では規定していない。理解しやすいのは「鼠や害虫の被害を出さない」をイメージしてみるといいかも。たとえば、ハエが一匹飛んでいたら「保管基準」違反と言えるか?10匹なら?100匹なら?となってしまう。
子供の口げんかレベルになってきますね。でも、「飛散、流出、悪臭、地下浸透」なんかは、具体的に数値基準も設定できるんじゃないですか?
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実は、ここも難しい点がある。と言うのは「水」、具体的には「排水」なんだけど、排水の規制、管理には「水質汚濁防止法」が、悪臭の規制、管理には「悪臭防止法」という別の法律がある。だから、排水について規制が必要なら「水質汚濁防止法」で、悪臭について規制が必要なら「悪臭防止法」で規制するべきである。下手に廃棄物処理法でも規制すると二重規制になり食い違いが生じる。別の法律が無いならまだしも、本当に規制が必要なら、そちらの法律で規制するべきだって考え方だね。この考え方でたとえば、河川に排水を放流するときは、水質汚濁防止法政令別表第1の特定施設第71号の4として産業廃棄物の焼却施設などが規定されているんだ。
なるほど。と、なると、これと同じレベルで排水を規制しなければならないのであれば、水質汚濁防止法の特定施設として規定するべきではないか、という議論が出てくる訳ですね。たしかに、設置にあたって許可の必要な産業廃棄物処理施設でもない施設に、それ以上に厳しい基準やそれと同レベルの基準を適用するのはバランスが悪いかも知れませんね。
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まぁ、がれき類の破砕施設などは、大気汚染防止法の「粉じん発生施設」として大気汚染防止法で規制を受けていたり、一定能力以上のモーターなどがあれば状況によっては騒音規制法の対象になっている時もあるんだけどね。
へぇぇ、廃棄物処理法を守るためには他の法令も知っておかないと不十分なんですね。先は遠いなぁ。
でも、とりあえず、ここまでの「排出事業者が排出事業場で守るべき産業廃棄物保管基準」についてまとめてくださいな。
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1.「排出事業者が排出事業場で守るべき産業廃棄物保管基準」は「収集運搬基準」、「処分基準」とは別個に規定されています。
2.ハード面とソフト面で規定されています。
3.ハード面としては、「囲い」「底面」の構造や「掲示板」等があります。
4.ソフト面としては「積み上げ勾配」等が決められています。
5.「保管基準」違反に直罰(刑事罰)は規定されていませんが、改善命令に繋がります。
6.「保管基準」に数値規制はありませんが、別の法令により制限を受ける場合があります。
7.廃棄物処理のたいていの場合に適用になる「飛散、流出、悪臭、地下浸透、鼠や害虫」の害を出してはならない、といういわゆる「共通基準」があります。
8.「排出事業者が排出事業場で守るべき産業廃棄物保管基準」では「保管量上限」は規定されていません。

<参考記事>

その2「保管基準3」画像1

出典:2021年2月8日 循環経済新聞

(2025年11月)

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